第三十八章 遠征部隊召集
よろしくお願いします
翌朝、朝食を済ませてから組合へと向かった。
組合の中に入ると、いつもより多くの冒険者で溢れていた。特に掲示板の前は、人だかりができている。
「姉御!」
ケインが俺たちに気付き、声を上げた。その声に釣られたように、周囲の冒険者たちが一斉にこちらを見る。掲示板へと向かうと、道を空けるように冒険者たちが左右に分かれた。
近づいて確かめると、そこには伯爵の話していた東の戦争について、詳しく記されていた。
バロメア伯爵家より、冒険者ギルドへ通達する。
現下、隣国オルドリア王国の軍勢が東部国境より侵攻し、戦線が拡大している。
バロメア伯爵家は救援のため直轄の臨時遠征部隊を編成する。そのため、下記の通り人員を募集する。
――――――――――――――
約四十名(経歴、職種不問)
冒険者マリーを本隊の指揮官に任命する。
彼女の指揮下で行動すること。
東部前線への増援および、周辺村落の防衛・斥候活動。
期間は当面の戦況が安定するまでを予定。
・参加賞金:一人につき金貨五枚(完遂後支給)
・戦果による追加報奨あり
・戦死の場合、遺族に対し金貨十枚を支給
・ギルド登録者であること
・自己の装備
・食料は戦地にて支給あり
・指揮官マリーの命令に従うこと
冒険者ギルド訓練場
明日正午まで
応募希望者は、本掲示を確認の上、ギルド受付にて氏名を記すこと。
締め切り後、直ちに部隊を編成し出立する。
バロメア伯爵家当主
ハインリヒ・バロメア
――――――――――――――
掲示を読み終えたところで、ケインが横から口を挟んだ。
「姉御、俺も参加するぜ」
胸を張ってそう言うケインに、マリーは少し戸惑った様子を見せながらも、頷いた。
「チームの人とも話し合ってくださいね」
「おう、分かった! 話してくる!」
ケインはそう言い残すと、人だかりの中へと駆け戻っていった。
そこへ、組合の職員が近づいてきて、マリーに声をかけた。
「マリーさん、出発までの手順についてご説明します。少しよろしいですか」
案内され、俺たちは組合の奥にある小部屋へと移った。
職員によれば、明日の昼に応募締め切り後、部隊の編成を済ませ、明後日にバロメアを発つ。伯爵家からの案内役が同行し、合流地点で伯爵家の兵と落ち合ってから、指揮下に入るという。移動は徒歩で二日ほどとのことだった。
その日は午後から、保存の効く食料の買い出しに時間を使った。市場を回り、干し肉や乾燥果物、堅焼きのパンなどを買い込んでいく。
一通りの買い物を終えると、クレアの店に顔を出した。
「戦地に行くって?」
クレアは少し驚いたように眉を上げたが、それ以上は詮索せず、鎧を預かると言ってくれた。
「しっかり整備しとくよ。無理はするんじゃないよ」
礼を言って店を出た。最近は、クレアの店に鎧を預けた後、全身を覆うフード付きのローブを羽織って宿まで戻るのが習慣になっている。街中を素顔で歩くのは、目立ちすぎる。
宿に戻り、夕食を終えたところで、俺はマリーに念話を送った。
(明日は軽くダンジョンに入って、杖の使い勝手を試す)
「そういえば、まだ一度も使ってませんでした」
マリーは少し驚いたようにそう言った。買ってから、慌ただしさに紛れて試していなかった事を忘れていたらしい。
翌朝、早めに起きて朝食をとり、クレアの店で鎧を受け取ってからダンジョンへと向かった。十階の門番までは、いつも通りメイスと棍で蹴散らしながら進み、門番戦で新しい杖を試すことにした。
門番の待つ部屋に入ると、マリーがまず火球を放った。槍を持つ五メートルのスケルトンが燃え上がり、こちらを向いて一歩踏み出したところで、そのまま崩れ落ちた。
続いて剣盾持ちがこちらへ向かってくる。マリーが鎖縛の魔法で足止めをかけた。光の鎖が地面から伸び、絡みついていく――以前より、明らかに範囲が広い。以前は下半身を絡め取るだけの魔法だったが、今回は全身を縛り上げていた。全身を軋ませながらも動けない巨大なスケルトン。
そこへマリーが火球を放ち、剣盾持ちも一発で崩れ落ちた。
マリーが驚いたように立ち尽くしている。
(威力が上がってるな)
「高かったですからね……」
マリーはそう返したが、杖が良いというより、杖がマリーの魔力に耐えられるようになったのだろう。
十階の門番を倒した後、迷宮を出て組合へと向かった。
組合に着くと、ちょうど募集を締め切り、これから説明を始めるところだった。明日の朝に集合すること、移動中の食事は各自で用意すること、野営地で一泊することなどの説明が続き、その後にマリーが紹介された。
「今回の遠征の冒険者部隊のまとめ役を任されたマリーです。よろしくお願いします」
ケインが拍手し、他の冒険者からも「頼むぜマリー」と声が上がる。その中に、
「おいおい、小娘じゃねぇか!」
という大きな声が割り込んだ。
場が静まり、声を上げた冒険者に注目が集まる。黒髪を無造作に伸ばした、鍛えられた体に安物の鎧の男は、少したじろいだ様子を見せたが、それでも続けた。
「こっちは命かけてんのに、小娘の命令なんか従えるか! てめぇらもどうかしてるぜ!」
ざわめきの中、組合職員が男に言った。
「あなたは確かガロさんでしたね。では、どうすれば納得されるのですか?」
「その小娘と戦わせろ。俺が勝ったら、小娘に代わって腰抜けどもを俺が率いてやる!」
「どうしますか、マリーさん」
職員が確認する。マリーは少し考えてから答えた。
「相手をしますが……あの人が怪我したらどうなりますか」
「問題ありません。こちらで対応します」
そう言って、職員は訓練場での立ち会いを提案した。
裏の訓練場に移動し、対峙することになった。相手の得物はウォーハンマーだった。
「まさか、武器なしでやるわけじゃねぇよな?」
(今後の事もある。魔法を使わずになるべく力の差を見せて勝て)
手の内を全て見せる必要はないが、人を率いるなら力を示した方が後々やりやすい。
念話で伝えると、マリーは頷き、バックラーとメイスを構えた。
「では、降参か、こちらが負けと判断したら終了とします」
他の冒険者が見守る中、職員がそう告げてから開始を宣言した。
「始めて下さい」
ウォーハンマーが唸りを上げて振り下ろされる。だがその途中、マリーがメイスで突きを放ち、ウォーハンマーを弾き飛ばした。武器はそのままケインの方へと飛んでいき、ケインが慌てて避ける。
「拾って下さい」
マリーが淡々とそう言った。
「くそっ、ここまで舐められたらもう手加減はできねぇぞ……!」
男は顔を歪めながら武器を拾い直し、構え直した。だが、そこから先は一方的だった。ハンマーが幾度となく弾かれ、叩き落とされる。最初こそ声を上げて見ていた冒険者たちだったが、やがて誰も声が出なくなった。ウォーハンマーの男が弱いわけではないことは、一目で分かる。マリーが強いのだ。
「……もう、勘弁してくれ」
やがて諦めたように、男が言った。
「他に意見のある人はいませんか。いなければ、説明に戻ります」
職員がそう告げ、場は元の空気を取り戻した。その場で明日の集合時間などを確認し、解散となった。ガロは参加を辞退したのだろうか、姿を見せなかった。
職員と細かな段取りを確認した後、宿へと戻った。
「あの人、大丈夫だったでしょうか」
マリーがぽつりと呟いた。
(問題ない。あれは伯爵の用意した冒険者だ)
「えっ? そうなんですか?」
(ウォーハンマーの扱いが少しおかしかった。伯爵も、実力の分からん奴に指揮を任せることは出来ないだろう。お前が弱ければ、奴が指揮を引き継いだはずだ。恐らく、ギルドもグルだな)
マリーは感心したように何度か頷いていた。明日に備え、早めに休むことにした。
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