↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
契約逆転 オーガと魔物使いの主従生活  作者: 山田二郎
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/51

第三十七章  バロメア伯爵からの要請

よろしくお願いします

翌朝、マリーは寝れなかったのか眠そうな顔をしていた。


荷物はいつでも出れるようにまとめて部屋の隅に置いた。マリーは腰に鉄のメイスと、新調したトレントの杖を差している。俺は硬化の棍を担ぎ、ケリュネを連れて三人で伯爵の屋敷へと向かった。


門に着くと、門番に書状を見せる。中身を検めた門番は、すぐに態度を改め、敷地内へと案内してくれた。芝生の手入れが行き届いた前庭を抜けていく途中、案内役の男が足を止めた。


「従魔は、こちらでお預かりします。何か注意点はございますか」


マリーが少し考えるように俺の方を見てから、答えた。


「特にありません。……あの、人の言葉がある程度分かるので、何かお願いすれば聞いてくれると思います」


案内役は頷き、控えていた別の使用人がケリュネの手綱代わりの縄を受け取った。ケリュネは特に抵抗する様子もなく、大人しくその場に留まっている。マリーがケリュネに干し果物を一つ与えてから、俺たちは館の方へと歩き出した。


館の前まで来ると、今度は武装した兵士が二人、待ち構えていた。


「武器も、こちらでお預かりいたします」


マリーが杖とメイスを外し、両手で兵士へと差し出す。兵士は恭しくそれを受け取った。


続いて俺が棍を差し出すと、受け取った兵士の体勢が、ぐらりと崩れた。


「うおっ……!」


支えきれず、棍はそのまま地面へと落ちた。鈍い音が響き、兵士は顔を青くしながら何度も頭を下げる。


「も、申し訳ございません……!」


もう一人の兵士が慌てて駆け寄り、二人がかりでどうにか棍を持ち上げる。よろめきながら、二人は棍を運んでいった。俺はその様子を、特に何も言わず眺めていた。


武器を預けたところで、館の中からまた別の使用人が現れ、先ほどの案内役と入れ替わるように前へ出た。


「こちらへどうぞ」


促され、俺たちは館の中へと足を踏み入れた。


正面のロビーは、天井が高く、磨き上げられた大理石の床が光を反射していた。壁には歴代の当主らしき肖像画が並び、中央には大きなシャンデリアが吊り下がっている。冒険者組合の建物とは、明らかに違う静けさが漂っていた。


廊下を進むと、両側に等間隔で扉が並んでいる。所々に立つ使用人たちが、こちらへちらりと視線を向けては、すぐに目を逸らした。マリーの緊張が、後ろ姿から伝わってくる。周囲を見渡しながら案内役についていく。


しばらく歩いた先、案内役が一つの扉の前で立ち止まり、軽くノックした。


「入れ」


中から低い声が返ってくる。案内役が扉を開けた。


執務室に、ちょっとした応接用のスペースを併設した部屋だった。奥の書き物机に向かっているのは、白髪交じりの恰幅の良い男だった。手元の書類に目を落としたまま、こちらを一瞥する。


「悪いな、少し待っててくれ」


案内役に促され、マリーが応接用の椅子に腰を下ろす。俺はその後ろに立つ。話は全てマリーに任せるつもりだった。


しばらく、羽根ペンの走る音だけが部屋に響いた。伯爵――ハインリヒ・バロメアは、最後の一枚に目を通し終えると、控えていた案内役に書類を差し出した。


「これを頼む」


案内役が一礼して部屋を出ていく。伯爵はゆっくりと立ち上がり、マリーの向かいの椅子へと腰を下ろした。値踏みするでもなく、ただ真っ直ぐにマリーを見据えている。


「ブラッディメイスのマリーと、沈黙のツヨシ。よく来てくれた」


伯爵はそう切り出すと、指を組んで軽く身を乗り出した。


「急な呼び出しですまなかったな。こちらも、急な話でな」


マリーが小さく頷く。伯爵はしばし言葉を選ぶように間を置いてから、続けた。


「東の国境で、争いが起きた。詳しいことは追って知らせが回るだろうが、既に小競り合いの域は超えた」


指を組んだ手に、僅かに力がこもるのが見えた。


「このバロメア領からも、兵を出さねばならん。それに合わせて、冒険者からも志願者を募ることになった」


伯爵の視線が、マリーからその後ろに立つ俺へと移り、また戻った。


「お前達には、その志願者たちのまとめ役を任せたい」


部屋の空気が、一段重くなった。マリーの膝の上で、拳が僅かに握られる。


「もちろん、断っても良い」


伯爵はそう付け加えたが、声の調子に、選択の余地を感じさせる響きはなかった。


「ただ、こちらも時間がない。この場で答えて欲しい」


マリーが息を詰め、俺の方をちらりと見上げる。


(受けろ)


念話でそう伝えると、マリーは一拍置いてから頷き、伯爵へと向き直った。


「……お受けします」


「受けてくれて助かる」


伯爵は僅かに頬を緩めた。


「詳しくは部下から説明させる。それと、これは準備金だ」


伯爵が手を上げると、控えていた側近が進み出て、革袋をマリーへと差し出した。ずしりとした重みが、袋越しにも伝わってくる。


そのまま案内され、俺たちは別室へと移った。


先ほどとは違い、地図の広げられた長机が中央に据えられた部屋だった。案内役に代わって、初老の側近が説明を始める。


「バロメア領からは、兵士と民兵を合わせて二百人ほど集めます。冒険者組合からは、四十人ほどを見込んでおります」


側近は地図の一点を指し示しながら続けた。


「民兵は、既に集まりつつあります。今日の夕方には、冒険者組合の方でも募集の話が出るでしょう」


「兵士と民兵はこちらで指揮を執りますが、冒険者は冒険者でまとめて動いていただくことになります」


「団体行動は難しいでしょうが、領民よりも戦いには慣れている。それを見込んでの運用です」


マリーは真剣な顔で、地図と側近の説明を交互に見比べていた。


一通りの説明を聞き終え、俺たちは屋敷を後にした。


武器を受け取り、預けていたケリュネとともに宿への道を歩く。


宿の部屋に戻り、荷を下ろしたところで、マリーが口を開いた。


「どうして依頼を受けたんですか?」


(受けない場合は俺たちが誰かの下につく事になる。それなら受けた方が自由がきく。それにここは過ごしやすい。貴族に恩を売るのも良いだろう。)


「……大丈夫でしょうか」


ぽつりと呟いた声に、俺は短く返した。


(どうとでもなる)


翌日は朝から組合に行くことにして、その日は早めに眠りについた。


少しでも面白いと思ったら、下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援してください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。