第三十三章 ばれた秘密
よろしくお願いします
「そんな……バカな……」
クレアが呆然と呟いた。
「マリー、アンタは魔法使いって言ってなかったかい?」
「はい、魔法も使います」
「まずそれがあり得ない。言っちゃ悪いが、魔物使いなんてやる奴は、魔力はあるけど魔法を使う才能のない奴だ。それに、強い魔物ほど契約維持に魔力を消費する。魔法使いで魔物使い、しかもソードエルクとオーガなんて、普通は契約が破綻する。それに、二体以上従魔にすると、咄嗟の時に魔獣への指示が混ざって、細やかな指示が通らない。そもそも、魔物との意思疎通はとても困難で、思い通りに動かすまで数年かかる事もある。他にも……あぁっ、とにかく数え挙げたらキリがないくらいあり得ないんだよ、マリー!」
最後は叫ぶように声を上げるクレア。
マリーは少し困った顔で微笑んだ。
「でも、出来てますから……」
「はぁ……一つだけ確認してもいいかい? 契約が切れたら、恐らくあなたは殺される。その覚悟はあるの?」
「いいえ。たとえ契約が切れても、この二人に殺される事は無いから大丈夫です」
クレアはマリーの目をしばらく見つめ、やがて諦めたように首を振った。
「やれやれ、弱気なお嬢ちゃんだと思ったら、こんなキマった娘だったとはね。でも、たった一人で十階を制覇した実力は本物だね」
クレアはそう言ってから、俺の方へと視線を移した。
「そっちのオーガの鎧は、一晩かかるから後で持ってきな」
そして最後に、マリーへと向き直り、真剣な声で付け加えた。
「他所で、二体の魔物使いで魔法使いだなんて、絶対にバレるんじゃないよ」
「……はい、気を付けます」
気を取り直したように、クレアは腕を組んで魔法剣を検分し直した。
「さて、こいつの買い取りだけど、うちで引き取っても構わないよ。ただし剣の性能を調べてから金額を出すから、少し預からせて貰っても良いかい?」
「はい、わかりました」
マリーは頷き、剣をクレアへと渡した。
その後、礼を言って店を出た。
店を出た頃には、既に夕方だった。少し長く話し込んでしまったが、有意義な時間だった。その足で組合の本部へと向かった。
本部に入ると、ちょうど報告や納品のピークと重なったのか、組合と、併設の酒場のそれぞれに、結構な数の冒険者がいた。これなら十階の魔石も紛れて、ちょうどいいだろう。
そのまま買い取り窓口へ進むと、途中、冒険者たちがこちらをちらちらと見ながら、何やら話しているのが耳に入った。
「あれが……」「まだ小娘じゃねぇか……」「目を合わせるな……」「血塗れのメイス……」
ヒソヒソとした声が、切れ切れに届く。気にせず窓口へ行き、マリーが袋から十階の魔石を取り出し、若い担当者の前に置いた。
若い担当者は二つの魔石を見るなり、
「えーっ! 十階層の門番を倒したんですかー!」
と大声を上げた。
一瞬の静寂の後、冒険者たちから爆発したような歓声が上がった。
「たった二人で門番をやりやがったか」「ほらな、俺は十階に行くのを見たんだ!」「今日は祭りだー!」
皆が思い思いに声を上げる。若い担当者はしまったという顔をし、マリーは戸惑っている。
騒ぎを聞きつけ、奥から年配の職員がやってきた。トレーの上の魔石を見て全てを悟ったのか、若い担当者の頭をはたきながら、こちらへ頭を下げた。
「こちらのミスです、申し訳ありません。ここでは騒がしいので、個室の方へどうぞ」
職員に促され、奥へと向かう。なるほど、先ほどの若い担当者は、わざと大きな声を出したのだろう。そう考えながらついていく。恐らく、十階を超える冒険者を把握するためだろう。
個室に入ると、改めて職員は頭を下げた。その後、迷惑料代わりに少し高めに魔石を買い取ると、続けて、ダンジョン前の買取所では今後、金額が不足する可能性があるので、魔石はこちらの本部で売却してほしいと頼まれた。困った事があれば何でも相談してくれと言って、職員は戻っていった。
組合のロビーに戻ると、宴会が始まっていた。酔っぱらいの一人がこちらに気づき、
「英雄に乾杯!」
と声を上げる。それにつられ、あちこちから乾杯の声が上がった。
味方は多い方がいいだろう。俺はマリーに念話で、冒険者に奢るよう指示を出した。マリーは嫌そうな顔をしながらもカウンターへ行き、先ほどの門番の報酬を全て置いて、併設の酒場の店員に、
「これで全員につまみを出してあげて下さい!」
と大きな声で注文した。あちこちから歓声と、エールのおかわりを求める声が聞こえる。どうやら、自分は酒を飲めないのに、他人には飲ませることになるのが嫌だったらしい。歓声と乾杯の声を聞きながら、俺たちは組合を出て宿へと戻った。
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