第三十一章 門番戦
よろしくお願いします
この階段を降りれば十階、門番のいる階だ。組合では止められていたが、正直なところ、九階までの戦いは拍子抜けするほどだった。この様子なら、十階も行けるだろう。
俺はマリーに向き直った。
(俺は十階に行く。ここで待つか)
「大丈夫です。行きます」
マリーは迷いなく答えた。俺たちは階段を降りた。
地図の通り、まっすぐな通路の先に、大きな扉が見えた。マリーの緊張が、こちらにも伝わってくる。
(ケリュネの荷物を、中に入ると同時に外せ。中の様子が分からない以上、ケリュネにも戦ってもらうかもしれん)
「分かりました」
扉の前まで進み、俺はその扉を押し開けた。
中は、天井の高い大きな部屋だった。薄暗く、奥の壁までは見えない。その闇の中に、二つの巨大な影が見えた。
耳を前に向け、警戒するケリュネから荷物を降ろし、俺たちはゆっくりと前へ出た。見えてきたのは、高さ約五メートルはあろうかというスケルトンだった。一体は盾と剣を持ち、もう一体は槍を構えている。距離はおよそ二十メートル。敵はまだ動かない。
(マリー、ここから火球を撃てるか)
「やってみます」
マリーは呼吸を整え、魔力を練り、ゆっくりと火球の詠唱を紡いだ。杖の先から放たれた炎が飛び出し、槍持ちの門番スケルトンへと命中する。
槍持ちが燃え上がるのを合図に、剣持ちがこちらへと突進してきた。
(槍持ちを足止めしておけ)
マリーにそう伝え、俺は飛び出した。
風切り音を唸らせる剣の振り下ろしを、半歩外側へ躱し、骨盤あたりの骨を殴りつける――その直前、視界に盾が割り込んできた。盾と拳がぶつかり、体の奥にまで響くような重い音が鳴る。咄嗟にしゃがみ込むと、頭上を剣が左から右へと唸りながら通り過ぎていった。
一歩下がり、敵の全体を視界に収める。浅い階層のスケルトンとは、技量も力も、大きさもまるで違う。視界の外から、鎖縛と火球の詠唱が聞こえてくる。
スケルトンが一歩踏み込み、剣を振り下ろす。素早く下がって躱す。しっかり備えていれば、躱すこと自体は難しくない。だが、こちらの攻撃も相手の盾に防がれる。
数度の攻防が繰り返されたが、どちらの攻撃も決定打には至らない。膠着状態が続いたその時、剣持ちスケルトンの頭が突然燃え上がった。
スケルトンの意識がこちらから逸れ、マリーの方へと向く。体ごと振り向いたその隙を、俺は見逃さなかった。渾身の力で殴りつける。うっすらと光を帯びた右拳が腰の骨を粉砕し、スケルトンは上半身と下半身に分かれて地面に倒れ込むと同時に、バラバラに崩れ落ちた。
肩から力を抜き、マリーを見る。ケリュネと一緒に、こちらへと駆け寄ってくるところだった。
「大丈夫でしたか?」
(助かった)
「エヘヘ」
魔石を拾うため、倒したスケルトンの方へと歩いた。マリーは拳ほどの大きさの魔石を拾い上げ、袋にしまい込む。
「あれ?」
マリーの不思議そうな声に目を向けると、骨に紛れて一振りの剣が落ちていた。鞘に納められたその直剣は、傷一つなく、冒険者の形見には見えない。マリーから受け取り、剣を抜いてみる。刀身には、うっすらと文字のような模様が入っていた。
俺たちに剣は必要ないが、今腰に下げているものより、明らかに良いものに見える。一度持ち帰ってから考えることにした。
マリーに渡しながら、そう伝える。受け取ったマリーが、何かに気づいたように目を見開いた。
「この剣、かすかに魔力に反応します」
そう言って剣を抜き、魔力を通してみせるマリー。とたんに、刀身が炎に包まれた。
「きゃっ!」
驚いたマリーは、咄嗟に剣を放り投げた。剣は十秒ほど燃え続けた後、何事もなかったかのように、ただの剣に戻る。俺はそれを拾い上げ、鞘に納めた。
とりあえず剣のことは後回しにして、次の階を見てから帰ることにした。
まず大部屋をひと通り見て回り、それから次の階へ向かうことにした。
薄暗い部屋の中を歩いていると、隅の方に、直径二メートルほどの光るサークルを見つけた。
(これが何か分かるか)
「分かりません……」
マリーが首を振った。罠にしては、置かれている場所がおかしい。門番の間の隅というのも、意味ありげだった。
少し考えてから、俺は腰に下げた剣をサークルの中へと投げ入れてみた。剣は地面に転がったが、それ以上は何も起こらない。特に変わった様子はなかった。
(もし何かあったら、ケリュネと一緒に地上へ戻れ)
そう伝え、俺はサークルの中へと足を踏み入れた。何も起きない。剣を拾い上げ、周囲を見回す。
マリーに確認を取り、彼女とケリュネもサークルの中へと入ってきた。
その瞬間、サークルが一気に強く輝き――そして、消えた。
「消えましたね」
マリーが呟いた。周囲の景色に、大きな変化は見当たらない。とりあえず、そのまま先へ進むことにした。
少し進むと、前方にスケルトンが一体、立っているのが見えた。門番のいるこの階にも、他のモンスターが出るらしい。
(マリー、鎖縛の魔法だ)
念話でそう伝えると、マリーは頷き、詠唱を紡いだ。
「鎖縛!」
光の鎖がスケルトンに絡みつき、そのままバラバラに崩れ落ちる。骨が乾いた音を立てて床に散らばった。落ちた魔石は、色の薄い、小さなものだった。
薄暗闇の向こうに、等間隔に並んだ柱が見えてきた。見覚えのある光景に、俺は思わず足を止めた。
――ここは、一階だ。
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