第二十五章 初めてのダンジョン
この章から改行や空白を増やして見ました。
第二十五章 初めてのダンジョン
宿を出て、俺たちはダンジョンへと向かった。
入り口には、簡素な受付小屋が設けられていた。マリーが許可証を提示すると、職員はすんなりと通してくれた。だが、鎧姿の俺を見た職員は、人間だと思ったのか、当然のように入場料を求めてきた。
「そちらの方は、許可証をお持ちでないようですね。未登録の場合、入場料をいただいておりますが」
マリーが戸惑うようにこちらを見た。俺は少しだけ頷き、腰に下げた財布から銀貨を一枚支払った。先日、一人で買い物ができると確認してから、少しお金を持ち歩くようにしていた。
階段を降りてダンジョンに入った。
ダンジョンの内部は全体的に薄暗く、壁や柱のあちこちに、淡く発光する石が申し訳程度に埋め込まれている。足元の土の感触は硬く、少しだけ独特な臭いがした。等間隔に並んだ石の柱が、広い空間を規則正しく区切っている。
そこかしこに、白骨の人影が点在していた。武器も持たず、ただ棒立ちのまま揺れている。後から入ってきた冒険者の一団が、そんなスケルトンには目もくれず、脇をすり抜けて奥へと進んでいく。
「あっちに階段があるんだと思います」
マリーがそう呟きながら、ケリュネの首筋を軽く撫でた。ケリュネは周囲の気配を探るように、耳をぴくぴくと動かしている。
スケルトンの方へ近づくと、緩慢な足取りでこちらへと寄ってきた。
(やってみろ)
念話でそう伝えると、マリーは杖を強く握り締め、しっかりと魔力を練り込んだ。
「――縛鎖よ、その身を戒めよ!」
放たれた光の鎖が、スケルトンの全身を一気に締め上げる。骨の軋む音が響いたかと思うと、次の瞬間には、そのままバラバラと崩れ落ちていった。
マリーはぽかんと口を開けたまま、崩れた骨の山を見下ろしていた。
俺も付近のスケルトンに近づき、試しに軽く拳を打ち込んでみた。ろくに力も込めていないのに、骨は粉々に砕け散る。
俺は次のスケルトンに近づくと、敢えて何もせずにいた。相手はそのまま腕にしがみつき、鎧の表面に噛みついてくる。ガリガリと、鎧を齧るような音が響く。だが、鎧の表面にかすかに傷がついただけだった。
(この程度なら、マリーが直接殴っても、倒せるかもしれないな)
ふと、そんなことを思った。
俺は崩れ落ちたスケルトンの残骸から、薄い赤色をした小さな魔石を拾い上げた。しばらく眺めてから、興味を失い、その場に放り捨てた。
一階の様子は、これでおおよそ掴めた。俺たちは奥へと進み、下へと続く階段を見つけた。
階段を降りた先は、幅三メートル、高さ三メートルほどの通路になっていた。地面は一階と同じ硬い土だが、壁と天井は薄暗く、視界の先は闇に沈んでいる。
通路の奥から、かすかな足音が聞こえてきた。闇の向こうから現れたのは、一階と同じ、武器を持たないスケルトンだった。
(武器を持ってないな)
「一階のスケルトンと同じに見えます」
マリーがそう答えながら杖を構えた。今度は先ほどよりも、肩の力が抜けているのが分かった。
「――縛鎖よ、その身を戒めよ!」
光の鎖が絡みつき、軋みを上げる。そのままマリーは続けて火球の詠唱を紡いだ。放たれた炎が直撃し、スケルトンは為す術もなく崩れ落ちた。
「やっぱり、弱いですね……」
小さな魔石を拾い上げる。一階のものよりも、僅かに色が濃い気がしたが、大した違いはなさそうだった。
さらに歩を進めると、今度は暗闇の奥から、ボロボロの剣を持ったスケルトンが姿を現した。杖を構えようとするマリーを制し、俺は念話を飛ばした。
(ケリュネに行かせろ)
マリーが頷くと、ケリュネが軽やかに前へと躍り出た。角の一振りで、スケルトンの持つ剣は呆気なく砕け散る。返す一撃で、スケルトンそのものも粉々になった。剣を振るう暇すら、与えなかった。
小さな魔石を回収し、俺たちはさらに奥へと進んだ。それから数回ほど、二階で戦いとも呼べないような戦いを繰り返した。倒されたスケルトンはバラバラに崩れ、持っていた剣も急速に朽ち果てていく。手に入るのは、本当に小さな魔石だけのようだ。
(魔法を使い続けて疲れないのか)
戦闘後、ふと気になって俺はマリーに尋ねた。
「オババのところにいた頃は、呪符を使いすぎると頭が痛くなったりして……魔力が足りなくなる感じがあったんですけど」
マリーはそう言いながら、少し首を傾げた。
「最近は、そんなに魔法を使ってないからか……不足してる感じは、あんまりないです」
その返事を聞いて、俺は腰に下げたまま使用していなかったショートソードを抜き、マリーに渡した。
(それで倒してみろ)
マリーは戸惑いながらも杖をしまい、前からやって来ていたスケルトンに対して剣を構えた。
「……えいっ!」
気合の声とともに斬りかかった瞬間、振りかぶった勢いのまま、手から剣がすっぽ抜けた。剣はそのままケリュネの方へと飛んでいき、ケリュネは面倒くさそうに角でそれを払い落とした。
その隙に、スケルトンがボロボロの剣で斬りかかってくる。マリーは咄嗟に左手のバックラーで受け止めた。思いのほか大きな音が響き、相手の剣が弾かれる。
俺は小さくため息をつき、そのままスケルトンを仕留めた。
マリーが地面に落ちた剣を拾い上げ、汚れを軽く払ってから、申し訳なさそうに差し出してきた。
「私に、剣は……少し難しいみたいです」
剣を受け取って腰に戻し、今日のところはここまでにしておくことにした。俺たちは来た道を戻り、地上へ向けて引き返した。
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