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契約逆転 オーガと魔物使いの主従生活  作者: 山田二郎


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第二十三章 行かないダンジョンの話

よろしくお願いします

馬車が街道を進む間、護衛の男は語り始めた。歳の頃は四十代半ばだろうか、日に焼けた肌に無精髭を生やし、腰には使い込まれた片手剣を提げている。

「フェルンハイムのダンジョンは、街のすぐ北にあるんだ。入り口は石で出来た扉のない門、みたいなもんだな。初心者はまずは組合でしっかり説明を聞きな。揉め事の原因になるから、絶対にいきなり入るなよ」

マリーは真剣な顔で頷きながら、懐から取り出した紙にペンを走らせている。護衛はそれを横目に見ながら、続けた。

「出てくるのは鉱石系のゴーレムだ。石の巨人、石のオオカミ、石のトカゲ……見た目も動きも、まるっきり生きた岩そのものさ。倒すと体がバラバラに崩れて、その瓦礫の中に少しだけ色の違う塊が混じってる。それを持ち帰るのが、俺たちの仕事ってわけさ」

護衛は淡々と続けた。

「奥に行くほど敵は強くなるし、奥の方が希少な鉱石が出やすい。純度も高くなるらしいな。ダンジョンの途中には下に続く階段があって、どこまで深い階層まであるのかは、正確には誰も知らねえ。俺が行ったのはせいぜい五階層ってとこだ」

マリーは聞き逃さないよう、忙しなくペンを走らせている。

「ただし、な。武器は剣だと刃毀れするし、矢もダメージが少ない。だから鈍器がメインになる。魔法も、炎系はほとんど効かねえ。何より厄介なのが、ドロップする鉱石がとにかく重いってことだ。だからみんな一階から六階あたりで稼いでる。それ以上潜ると、むしろ稼ぎが減るらしいぜ」

「減るんですか?」

マリーが思わず問い返すと、護衛は苦笑した。

「持ち帰れる量に限りがあるからな。深く潜るだけ時間も体力も食うのに、運べる鉱石は変わらねえ。俺には五階のモンスターが精一杯だったから、そもそもそれ以上潜ろうとは思わなかったがな」

「出入り口の近くは、大きなクランが縄張りにしてる。俺たち個人でやってる連中は、少し離れた場所で戦うことになるな」

「沢山の人が倒しても、モンスターは居なくならないんですか?」

マリーが尋ねると、護衛は肩をすくめた。

「いつの間にか増えてるんだよ。倒したはずの通路の行き止まりの方から、モンスターが出て来たこともある。正直、どうなってるか誰にも分かってねえ。天井から染み出すように出てくるのを見たって奴もいるし、壁から出たって言う奴もいる。だが本当かどうかは怪しいもんだ。俺は見たことねえよ」

「おじさんはダンジョン探査の他に、護衛もしてるんですか?」

マリーがそう尋ねると、護衛は少し照れくさそうに笑った。

「ダンジョンはほとんど引退だ。仕事がない時は浅い階層で小遣い稼ぎをする事もあるが、ダンジョン内は薄暗くてずっと気を張るし、ちょっとした油断で死んじまう奴もいる。俺達は長年潜ってたからそれなりに戦えるし、力も強い。町に伝もあるから、ある程度年取った奴はこうやって護衛や荷運びの仕事をしてるんだ。盗賊なんぞ久々で少し焦ったがな。今日はお嬢ちゃんのおかげで助かったぜ」

護衛はそう言って笑うと、少し声を和らげて続けた。

「まあ、お嬢ちゃん無理はするなよ。鎧の相棒とよく相談するんだな」

マリーは俺の方をちらりと見て、小さく頷いた。

「はい、頑張ります!」

日は傾き始め、遠く地平線にフェルンハイムが見えていた。

フェルンハイムに到着すると、俺はマリーに体力は大丈夫か尋ねた。

「平気です。ここのダンジョンに行くんですか?」

俺はマリーにこれから徒歩で東へ向かう事、しばらく速度重視で進む事を伝えた。

「分かりました。大丈夫です!」

その後休む間もなく、俺たちはその足ですぐに町を出た。ここに留まっていれば、万が一馬車の記録を辿られた時に足取りが露見しかねない。ダンジョンの街だと分かれば、こちらの行方を調べるだけでも時間がかかるはずだ。

王国の南東にあるダンジョン街を目指し、俺たちは徒歩で街道を離れた。鎧は袋にしまい込んだ。重ねて畳めば、意外なほどコンパクトに収まる作りになっている。移動速度を上げるために、マリーはケリュネの背に布を重ねて敷き、角に縄を結んで手綱代わりにすると、その背へと跨った。思いのほか安定しているらしく、揺れも少ないようだった。

街道から少し離れた獣道を、馬車よりも速いペースで進んでいく。一晩、野営を挟みながら歩き続け、夕方になって見えてきた小さな町へと、鎧姿となって入った。

いくつもの町を素通りしてきたおかげで、これで足跡は十分に断てたはずだ。これ以上進めば、マリーの体力が保たない。宿屋で夕食を終えると、マリーは疲労からかすぐに眠りについた。俺の方も、野営中はろくに休んでいなかったこともあり、久々に深く眠り込んだ。起きた時には太陽は真上近くにあった。

宿の朝食は、既に片付けられた後だった。仕方なく、昼食と道中用の保存食を買い込みながら、馬車の駅を探して回った。確認すると、明日の午前中に東へ向かう乗合馬車が出るという。

宿屋へと戻り、買い込んだ昼食を部屋で広げた。串に刺さった肉を香辛料で味付けし、焼き上げたものをパンで包んだ食べ物だった。香ばしい匂いに誘われるまま、俺は次々と平らげていく。マリーも美味しそうに食べていた。

その日は宿でもう一泊し、翌朝から再び乗合馬車の旅を続けた。道中、魔物の襲撃や馬車の故障などのトラブルを経験しつつ、やがて目的地――バロメアに到着した。


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