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契約逆転 オーガと魔物使いの主従生活  作者: 山田二郎


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第十五章 使い魔契約

よろしくお願いします

マリーは何かを決めたように頷き、森の中を歩き始める。周囲に意識を巡らせながら、魔物の気配を探っていった

森を進み始めてすぐ、大木の根元に何か動くものが見えた。丸々と太った胴体、八本の節くれ立った黒い脚――大きな蜘蛛型の魔物だった。

見つけた瞬間、マリーが素早く杖を構えた。

「紅蓮よ、灼き尽くせ!」

火球が真っ直ぐに蜘蛛の胴体を捉え、燃え上がった。蜘蛛は短く痙攣すると、そのまま動かなくなった。

「……よし」

マリーが小さく息を吐いた。

しばらく進んだところで、頭上の梢が揺れた。見上げると、緑がかった毛並みの猿が二匹、こちらを見下ろしていた。

一匹が枝を蹴って距離を詰めてくる。マリーは咄嗟に杖を向け直した。

「紅蓮よ――」

放たれた火球は、身を捻った猿にわずかに逸れ、幹に着弾して木の幹の表面を焦がした。

「あっ……!」

焦ったマリーの声を聞きながら、俺は既に動いていた。飛びかかってきた猿の腕を掴み、そのまま勢いを利用して幹へと叩きつける。鈍い音が響き、猿はずるりと根元に崩れ落ちた。

その隙を突くように、もう一匹が背後から飛びかかってくる。振り向きざま、俺は拳を横に薙いだ。骨の軋む感触が伝わり、猿は弧を描いて茂みへと消えていった。

辺りが静かになると、マリーが強張った表情のまま、こちらを見上げた。

「あ、ありがとうございます……」

(気にするな。それより、先を急ぐぞ)

念話でそう伝えると、マリーは頷き、乱れた息を整えながら杖を握り直した。


やがて、木々の合間に一頭の獣が姿を現した。角の生えた鹿型の魔物――脚は長く引き締まり、額から伸びる角は刃のように鋭く輝いている。ソードエルクだった。

(ちょうどいい、あれにしろ)

「えっ、はい、分かりました」

マリーは慌てて杖を構え直した。

ソードエルクは、こちらの姿を認めるなり、鋭く嘶いて地を蹴った。角を低く構え、真っ直ぐに突進してくる。

「拘束!」

マリーが叫ぶと同時に、光の鎖がソードエルクの後ろ脚に絡みついた。だが、ソードエルクは怯むことなく、首を振って角で光の鎖を斬り裂いた。

「ど、どうしよう……!」

マリーの動揺が伝わる。

(重ねがけしろ)

俺の指示に、マリーは矢継ぎ早に拘束の術を放ち続けた。一度、二度と鎖が斬られても、その都度新たな鎖が絡みつく。ソードエルクは苛立ったように咆哮を上げ、なおも突進を続けようとしたが、次第に脚の動きが重くなっていった。

三度目、四度目と鎖が重なるうちに、ソードエルクの身体は完全に雁字搦めとなり、身動きが取れなくなった。それでも尚、抵抗するように体を震わせている。

(火の玉で脅して契約しろ)

マリーは頷き、杖を構えると、ソードエルクの横の地面めがけて火球を撃ち込んだ。

「紅蓮よ、灼き尽くせ!」

爆発音と土煙が上がり、ソードエルクは大きく身を竦ませた。抵抗の意志が、そこで明らかに弱まったのが分かった。

その隙に、マリーは震える手で契約の詠唱を紡いだ。杖の先から淡い光が伸び、ソードエルクの額に触れる。

「我が声に応え、契りを結べ……!」

光がソードエルクの体を包み込み、しばらくして静かに消えていった。ソードエルクは荒い息を吐きながらも、抵抗の色を失い、大人しく地面に伏せていた。

「……契約、成功しました」

マリーが安堵の息を吐きながら報告した。自分の力だけでやり遂げたことに、まだ実感が追いついていない様子だった。

契約を終えたソードエルクは、拘束の光が解かれると、ゆっくりと体を起こした。警戒するような目でこちらを窺っていたが、暴れる素振りは見せない。

マリーが恐る恐る近づき、その首筋にそっと触れると、ソードエルクは僅かに身を震わせただけで、大人しくされるがままになっていた。

「大丈夫そうです……思ったより、落ち着いてます」

そのまま角にもそっと指を這わせる。

「あ……こっちは、思ったより鋭くないんですね」

先ほど突進してきた時の、刃のような鋭さとはまるで違う。今は指先で触れても危なげのない、鈍い光を放つだけの角だった。

(臨戦態勢になると、魔力で強化されるのかもしれん)

念話でそう伝えると、マリーは興味深そうに頷き、もう一度角を撫でた。

俺はソードエルクの体格を一瞥し、その脚の逞しさを確かめた。

(荷物を乗せて帰るぞ)

念話でそう伝えると、マリーは頷き、背負っていた荷袋をソードエルクの背に括り付けた。ソードエルクは特に嫌がる様子もなく、その重みを受け入れていた。

森を出て街道に差し掛かる頃には、日はすでに傾き始めていた。

ソードエルクを連れて歩く一行を見て、道行く人々が驚いたように振り返る。

(これで、もう少し奥まで行けそうだな)

荷運びの負担が減れば、これまで足を踏み入れられなかった場所にも手が届く。俺はそう考えながら、街の門へと歩みを進めた。


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