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契約逆転 オーガと魔物使いの主従生活  作者: 山田二郎


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第十四章 練習と提案

よろしくお願いします

翌日、俺たちはいつもの入り口から少し離れた場所を選んで森に入った。魔法で騒がしくすれば、周りの魔物が反応したり、他の冒険者から苦情が出たりするかもしれない。人目につくのは得策ではないと判断してのことだった。

「こっちなら、あまり人も来ないと思います」

マリーはそう言いながら、慣れない道を進んでいった。

途中、低木の影の中から猪に似た魔物が飛び出してきたが、俺はそれを一撃で殴り倒し、そのまま道の脇に転がしておいた。しばらく進むと、今度は右前方の木の上から何かの気配がしたが、降りてくる前に石を投げつけて追い払う。マリーはその様子を横目に見ながら、黙々と先を歩いていた。

しばらく進んだところで、木々の隙間から大きな岩とその周囲が開けた広場のような場所が見えてきた。ここなら魔法を試すのにちょうど良さそうだ。

広場に足を踏み入れると、中心の大きな岩が不意に動いて俺に襲いかかってきた。岩そのものだと思っていたそれは、分厚つくゴツゴツした甲羅を持つ亀型の魔物だった。甲羅だけで体高約2メートル、全長4メートル。岩肌に擬態し、通りかかる獲物を待ち構えていたらしい。

首を素早く伸ばし一瞬で噛みついてくる。俺は片手で亀の頭を弾き、距離を取った。

弾かれた亀は苛立ったように大きく口を開け、威嚇するように唸った。開いた口の中には、小さな歯がびっしりと並んでいる。見た目に反して、噛みつかれれば只では済まなそうだった。

(ちょうどいい的だな)

俺はマリーに向けて念話を飛ばした。

(拘束と火球、試してみろ)

マリーは一瞬躊躇いを見せたが、緊張した面持ちで頷き新しい杖を構えた。

「――縛鎖よ、その身を戒めよ!」

杖の先で魔力がうねり亀の下の地面から淡い光の鎖が放たれ、亀の前足と甲羅に絡みついた。亀は僅かに身をよじったが、拘束は断ち切れない。亀の魔獣を完全に抑えこんでいる。以前の呪符とは比較にならない、確かな拘束力だった。

「効いてる……!」

マリーが驚いたような声を上げた。

(次は火の魔法だ)

俺の指示に、マリーは続けて杖を構え直し集中した。

「紅蓮よ、灼き尽くせ!」

放たれた炎の塊が、亀の頭部付近に直撃した。亀の頭部周辺が燃え上がる。甲羅に守られていない急所を的確に捉えたのか、亀はしばらく暴れたが、やがて短い呻き声を上げるとそのまま動かなくなった。一撃だった。

「す、凄い……」

マリーはそう呟きながらも、どこか他人事のような口調だった。自分がやったことへの実感が、まだ追いついていないようだった。

(コイツの金になる部位は?)

俺が尋ねると、マリーは討伐対象を観察しながら答えた。

「甲羅の中に、魔石があるはずです……」

俺は亀の甲羅を片手で持ち上げ、反対の手で亀の裏側を力任せに殴り付けた。甲羅の割れた部分から手を奥に突き刺し、大振りな魔石を取り出す。手際よく作業を終えると、マリーがそれを袋にしまい込んだ。

魔法の威力を確かめたところで、俺はふと思いついたことを試してみることにした。

(俺に火の玉を打ってみろ、魔法の威力を試す)

「え……?」

マリーが戸惑いをみせながらも、杖を構えた。

「打てません……」

(いいから気にせずに打て)

「――っ、ぐっ……! やはり、打てません」

マリーは何度か杖を構え直したが、俺に向けて魔法を放つことは、どうしてもできないようだった。

「おそらく、使い魔契約の関係だと思います。主に危害を加える術は、発動しないようになってるみたいで……」

なるほど、と俺は納得した。都合のいい制約だ。

魔法の威力を見たところで、俺は念話を送った。

(予定変更だ)

マリーが不思議そうにこちらを見た。

(この森で、手頃な魔物をお前の使い魔にするぞ)

「私の……使い魔、ですか?」

マリーが戸惑った声を上げた。奴隷探しが不発に終わった以上、護衛の代わりになる存在は、まだ確保できていない。ならば、この森で調達すればいいと考えた。

(この森で護衛に向いた魔物は何がいる)

俺がそう尋ねると、マリーはしばらく考え込んだ後、いくつか候補を挙げ始めた。

「ケットシーは、身軽で索敵にも向いてますし、頭も良くて多少の魔法も使えます。あとは、ウルフ系なら足も速くて、噛みつく力もそこそこ強いので、護衛には向いてるかと……」

猫系の魔物を勧めるマリーの声には、以前エルザの従魔を見て感心していた記憶がそのまま滲んでいるようだった。

(却下だ)

俺は即座に切り捨てた。

(荷物を持てるやつにしろ。護衛だけじゃ意味がない)

マリーは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに神妙に頷いた。

「むぅ……分かりました」

小さく唸るような声で答えると、マリーは再び考え込んだ。


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