第十二章 護衛と奴隷商
よろしくお願いします
組合までデカい熊を担いで戻った俺達は後の事をエルザ達に任せ宿に帰った。
宿の部屋に入ると、俺は返り血で汚れた服を脱ぎマリーに
(これをきれいにしてくれ)
と念話で伝えた。マリーが血染めの服を見て困った顔をした後、受付に行き宿の主人へと差し出した。おそらく洗濯のサービスでもあるのだろう。
主人はそれを一目見た瞬間、顔を引きつらせた。無言のまま両手で受け取ると、逃げるように奥へと下がっていった。
夜、横になりながら俺は今日の戦いを思い返していた。マリーは終始、俺の後ろに下がっていた。簡単な自衛の対策はしたが、森の奥ではマリーの力では心許ない。
今日は、俺が四本腕の熊を相手取っている間、マリーの側にはガレンたちがいた。だが次も同じ状況とは限らない。もし俺が別の敵と組み合っている最中に、マリーだけが狙われたら――何か手を打つ必要がある。考えこむうちに夜は更けていった。
翌朝、マリーに森で護衛を付ける話をした。納得した表情のマリーは、組合併設の食堂で朝食を摂っているガレンの姿を見つけた。
マリーが声をかけると、ガレンは片手を上げて応えた。少し思い切ったように、マリーが話を切り出した。
「あの、少し相談があるんですけど……この子が戦っている間の、私の護衛を探してるんです」
「護衛か。信用できる伝手はあるのか?」
「いえ、特には……」
マリーが首を振ると、ガレンはしばらく考え込んだ。
「なら、奴隷を買うって手もあるぞ。ブラッディベアの金が入れば懐に余裕も出るだろ」
「奴隷、ですか……」
マリーが戸惑った様子を見せると、ガレンは続けた。
「戦える奴隷なら、裏切る心配もないし、方針で揉める事も無い。この街に一軒、そういうのを扱ってる店があるはずだ」
「その店、どこにあるんですか?」
マリーが尋ねると、ガレンは簡単に道順を教えてくれた。マリーは礼を言い、俺の方を振り返った。
(昨日の獲物の分配が終わったら行くぞ)
念話でそう伝えると、マリーは頷いた。
査定にずいぶん時間がかかったらしくエルザに声をかけられたのはその日の夕方だった。
「さて、昨日の分配だけど……今回の採取品と、ブラッディベアの取り分は四等分でいいわね?」
ガレンもバルドも、異論なく頷く。
「俺は構わねえ」
「当然だな」
マリーは少し戸惑ったように俺を見上げた。
(どうしますか……?)
(問題ない)
短く念話で返すと、マリーは安心したように頷く。
「はい、それでお願いします」
エルザはその返事を聞いて、小さく笑みを浮かべた。
「じゃあ決まりね」
一度言葉を切ると、今度は真面目な表情になる。
「それと――親のブラッディベアの素材代は、全部マリーが受け取ってちょうだい」
「えっ!?」
思わずマリーが目を丸くした。
「で、でも……」
「でもじゃないわ。」
エルザは首を横に振る。
「あれは私たちじゃ絶対に勝てなかった。あなたの従魔が倒した獲物よ。私たちが貰う理由はないわ」
ガレンも腕を組んだまま苦笑する。
「正直、命を助けてもらった上に報酬まで欲しいとは言えねえな」
バルドも大きく頷いた。
「むしろ借りができたくらいだ」
三人の視線を受け、マリーは再び俺を見た。
(……どうしましょう?)
(貰っておけ。遠慮する理由はない)
俺がそう答えると、マリーは小さく息を吸い、三人へ深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。ありがたく、いただきます」
「それでいいのよ」
エルザは満足そうに微笑み、ぱん、と手を打った。
「じゃあ今日は臨時収入も入ったし帰ったら美味しいものでも食べましょう!」
そう言って話を締めくくった。
翌日、教えられた店に向かうと、そこは想像していたよりも遥かに立派な建物だった。磨き上げられた木の扉、丁寧に手入れされた前庭。奴隷と聞いて、ボロボロの服で檻に押し込められている姿を思い浮かべていたが、実際に店内を覗くと、そこにいる者たちは皆、清潔に身なりを整えられていた。
出迎えた店主は、恰幅の良い、宝石のついた指輪を何個もはめた中年の男だった。値踏みするような視線で、こちらの装備や身なりを一通り遠慮なく見た。
「これはこれは……オーガの従魔をお連れとは、珍しい客人ですな。どのような奴隷をお探しですかな?」
「戦える奴隷を、探しています」
マリーがそう切り出すと、店主は揉み手をしながら奥へと案内した。並べられていたのは、屈強な体格の男たちばかりだった。
「戦える奴隷でしたら、この辺りが」
(男はダメだ。女の奴隷を見せろ)
俺が念話でそう伝えると、マリーがそのまま言葉にした。店主は困ったように眉を下げた。
「女奴隷は、すぐに売れてしまいましてね。まして戦える女奴隷となりますと、滅多に出回らない高級品なんですよ。今は在庫がありませんな」
期待していたものは手に入らなかった。マリーは少し肩を落としながら、店主に礼を言い、店を後にした。
店を出て通りを歩きながら、俺はふとあることを思い出して念話で伝えた。
(そういえば、お前は魔法が使えたな。確か俺と契約した時に魔法を使っていたはずだ)
マリーは少し驚いた様子を見せてから、返事をした。
「使ったことのある魔法は、灯りだけです。でも威力が弱くて……それでオババに、呪符の作り方を教わりました。呪符を作るために、拘束と火球の魔法は習っています」
一生懸命に説明しようとするその様子から、劣等感のようなものが滲んでいるのが伝わってきた。
魔法の威力を確かめるために、武器屋を訪れた。店に入ると、店主は俺の姿に一瞬たじろいだものの、すぐに用件を聞いてきた。
「杖? うちは扱ってないよ。杖なら魔法屋だ」
店主は場所を教えてくれながら、最後に一言付け加えた。
「あそこの店主、ちょっと商売っ気が強いところがあるから、値段には気を付けな」
礼を言って、武器屋を後にした。
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