第37話 約15年
私は高校生たちが帰った後、急いで化粧をし直す。
クローゼットを開き、着ていく服を選ぶ。
ここで少し時間がかかった。
やっと服を選び終えると、駅に向かい電車に乗る。
向かう先は大泉学園。
そこからバスに乗る。
アパートが見えてきた。
まずは表札を確認。
小早川と書かれている。
間違いない。
ここが先生の家だ。
胸がドキドキする。
チャイムを押すか押さないか。
覚悟を決めて押すが反応がない。
もう一度押したが、人の気配はなかった。
仕方ないのでアパートから少し離れたところで待つことにした。
しばらくすると1人の男性が通った。
白髪でくたびれた感じの男だ。
なんとなく目で追うと、その男が小早川先生の家に入っていく。
一瞬信じられなかった。
あのかっこよかった先生が。
人違いじゃないかと思った。
ここで先ほどの高校生の言葉を思い出す。
「あなたは小早川さんに良い印象をお持ちのようだ。それが崩れることになる」
こういう意味だったのか。
でも私の気持ちは揺るがない。
ドアに行きチャイムを押す。
「はい」
返事があった。
ドアが開く。
先生が私を見つめる。
「お久しぶりです、小早川先生。田所です」
先生は驚いている。
そして「何故来た?」
「先生に会いたくて」
「私は誰にも会いたくない……」
「わかっています。それでも私は会いたかったんです」
「私はもう、全てのことに諦めている。人並みの生活にも、な」
「先生がどう思おうと、私にとってはいつまでも先生です」
「私は最低な男だ。頼むから先生と呼ばないでくれ」
「先生……小早川さん、あれからずいぶん経ちましたね」
「そうだな。もう全て遠い過去のことだ」
「でも私にとっては、まだまだ数年前程度のことだと思っています」
「私にとってはもっとずっと昔のことだ」
「小早川さん、よかったら私と暮らしませんか?」
「何を言っているんだ。私はもう全てを捨てたんだ」
「それでもです。先……小早川さんが私の家に来てもいい。それとも私が小早川さんの家に行ってもいい」
「……」
「小早川さんお願いします」
「言ったろ。私は全てを捨てたと」
「では時々会って下さい。それぐらい教え子のわがままを聞いて下さい……」
小早川さんは何も言わずに私を見つめた。
「私には人に会う資格がもうないんだ。頼むからそっとしておいてくれ」
そういうとドアを閉めてしまった。
「小早川先生!」
少し経ってからドアの向こうから、小さく「ありがとう」と聞こえた。
私は泣きながら、家を後にした。




