第30話 再び田所さん
電灯さんを残して、田所さんの家に向かった。
田所さんの一軒家に着きチャイムを鳴らす。
「あら、また来たの?」と出てきた田所さんが言う。
「何度もすいません。捜査に行き詰まりまして」と僕が言う。
「そうなんだ」少し渋い顔をしたが僕たちを中に入れてくれた。
田所さんの部屋に入ると「適当にくつろいで」と田所さんが言う。
僕たちは椅子や床に座った。
「それで何を聞きたいの?あんまり時間がないから」
「以前は愛美さん本人のことばかり聞いて、友達について聞いていなかったので」
「そんなの知ってどうするの?愛美が亡くなったことと関係ないでしょ」
「いろいろ知っておきたいのです。どんな人だか知りたくて」
「誰のことを知りたいの?」
「金沢さん、細川さん、藤原さん、小早川先生、渡辺さん」
「多いね。何人かは愛美の娘さんに話したよ。後は昔のことだからあまり覚えていないし、それに金沢と細川は会ったんでしょ?」
「今の金沢さんと細川さんには会いました。当時のことを知りたいんです。そしてもう1度お願いします」
「はぁ……わかった。じゃあ金沢からね。1年の時の仲がよかったグループの1人。性格の良い人。ちょっと大人しかったかな」
「細川さんは」
「同じく1年のときに仲がよかった。感情的になりやすかったかな。見た目も悪くない」
「藤原さんは?」
「違うグループだったからよくわからない」
「小早川先生はそんなによく知らない。ただやさしい先生だったとしか」
「渡辺さんは?」
「そういえばそんなのいたな程度。ではこれで終わりでいいかしら」
「それでこれらはどこまで本当のことなのかな」それまで黙っていた推川さんが言う。
「どういうこと?」
「まず金沢さんとは今でも連絡を取っているし、小早川先生とは街中で手を繋いで歩いているのを見てる人がいる」
田所さんの顔つきが鋭くなった。
「誰が言ったの?」
「複数人ですかね」
田所さんが黙る。
小早川先生と手を繋いでいるのを見たのは小杉さんだ。
しかし名前を出さずに複数人ということで、情報提供者を明かさないのと信憑性を高めた。
「あなたたち昔のことを調べて何になるの?愛美は帰って来ないし、今を生きてる私たちの生活を壊したい訳?」
「我々は真実を知りたいだけですよ」
「今更知ってなにになるの」
「私は母の死の真相を知りたいんです。だから当時のことを知りたくて」と我妻さんが口を開く。
「私はもう過去のことだと思っている。今更思い出すことも話すことも無いわ」
「もし愛美さんの身投げが、田所さんと先生との関係を知り、それが大きなショックになったとしたら」と推川さん。
「それは違う。私が会ってたのはほんの少しの間で……違う。愛美が亡くなったのは、私と小早川先生が会わなくなってから大分後のことだから」
田所さんは見るからに動揺をしはじめた。
「愛美さんが大分あとになって知ったからかもしれない。ねえ田所さん。だから真実を知りたいんです」と推川さん。
「もう愛美の自殺ってことで事件は終わってる。何が欲しいの?それとも私の人生をめちゃくちゃにしたいの?」
「そんなことは言っていません。さっきから聞いているではないですか。真実を知りたいだけだと。それ以上でもそれ以下でもないですよ」
「それで私にどうしろと」
「小早川先生の現在のことを」
「私も知らない。教師を辞めて、しばらくして引っ越したらしくて」
「本当に?」
「ええ。日雇いのアルバイトで生活してるようなことを聞いたぐらい。今の先生はどこにいるかもわからない」
「そうですか」
推川さんは見上さんを見る。
見上さんは頷いた。
その後、僕と我妻さんを見る。
僕も頷いた。
少し沈黙が流れた後、我妻さんが口を開いた。
「田所さんは小早川先生のことが好きだったんですか?」
田所さんは我妻さんを向き「そうね。好きだったわ。でもあの人は愛美のことが1番だったと思う。だから私と会わなくなった」
「そうですか」と我妻さん。
「ちなみに先ほど藤原さんはよくわからないと言ってましたが、藤原さんとは実際は連絡は取っていないのですか?」
「取ってないわ。金沢と細川だけ」
「最後に我々に有益な情報はありませんか?」
「愛美は自殺よ。これは間違いないわ。屋上の鍵は愛美のポケットから出てきているし、合鍵は職員室にあったって聞いたわ。私は関係ない」
「そうですか。ありがとうございます」




