第20話 小早川の話
「ここが部室ねえ」と小杉さん。
小杉さんは部室を見て回る。
「本とかたくさんあるのね。これ全部推理小説?」
「いや、他に犯罪心理学とか暗号解読本に刑法書、ノンフィクション事件の本などだ」と推川さん。
「すごい。本格的なのね」
「まあこれでも必須書物の一部ってところかな」
「今まで数々の事件を解決してきたの?」
「もちろんだ」
「例えばどんなの?」
「いろいろだ」
「具体的には?」
「この前もある生徒が無くなったものを一瞬で見つけた」
「すごいじゃん。高価なもの?」
「そういうのは人それぞれの価値観による。その者にとっては大事なものだろう。愛用のスパイクだからな」
「へぇ~。なら我妻さんも安心ね」
「はい!」と我妻さんが屈託のない笑顔で返事をする。
「推川さん、その事件って……」
「スパイクが見つかったことには変わりないだろ」と何事かとばかりな顔で推川さんが言う。
「ふうん。実績はあるってことね」
「もちろん」と自信満々な推川さん。
「それで何を聞きたいの?」
「まずは小早川先生について教えて欲しい」と推川さんが言う。
我妻さんが真剣な表情を小杉さんに向ける。
「小早川か。まず顔がよかったかな。そして面白い。授業で笑いが起きたりしている。そしてやさしい」
「良い先生じゃないですか」と僕が言う。
「かわいい女子生徒にはね」
「えっ」と我妻さん。
「気に入った女子生徒以外の女子生徒や男子生徒には露骨に嫌な態度を取ったりもする」
「酷いな」と推川さん。
「毎回じゃないけどね。でも放課後に勉強のことを聞きに来た女子生徒に、自分で考えろ的なことを言ったりするのはどうかと思う」
我妻さんが落ち込んでいく。
自分の父親候補がそんな人だったと知らされたからだろう。
「あなたのお母さんみたいなお気に入りの生徒には、優しく親身になって教えていたな。わかるまで何時間だって教えてやるぞとか言って」と我妻さんを見ながら言う小杉さん。
「他には?」と推川さんが聞く。
「気に入っている生徒には、プライベートでも会う約束をしてるのを聞いたことがある」
「そんなあ……」と我妻さん。
「後は気に入った生徒には下の名前で呼んでいたな。もちろん2人きりの時だが。何人かそう呼んでいるのを聞いたことがある」
我妻さんは無言になってしまった。
「他は同僚である教師陣からの評判は良かったと思う。見た目から世渡り上手っぽかったしね」
「もう、どんな人物か想像がつくな」と推川さん。
「後は授業中、黒板に答えを書いてた生徒が貧血で倒れたことがあった。その時はその男子生徒を抱えて保健室に運んだことがあったな。当時は私も、根はいい先生なのかなと思ったけど、あれも今思えば女子生徒へのアピールだったのかも」
「そうかもしれませんね。それで我妻愛美さんに手を出していたと」と僕が言う。
「そうだね。2人で仲良く喋っているのを何回か見たよ」
「どこでですか?」と僕が聞くと
「誰もいない教室とか屋上とかでね」
「見たんですか?」と僕が聞くと
「見たよ。当時の私は、このまま二人が付き合えばいいと思っていたから何もしなかった。」
「なるほど」と推川さん。
「2年になると、我妻さんは学校に来なくなった。それから少し経ってからだ。街中で小早川と田所が一緒にいるのを何回か見たのは」
「どう思いました?」と僕が聞く。
「いや。どうも思わなかったよ。私には関係のない者同士だからね」
「田所さんのことは知ってたんですか?」と僕が聞く。
「我妻さんのお母さんと仲がよく一緒にいたからね」
「他に小早川先生について知っていることは?」と推川さん。
「いや。こんなところだよ。2年になってしばらくして、私は引っ越したからね」
推川さんが見上さんと電灯さんを見る。
2人とも首を振った。
「最後に、我妻さんのお母さんは小早川のことを本当に好きだったと思うな」
「何故そう思う?」と推川さん。
「小早川を見る目は他の人と違ってたよ」
我妻さんは何も言わなかった。
ただその表情はどこか寂しそうだった。




