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第15話 大洗

ここ最近捜査は難航していた。


新たな進展がないのと、どうやら僕たちに協力者がいないことが原因だと思った。


小杉さんの言葉を信じるなら、唯一協力的そうだった、田所さんも私たちに隠し事をしていたからだ。


それも大きな隠し事を。


そんな折に「どうやら母が、昔1人で遠くへ出かけたことがあったそうです」と我妻さんが、言ってきた。


どういうことかと聞くと、祖母が話してくれたそうだ。


祖母といっても50代らしいが、祖父も祖母も年の割には、少し老けているとのこと。


愛美さんを亡くしたショックがあったのだろう。


祖父も祖母も愛美さんのことは全く、話してくれないらしい。


しかしたまたまテレビを観ていた祖母が、「ここ、愛美が行ったところだ」と口にしたのだ。


我妻さんが追及したのだが、冬に1人で出かけたから知らないと言われた。


帰ってきた愛美さんに聞いたら大洗に行ってきたとだけ言って、黙り込んでしまったらしい。


「大洗って茨城県ですか」と僕が言う。


「そこそこ遠いな」と推川さん。


「何しに行ったんでしょう?」と見上さん。


「冬の大洗って何があるんでしょうね」と僕が言う。


「大洗は海水浴場があるから、一般的には夏の街だね。冬で有名なのはあんこう鍋とか」と電灯さん。


「女子高生があんこう鍋を食べに遠出?考えられないな」と推川さん。


「他には水族館にマリンタワーに磯前神社に海鮮市場とかかな」と電灯さん。


「それでどうします?」と僕が言う。


「行ってみようと言いたいところだが……」と言葉に詰まる推川さん。


「どうしました?」と僕が聞くと


「電灯のパソコンで見ると、ここからだと往復で6時間半もかかるじゃないか」


「そうですね。そのぐらいかかると思います」


「乗り物酔いが……」


「えっ?」と僕は驚いた。


乗り物酔いになる探偵って古今東西いただろうか。


少なくとも僕は知らない。


「わかりました。今回は私1人で行って来ます」と我妻さん。


「僕も行くよ」


「私も行くわ」と見上さん。


「僕は遠慮しておくよ」と電灯さん。


こうして週末に3人で大洗に行ってみることになった。



駅で待ち合わせをした。


そこから電車に乗り、日暮里(にっぽり)駅へ向かう。


JR常磐線に乗り、水戸駅へ。


そして鹿島臨海鉄道大洗鹿島線で大洗へとなる。


計3時間以上。


大洗に着いたのは昼頃だった。


とりあえず、大洗マリンタワーを目指す。


とはいえ、15年近くも前で足取りもわかっていないのに、なにか痕跡がつかめるのだろうか。


僕は行く前からわかっていたことだが、改めて不安を感じた。


初めての見知らぬ街だが、見上さんが標識を見つけまくってくれるので、道に迷うことはなかった。


マリンタワーに着くと、さっそく展望室へ。


海や大洗市街が一望できるがそれだけだ。


観光に来たわけではない。


いろいろ見て回ったが愛美さんの手がかりになりそうなものは当然ない。


次は商店街でも回ってみるかという話になった。


商店街を見て回っていると


「お昼食べないの?」と見上さんが言う。


「忘れてました。食べましょう」と僕が言い店を探す。


「そこの喫茶店でいいよ。ランチやってるし」と見上さん。


我妻さんにも聞くと「そこで大丈夫です」とのこと。


レトロな感じの喫茶店に入り、メニューを見る。


僕はナポリタンセットで、我妻さんはサンドイッチセット。


見上さんはピラフセットを注文した。


これからのことを話そうとすると、見上さんがずっと角のコーナーを見ている。


「見上さん、どうかしました?」


すると見上さんは立ち上がり、角に向かいノートを持ち上げた。


「なんですかそれ?」


「旅ノートみたいなやつだと思う」と見上さん


見上さんは恐ろしい速さで、ノートを見ていく。


そこへ料理が運ばれてきた。


見上さんが「マスター、これってもっと昔のものはあります?」とノートを指す。


「ありますよ。いつぐらいですか?」


「15年前」と見上さん。


僕と我妻さんは驚いて目を合わせた。


「少しお待ちください」とマスターが言い、5分後に1冊のノートを持ってきてくれた。


「ありがとうございます」見上さんがお礼を言い、また恐ろしい速さでノートを見る。


そして「ここ」と指を差し、僕らにノートを見せる。


神磯(かみいそ)の鳥居で見た日の入りは忘れられないものでした。


波の音を聞いていたら少し安心しました。


ここに来てよかったです。


これから先のことはまだわからないけれど、頑張ってみようと思います」 愛美


「これは!」僕は言葉が続かなかった。


我妻さんはノートを見た後、神妙な面持ちをした。


僕と、見上さんはしばらく声をかけられなかった。



夕方磯前神社に行き、神磯の鳥居を見る。


大洗海岸の荒波が砕ける岩場の突端に建つ鳥居は、昼でも十分神秘的だ。


日本を代表する日の出の名所と言われている。


しかし愛美さんが見たのは日の入り。


愛美さんが見た12月の景色ではない。


それでも、15年近く前に愛美さんが見た日の入りだ。


3人はその美しさに心を打たれた。


横を見ると、我妻さんは泣いている。


僕もこの事件の真相を突き止めてやると心に誓ったのであった。

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