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気まずさを感じていた僕。瑞樹さんと話し合う時が来たようです(2)

また話せるようになってよかったね!

 人にはやらねばならない時ってあると思う。例えば、重大な決断を迫られた時。例えば、大切な人が傷つけられた時。例えるとキリがない。僕は……


「陽人、話してくれるよね?」


 瑞樹さんと話し合わなければならない時だ。いつもと同じく暗い部屋の中、二人寄り添って寝ているせいか彼女の顔がハッキリ見える。部屋全体が真っ暗いはずなのに……


「話すって何を?」


 瑞樹さんが言わんとしている事は解かる。僕はあえてシラを切った。話をしなければいけないとは思っていても根底に彼女を……いや、彼女だけじゃない。無関係なVtuberや配信者をアンジュに関わらせちゃいけないという思いからか話しづらい。実際問題すでに巻き込まれていると言われてしまえばそれまでなんだけど、瑞樹さんとコラボしたVtuberや義姉二人限定で言えばこれは僕一人の問題で彼女達は何も関係ない。話せって言われて素直に話せない


「偽ブジャル君の事に決まってるでしょ」

「それしかないよね……」

「当たり前だよ。私達は巻き込まれた側なんだからちゃんと説明して」

「説明って言われても……何を話したらいいか分からないよ」


 真っ直ぐ僕を見る瑞樹さんに普段なら仕方ないって言って溜息の一つでも漏らしながら真実を話すところなんだろうけど、偽ブジャルの事はそうもいかない。僕自身分かってない事が多く、何をどう話したらいいか戸惑う部分がある。特に正体を聞かれたら非常に困る


「分からなくても話して。私は友達を傷つけられた。陽人には全てを話す義務があるんだよ?」

「って言われてもねぇ……僕が今分かってるのは偽物の口調と活動する時間帯がアンジュと似ているって事だけなんだけど?」

「アンジュさん……ねぇ、陽人」

「何?」

「アンジュさんってどうして嫌われてるのか詳しく聞いていいかな? 名前は聞いた事あるけど、ちゃんと知らなくてさ……」


 名前を聞いた事あるなら荒らされた時点で文句言いに行かないでよ……と喉元まで出かかったけど、言うのは止めた。新人Vtuberはバカしかいないの? 名前を聞いた事があるって事は当然、悪評だって知ってるでしょうに……どうしてライオンの檻に自ら飛び込むような真似をするのやら……僕には理解できない


「名前を聞いた事あるなら普通は近寄らないでしょ……例え配信を荒らされてもね」

「ご、ごめん……」

「謝るくらいなら荒らされた時点で関わらないって選択しようよ。どうして文句言いに行くかな」

「ごめん……」


 真剣な表情から一変し、申し訳なさそうな顔になる瑞樹さん。説教をしたつもりはないんだけど……ただ、企業案件やイベントに参加してるならアンジュに関わるべきじゃないって事を言いたいだけで


「謝れって一言も言ってないでしょ。ただ、アンジュに関わるべきじゃなかったって言ってるだけで」


 シュンとする瑞樹さんに僕は溜息すら出ない。アンジュを知ってからというもの、新人を中心にVtuberの配信を目にする事が多くなった。その中で知識と言った面が弱い人をたくさん見てきた僕にとって彼ら彼女らが物知らずだなんて今更。勉学に関する知識や害悪配信者に関する知識がないのを目の当たりにするのは慣れている。ただ、自分からライオンの檻に飛び込んできておいて傷ついたとか、ファンが付く分、アンチも付くっていう当たり前の事を初配信前に考慮しないバカはとっととネットの世界から消えてほしいとは思う


「でも……」

「でもじゃないよ。瑞樹含めて新人Vtuberがバカなのは知ってる。だから何も言わないで」

「バカは酷いよ……」

「事実でしょ。中にはファンが付く分、アンチも付くっていう当たり前の事すら理解できてない人だっているんだからさ」


 前にも言ったけど世の中に何かを発信するにあたり、ファンや賛同する人が付く分、アンチや反対する人も付くって当たり前の事に気付いてない人が新人Vtuberの中には多い。自分の動画を高く評価してもらえて当たり前? バカじゃないの? 高く評価する人がいる分、低く評価する人がいて当たり前なのに何を言っているのやら。これだからバカな新人Vtuberは嫌なんだ。SNSでもお願い投稿してさ、鬱陶しいったらありゃしない


「ぐ、ぐうの音も出ない……」

「瑞樹もそのタイプだったんだ……」


 自分の身内にも賛否両論が理解できてない人間がいる事実に僕は思わず頭を抱える。バカバカしくて言葉が出ない


「ごめん……」

「別にいいよ。とりあえず、アンジュについての軽い説明と現状だけ話すね」

「うん」


 僕はアンジュが誹謗中傷と意見・批判の区別が付かない人間である事、配信では呼吸をするかのように愚痴や悪口を言ってる事、現状、偽ブジャルのクレームの付け方や活動時間がアンジュと酷似している事を簡潔に話した。アイツは複垢の達人だけど、偽物を演じられるほど器用じゃない。『!』や『?』に特徴があり過ぎる


「────という事なんだけど理解した?」

「と、とりあえず……」

「そういうわけだから僕も分かってない事が多いんだ。それとさ……」

「何?」

「突き放すような事してゴメン……」

「いいよ……陽人と話せただけで嬉しいし」


 そう言って瑞樹さんはそっと抱き着いてきた。彼女に抱き着かれるのが久しぶりだなぁ……ほんの数日くらいしか経ってないのに……


「そっか」

「うん」


 僕達はこのまま抱き合った状態で眠りに就いた





 瑞樹さんと仲直りを済ませてから一夜が明けた。僕は彼女より早く目を覚まし、身体を起して隣を見ると────


「はると……」


 目元に涙を溜めた瑞樹さんが寝ていた


「仲直りしたって事でいいんだよね?」


 彼女の目元に溜まった涙を指で拭う。仲直りできたという事実に安心する反面、偽ブジャルへの怒りと憎しみが膨れ上がるのを感じる。だけど、瑞樹さん仲直りできた嬉しさが大きく、負の感情なんてどこかへ吹き飛ぶ。偽物は確かに許せないけど、平穏な日常を壊してまで退治しようとは思わない


「とりあえず問題の一つは片付いたからよしとしますか」


 問題は解決してないけど、今は瑞樹さんと仲直りできた事を喜ぼう。そう思って僕は頭上に置いてあるデジタル時計に目を向けると……


「まだ七時か……」


 “7:00”と表示されていた。だけど、今日は休日。慌てる事なんてない。とは言ったものの……


「習慣は簡単に治らないんだよなぁ……」


 一度身に付いてしまった習慣は簡単に治らない。平日だったらベッドを抜け出して朝食の用意をするんだけど、今日は特別に二度寝をしようと思う


「仲直り記念だし、今日だけはいいか」


 僕は再び布団に潜り込むとそのまま目を閉じた






「お、重い……」


 二度寝した僕は今度は柔らかな感触と身体に掛かる負荷で目を覚ました。重さの原因を確認すべく目を開けるとそこには……


「あら、起きたのね」

「陽くん、いくらお休みだからってお寝坊は良くないよ?」


 恋紋さんと凛瑠葉さんがいた


「何してるの?」

「何って陽人の上で寝ているのよ?」

「当然だよね! 陽くん!」


 さも当たり前みたいな顔で答える恋紋さんとドヤ顔の凛瑠葉さん。何も当然じゃないし、ドヤ顔する意味が理解できない


「何も当然じゃないんだけど……動きづらいからどいてくれない?」

「嫌よ」

「お断りだよ!」

「えぇ……」


 隣には瑞樹さんも寝ているんだからどいてくれないかなぁ……それに、このベッドは本来一人用なんだけどなぁ……瑞樹さんが寝ているだけでも狭いのに恋紋さんと凛瑠葉さんがいるせいで余計に狭いんだけど……


「瑞樹さんだけズルいわ」

「あたし達はダメなの?」


 泣きそうな顔で僕を見る恋紋さんと凛瑠葉さん。ダメとかの問題じゃない。狭いって言ってるんだよ


「ダメなんじゃなくて、狭いって言ってるの。大体どうしてここにいるの?」

「一緒にいたいからに決まってるでしょ?」

「陽くんと寝たかったから!」


 答えになってないよ……


「答えになってないよ。僕はここにいる理由を聞いてるのであって二人の願望は聞いてない。もう一度聞くよ? どうしてここにいるの?」

「さっきも言ったわよね? 一緒にいたいからよ」

「陽くんと寝たかったからだよ!」


 だから、答えになってないよ……はぁ……


「だから答えになってないんだって……」


 義姉二人は質問に答えられないほど頭が悪かったかなぁ……


「陽人と一緒にいたいんだからいいでしょ? それとも、アンジュって人の話を聞きたかったからとでも言った方がよかったかしら?」

「陽くん、今はアンジュさんの話はナシにして甘えさせてくれないかな?」


 恋紋さんと凛瑠葉さんの口からアンジュの名前が出てくるとは思わなかった。一瞬思考が停止しかけたんだけど……


「分かったよ……今はアンジュを忘れよっか」

「ええ」

「うん!」


 平和な休日のひと時をアンジュの話で台無しにしても仕方ない。僕は久々の平穏を謳歌する事にした。この後、とんでもない話を聞く事になろうとは知らずに










今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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