アンジュの複垢を見つけた僕。ゲンナリしました(1)
SNSのアカウントなんて三つか四つあれば十分でしょ
突然だけど聞きたい事がある。とは言ってもSNSのアカウントを持っている人限定の質問なんだけど、君達はアカウントを何個持ってる? 一つ? 二つ? 三つ? いや、四つかな? どうして僕がこんな質問しているのかって? それは……
「またか……」
瑞樹さんと仲直りした日の翌週。僕は自室のパソコン画面を前にガックリと項垂れていた。本当だったら休日は甲谷達と遊んだりして過ごすんだけど、麻子さんの配信が荒らされて以降、彼らは……いや、彼らだけじゃない。クラス全体が休日は家に引き籠りがちになってしまった。誰一人として遊びに誘ってない人がいない事には驚いたけど、クラスメイトの一人に話を聞いたところ、麻子さんをガチで推したらしく、休日は彼女がアンジュによって謂れのない誹謗中傷を受けてないか見張るから遊んでる暇がないとのお達しが。早い話が僕を除くクラス全員が自治厨になったようだ。甲谷は麻子さんが不快な思いをせず、配信が荒れさえしなければ何でもいいらしい
「ゴキブリですか……はぁ……」
僕がゲンナリしてる理由は言うまでもなくSNS────というか、アンジュの複垢。趣味垢、メイン垢、サブ垢と多い人でも三つくらいだ。珍しいパターンで四つなんだけど、その場合はメイン、趣味、サブの他にアイドルだったりVtuberだったりと何て言うの? 特定のアーティスト推し専用のアカウントだったりする。使う用途によってアカウントを変えるのは多分だけど当たり前。数と使用目的についてはどうでもいいとして、僕がゲンナリしてる理由を簡単に説明すると、アンジュの複垢達を見つけたからだ
「かすみに勇気に従兄……それにエンジェル……メロにネットポリス……勘弁してよね」
同士であるアンジュ討伐隊という人がアイツの複垢一覧をまとめて投稿してくれたんだけど……こんなに複垢があるのかと思うとゲンナリするしかない。あのオバサンの複垢は絶えず凍結を食らっている。メイン垢も過去に二度凍結されてるんだけど、一か月くらいしたら復活してるんだからビックリだ
「こんなに必要ないでしょ……」
僕個人の意見を言うとSNSアカウントは三つ……多くても四つで十分だと思う。メインと趣味とサブとその他があれば事足りる。アンジュの場合はメイン垢が一つ、自分を応援するための垢が一つ、姉を名乗る垢が一つ。で、ファンを装うためにかすみ、勇気、従兄、ネットポリスと三つあり、最後のメロっていうのはアンジュと一緒に住んでる人の垢をアイツが管理しているらしい垢。誰がどう見ても多すぎる
「ガチ恋勢がいないからこうでもしないとやってられないのかなぁ……」
言うまでもなく、アンジュはネットじゃ嫌われ者だ。一応、ファンもいるんだけど、アイツらはアンジュが僕達アンチに叩かれてる時は全員揃って無視を決め込む。面倒事に巻き込まれたくないのと自分にまで飛び火したら堪ったものじゃないからなんだろうけど、とにかく、アンジュを助けようとはしない。無理もないさ、自分で嫌われる原因作ってる配信者を誰が助けようとしますか。自業自得だよ
「被害があってからじゃ遅いんだけど……はぁ……」
正直、複垢全てが僕だったりアイツに物申した配信者の愚痴を投稿してる上にメイン垢やアイツを応援するための垢、姉を名乗る垢も同じ事をしているからどれから潰せばいいのか迷う。全ての垢に同じ事されると優先順位が付けられないのは至極当然。分かりやすく言うと店頭に並んだケーキと一緒。どれも美味しそうで選べないって事あるでしょ?
「お茶飲んでから考えるか」
アンジュの複垢や晒し行為について考えだすとキリがない。複垢はいくつあるか分かったもんじゃなく、晒し行為だって中身は被害妄想の垂れ流し。常人には理解できないのは当たり前の事。僕は自室を出てリビングへ。疲れた時はカフェインか甘いものを摂取して頭をリフレッシュさせなきゃ
リビングへ着くと辺りは重苦しい空気に包まれていた
「重っ……」
重苦しい空気の元を辿るとそこにいたのは瑞樹さん、恋紋さん、凛瑠葉さん。休日なんだからウィンドショッピングでもしたらいいのに……とは言えなかった。彼女達の放っている空気が僕に口を開く事を許さなかった
「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」」」
僕が入って来たのに気付いてない女性陣は深い溜息を吐いた。溜息吐きたいのこっちなんだけど……嫌な予感するから気付かれないようにキッチンに行こう
「あ、陽くん……」
「あら、陽人……いたのね……」
「陽人……」
僕を見る女性陣の目は腐っていた。足音立ててないのにどうして気付くの?
「あ、えっと……まぁ……ね」
「陽人……今から甘えていいかな?」
「あたし達陽くん成分が足りないの……」
「後で何でも言う事聞くからお願いできないかしら?」
「いきなりどうしたの?」
今の瑞樹さん達は明らかに変だ。唐突に甘えたいと言うのはいつも通りなんだけど、纏ってる空気がいつもと違う。暗すぎる
「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」」」
どうしたのって聞いただけなんだけど……
「と、とりあえず飲み物でも飲みながらゆっくり聞くよ」
何となく話が長くなりそうだったので僕は人数分のオレンジジュースを入れるためにキッチンへ向かった。本当はコーラが飲みたかったんだけど、あの空気にコーラはない。かと言ってコーヒーや紅茶だとお湯を沸かすのに時間が掛かる。ウーロン茶や緑茶という選択肢もなくはなかったんだけど、話が長くなりそうな上に聞いたら疲れそうだからオレンジジュースにした
人数分のオレンジジュースが入ったグラスをお盆に載せ、リビングへ運ぶ。聞くって言ったはいいけど……アンジュ関係の話は勘弁してほしい。ただでさえアイツの複垢に頭を悩ませているんだから
リビングへ到着し、瑞樹さん、恋紋さん、凛瑠葉さんの順でジュースを配り、僕も席へ就いたんだけど……
「えーっと……」
瑞樹さん達は俯いたまま喋らない。心なしか船を漕いでるようにも見えるんだけど……もしかして目が腐っていたのって単に寝不足だったから?
「陽人……一緒に寝ましょう」
「あたしも陽くんと一緒に寝たい……」
「私も……」
「えっと……もしかしなくても寝不足なの?」
僕の問いに三人は無言で頷く。彼女達が寝不足になる原因は二つ。一つは目標人数に到達するまで耐久配信をしていた。もう一つはアンジュにしつこく粘着されて寝る時間が遅くなったかのどちらかだ。前者だったら彼女達の自業自得なんだけど、後者だったら笑えない
「それってアンジュに粘着されたから?」
またも三人は無言で頷く。休日なんだから寝坊してもいいんだよ? とは言えない。アンジュと同じ時間に寝ていたら確実に生活リズムが狂う。学校や仕事がある人なんかは特に。アンジュが他人を思いやれないのは今に始まった事じゃないんだけど、実害が出ると改めてアイツが迷惑な存在でしかない事を実感する
「嘘でしょ……」
「本当だよ、陽くん……」
「私達もアンジュさんに粘着されたのよ……」
「私もだよ、陽人……」
アンジュの名前を出しても彼女達が驚かないのはブジャルの正体が僕だと知っているから。バレた経緯についてはまた今度話すとして、アンジュの粘着質には困ったものだ。しかも、三人同時にとは……パソコンだったら一つのブラウザでウィンドウを三つ開けば三人同時に粘着する事は可能だから不可能じゃないんだけど……そこまでする? いや、手間はかからないよ? タスクバーにピン止めしていればブラウザの上で右クリックして新しいウィンドウをクリックすればいいだけなんだから。同じ要領でウィンドウを増やせばいいだけだしね。手間はかからないんだけどさ、そこまでするか? とは思う
「勘弁してよ……」
自分がされてないとはいえ、複垢を見つけた後じゃ直接被害を受けてないのに気分が沈む。不安からではなく、執念深さに呆れて。バカなオバサンに呆れた僕はオレンジジュースを一気に煽った
重苦しい空気が流れていた原因を聞いた後、彼女達に限界が来たので各自部屋に戻って寝るとの事で僕は珍しく一人リビングでゆったりしていた
「あのオバサンどうしたものか……」
ゆったりはしていても考えるのはアンジュ対策をどうするか。アイツの所業は最早笑って許せる範囲を遥かに超えている。下手したら違法行為に抵触している可能性すらある
「はぁ……」
アンジュの行為は大まかに言うと名誉棄損だから訴えれば勝てる。証拠だって持ってる人はいっぱいいるし、通報すればアカウント凍結は避けられない。だけど、不思議な事に訴えられそうだという話は聞かない。凍結したとしても一時期の事で永久ではない
「何がどうなってるんだか……」
偽ブジャルの正体以外に新たな謎が増えた瞬間だった。普通なら裁判沙汰になっててもおかしくないし、永久凍結になってても不思議じゃない。けど、アンジュは今もSNS上にいるし、平然と配信している。見る人が見れば理不尽以外の何物でもない。誰かが苦しんでいる一方でアンジュが平然と笑いながら配信しているんだから
「アイツのせいで人生棒に振る人が出ないといいけど……」
噂じゃアンジュの家を特定した人がいるらしい。その人物が何をするかは分からないけど、アンジュのせいで人生を棒に振るような真似だけは避けてほしい。とは言ったところで怒り狂った人間は止められない。顔も見えないネットの世界じゃ止めようがないのだ
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




