勝手にコラボ配信に出演させられる事が決定してる僕。今回は特別です(3)
コラボ配信お疲れ様です
北海道エリアに降り立つと瑞樹さんの機体の隣に魚人型の機体が見えた。あれが今回コラボしている美南海さんのものと見て間違いなさそうだ
「来てしまったか……」
VCは全プレイヤーをミュートにしてある。直接口頭で会話する事は不可能。メッセは送れても僕が見ていなければ意味がない。やってしまった感があるのは瑞樹さんと美南海さんがいるエリアに来てしまったからだ
「ボイチェンがあるからいいんだけど……やりづらい……」
リアルの僕は大人しめな方で人にズバズバものを言う方ではない。ブジャルの方は荒らし行為を行っているのも相まってか過激派である。そのブジャルがVtuberのコラボ配信にゲストとして招かれる。これほどやりづらい事は未だかつてなかった。今更だけど困るんだよなぁ……荒らし行為以外でVtuberと絡むのって
「キャラどうしよう……」
本当に今更ながらキャラに困る。いつものブジャルははっちゃけ派。アンジュを煽るためだからね。でも、アンジュ以外の相手をするってなるといつもと同じようにとはいかない。Vtuberの中にいる人が前世────つまり、Vtuberとして活動する前に何をしていたかはどうでもいい。過去は過去だし。今の話は全く関係なくて、過激派ブジャルはアンジュ以外と絡んだ時、どうしたらいいかが分からない
「こんな事ならちゃんとキャラくらい作っとくんだった……」
アンジュを煽るためだけにブジャルは存在していると言ってもいいくらいだ。当然の事ながらキャラ作りなどしていない。五味陽人とブジャルが結びつかないためにリアルでは僕、ブジャルではオレを使ってたけど、こんな事になるとは思ってなかった……
「なるようにしかならないか……」
自分の浅はかさを呪いながら僕は運に全てを託した。世の中なるようにしかならない。特に考えなしに引き受けた事はね
「はぁぁぁぁ……」
僕は深い溜息を吐きながら瑞樹さんと美南海さんのミュートを解除した
『────という事で、今回は美南海ちゃんとコラボだよ~』
『どうも☆ 美南海でっす☆』
「…………」
無言で瑞樹さんと美南海をミュートにした
「うわぁ……キツイなぁ……」
椅子にもたれ、天井を見上げて呟く。瑞樹さんの方はキャラを知ってるというか、いつも通りだからいいんだけど……美南海さんの方はキツイ。なんて言うの? こう、キャピってした感じのキャラっていうの? 僕、ああいうのが一番苦手なんだよなぁ……リアルだと苦笑を交えながら適当にあしらうし、面倒臭くなったら甲谷とかにそれとなく押し付ければいいし。でもなぁ……瑞樹さんがいるとはいえ、これから数時間アレの相手をするとなると気と胃が重い
「嫌なこと引き受けちゃったよ……」
安易に頼み事を引き受けるとこうなるのか……いい教訓ではあるけど、代償がデカすぎるでしょ……
「アンジュ程じゃないからまだいいんだけどさ……」
アンジュは事情が事情なだけにぶりっ娘されるとキツイ。美南海さんの方はまだ顔が見えない分、幾ばくかマシではあるものの、やっぱりキツイ。今後彼女とはコラボしてほしくないレベルで
「嫌だなぁ……」
これからあのカオスとしか言いようがない女性二人の中へ飛び込んでいくと思うと憂鬱でしかない
「やるだけやりますか。どうせ一時間程度だろうし」
配信時間はVtuberによって違うから何とも言えないけど、僕の知る範囲だと最短で五十分程度。最長で十時間。VIDEO・POSTの規約上、最大でも十一時間以上の配信はできないらしく、それ以上配信したいのなら一度枠を取り直さなきゃならないらしい。加えて生活の事情も考慮すると今回のコラボは一時間か二時間が妥当
「ボイチェンよし、マイクよし、ヘッドホンよし。さて……やりますか」
必要なアプリの起動と機器の確認をし、再び瑞樹さんと美南海さんのミュートを解除した
『お~い、ブジャル君や~い、聞こえてる~?』
『ブジャル君☆ お返事返してくれないとお姉さん悲しいゾ☆』
ミュートを解除した途端、聞こえてきたのは瑞樹さんと美南海さんの僕を呼ぶ声。一時間耐えればいいやと決心はしたけど、やっぱりキツイなぁ……
「何度も呼ばなくたって聞こえてますけど……」
『なんだぁ~、聞こえてたんだぁ~』
『呼ばれたらすぐに返事しなきゃダメだゾ☆ みなリストの人達もコメントでブジャル君の登場を今か今かと待ちわびてたんだから☆』
『みかリストの人達もだよぉ~』
「それはそれはゴメンナサイね。こちとらVtuberのコラボ配信に呼ばれるとは思ってなかったんで」
率直な感想を言おう。吐きそう。瑞樹さんの間延びした声は寝起きとかで慣れてるけど、美南海さんのキャピっとした感じはどうにも嫌悪感まではいかずとも苦手意識が芽生えてしまう
『もぉ~、緊張しなくてもいいのにぃ~』
『そうだゾ☆ リラックスリラックス☆』
緊張じゃないんだよなぁ……どちらかというと疲労感なんだけど……
「そ、そうだな……リラックスしないとな」
発狂しそうになるのをどうにか堪え、平静を装うけど、開始早々心折れそう……
『そうだよ~。それに、私は初めましてじゃないでしょ~? 前にも会ってるよね~?』
『アタシは初めましてだけどネ☆』
「そうだな……」
水越みかとは初めましてじゃない。もっと言うとここ最近はリアルで毎日のように顔を合わせているし、キスだってした。美南海さんの方は完全に初めましてだけど、彼女は僕を知ってるらしいし……これって初めましてって言うの?
『じゃあ、私の紹介は省くとして、美南海ちゃん。自己紹介しよ~ね』
『ほいさ☆ 改めまして☆ 美南海でっす☆ 好きな食べ物はお寿司でっす☆ よろぴくネ☆』
「よ、よろしく……。俺の名前はブジャル。通りすがりの配信荒らしだ」
配信者二人の前で配信荒らしを名乗るとは……僕はバカじゃないのかとちょっと後悔。名乗っちゃったものは仕方ないけどさ
『知ってる☆ キミがダークヒーローだっていうのはみかちゃんから聞いてたから☆』
「そ、そうっすか……」
その文字に起こすと星でも出てきそうな喋り方なんとかならないのかなぁ……
『ウン☆ キミはアタシ達Vtuberの間じゃ結構噂になってたかラ☆ とは言ってもアタシは一昨日聞いて初めて知ったけド☆』
「そ、そうっすか……Vtuberの間で噂になってるのは初耳です……」
一応、SNSのアカウントは持っているし、アンジュ関連で名前が挙がっているところは目にしてたけど、まさかVtuber各界で噂になってたとは……寝耳に水。僕のリサーチ不足と言われてしまえばそれまでだけど……ね? 普通は配信で話題にすら上がってない人の名前なんて出さないじゃん?
『うん、今言ったぁ~』
『みかちゃんに同じく☆』
何だろう? 最初はこの二人に囲まれてゲームするのかと憂鬱な気持ちだったけど、今は殺意しか湧かない。仕方ないなぁ……
「そうですか……それは初耳だよ!!」
僕はアンジュにしてるのと同じく不意討ちを食らわせた。ただ、今回は超粒子砲じゃなく、近接で締め落とした
『『ふ、不意討ちは卑怯!!』』
様式美の行動に様式美の反応をありがとう。キルログに瑞樹さんと美南海さんのをキルが表示される。配信荒らしだって知ってるなら油断しちゃダメなんだよなぁ
「お決まりの言葉ありがとう。これがオレ流なんだよ」
配信者に不意討ちを食らわせるのは僕なりの挨拶だ。荒らすか荒らさないかは気分次第だけど
『それでこそブジャル君だねぇ~』
『聞いてた通りの事してくれて嬉しかったゾ☆』
この二人は国宝級のアホなの? 不意討ち食らって怒りもせず、嬉しかったとか……何? 配信荒らされて喜ぶ趣味でもあるの? だったらマズいよ? 僕だからまだいいけど
「お前ら、ドMかよ……」
さすがの僕も二人の反応には呆れるしかなく、頭を抱えた
配信開始から五時間。主な中身としてはひたすらリスナーの任務を手伝っていただけだから割愛。その間、全員が一度トイレ等で抜けはしたものの、特に大きなトラブルも────
『え? またアンジュって人?』
あった。配信開始五時間で瑞樹さんのコメ欄にアンジュが出没したらしい。全く、懲りないねぇ……
『アンジュ? アンジュって誰?』
美南海さんの方はアンジュを知らないらしく、戸惑っているご様子。どうして僕を知っててアンジュを知らないんだよ……
「何で今頃になって出てくるんだよ……」
配信を開始してから五時間後のアンジュ登場に僕は呆れて溜息を吐く。いつもなら開始直後で出てくるのに
『え~、ブジャル君は私の信者じゃないよ~』
どうやらアンジュが瑞樹さんに難癖をつけているらしい。内容としては“信者の教育くらいちゃんとしてください”的なやつだろう。だけど、ファンやリスナーを信者呼ばわりとは……アンジュのバカさ加減には呆れてものも言えない
『ブジャル君はアタシの信者でもないゾ☆』
今度は美南海さんの方ですか……別枠でも同じ事を言うとか……もう何も言えないよ。オバサン
「オレはみか推しでも美南海推しでもねぇよ」
アンジュの言う事は毎度の事ながら理解出来ない。彼女のSNSの呟きは大半が晒し行為で占められている。後は身内と思しき人間の不平不満。要するにアンジュは悲劇のヒロインになろうとして失敗した哀れなオバサンって事。配信でもそれ以外でもキチガイとか笑えないんですけど……
この後、アンジュのコメント荒らしは三十分も続いた
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




