義姉二人が来ると知らされた僕。逃げ出しました(1)
ちょっと意外な事になりました
僕にとって地獄しか言えないコラボから数日が経ち、四月が終わり、五月のゴールデンウィーク初日────
「はぁ~るぅ~とぉ~」
何の変哲もないリビングでくつろいでいると猫撫で声で瑞樹さんがすり寄ってきた。普通の男子高校生ならスタイル抜群な年上女性に甘えられ、鼻孔を擽る香りと女性特有の柔らかな感触にドギマギするところなんだろうけど、慣れって恐ろしいもので、毎晩彼女と一緒に寝ているせいか全くドキドキしない。というか、一応付き合ってはいるけど従姉だよ? ドキドキとか今更……
「どうしたの?」
瑞樹さんが猫撫で声で甘えてくるのは様式美なんだけど、僕が彼女の頭を撫でるのも様式美。瑞樹さんがすり寄り、僕が頭を撫でるのは二人きりの状態だったら当たり前になっている
「なんかねぇ~、恋紋ちゃんと凛瑠葉ちゃんが家に来るらしいんだ~」
幸せそうに目を細める彼女の口から出たのは僕にとっては不幸な知らせ。嘘でしょ?
「そっか。なら泊りがけで旅行にでも行かない? あの二人面倒臭いしさ」
義姉二人が面倒臭いのは事実。僕にとって彼女達は家族じゃなく、口うるさい他人。何の意図があって来るのかは知らないけど、僕には彼女達と話す事なんて何もない
「すっごく魅力的な提案なんだけどさ~、今から来るらしいんだよねぇ~」
今から? 冗談でしょ? なんて現実から目を背けてる場合じゃない。とにかく今は逃げないと! 顔合わせたら小言聞かされそうで嫌だし
「そう。なら今からデートしようよ。ね?」
「それも魅力的なんだけど、もうそこまで来てるってさ」
逃げ場を失ったという絶望感が僕を支配する。どうしてギリギリになってから言うかな……仕方ない、適当に言い訳して僕だけでも逃げ出そう
「ならお茶菓子が必要だよね。僕ちょっと買いに行ってくるよ」
この家には滅多にお客さんが来ないからお茶菓子の類は基本的に置いてない。瑞樹さん曰く友達と遊ぶ時は必ず外で遊ぶし、誰か来たとしても飲み会の時くらいとの事。要するにお茶菓子を出すような人は基本的にここへ来ないという事と捉えてもらって構わない
「それもそうだね~、うん、お願いするよ」
「任せて。ケーキでいいかな?」
「うん」
「了解。イチゴショートでいい?」
「ケーキなら何でもOK」
「分かった」
立ち上がり、リビングを出て上着を取りに部屋に戻ると財布とスマホをズボンのポケットに突っ込み、家を出た
家を出て向かうは近くの複合商業施設。映画館はあるし、チャチだけどゲームセンターや洋服店もある。当然、ケーキ屋やスーパーマーケットも。探せばケーキ専門店くらいあるんだろうけど、義姉二人と顔を合わせたくないから時間をかける事に。いつもは当たり障りのないように接しているけど、僕にだって好き嫌いくらいある。食べ物でも人間でもね
「百均行って、ケーキ屋行って……いや、いっその事映画でも観て時間を潰そうかな……」
商業施設までの道中、僕はどうやって時間を潰すか考える。映画館があり、ゲームセンターがあり、本屋があるとなると時間の潰し方なんて様々。問題は義姉二人が何時間瑞樹さんの家に居座るかだ。個人的には五分ちょっとで帰ってほしいんだけど、女性の話は長いから少なく見積もって一時間。長く見積もって二時間といったところ。ケーキを買いに行くだけに一~二時間も時間を掛けてられないよね……時間を潰すのはナシの方向でいこう
「勘弁してよね……なんだって今頃……」
家出した次の日もその次の日も何の音沙汰もなかったくせにどうして今頃……。僕の頭に生まれた疑問。仮に僕を迎えに来たとしても時間が経ちすぎている。普通ならもっと早く迎えに来てもいいものなんだけど……
「あの人達の考える事はよく分からない」
義姉も義母も何を考えているのか全く分からない。特に興味はないけど
「とにかく、早めに帰ってくれる事を願う他ないか」
何の用があって瑞樹さんを訪ねるのかは分からないけど、早めに帰ってほしい。僕の願いはただそれだけだった
商業施設に着いた僕はすぐさまケーキ屋へと足を向ける。瑞樹さんにはケーキを買って来ると言って出てきた手前、映画館やゲームセンターに寄り道するわけにはいかない。さすがに怪しまれるしね
「はぁ……」
多くの人で賑わう中、一人憂鬱な気分の僕。実家でさえ義姉二人と顔を合わせるのは嫌なのにマンションの一室という逃げ場があってないような場所で顔を合わせるのなんて本当に勘弁してほしい。甘えん坊とか、依存体質ですり寄ってきましたとかならまだ許せるけど、ただ口うるさいだけとか言ってる方は気持ちがいいだろうけど、言われている方からすると鬱陶しい事この上ない
「帰ったらケーキだけ置いて部屋に籠ろう」
義姉二人とは絶対に口を利かないと固く心に誓い、目的の場所に到着すると人数分のショートケーキを買い、踵を返した
「それで~? 二人は何の御用で来たのかな~?」
陽人がケーキを買いに出てすぐ後。恋紋ちゃんと凛瑠葉ちゃんが訪ねてきた。とりあえずリビングに通してみたんだけど、さっきからずっと黙ったまま。黙ったままじゃ何をしに来たのか分からないんだけどなぁ~
「……………陽人を………陽人を連れ戻しに来ました」
口を開いたのは恋紋ちゃん。陽人を連れ戻しに来た……ねぇ……
「そっか~……でも、陽人は帰さないよ? どうして家に来たかは分からないけど、何日もそっちに帰ってないって事は帰りたくないって事だろうしさ」
陽人が家に帰らない理由は分からないけど、多分、この二人のどちらかあるいは両方が原因と見て間違いなさそう。陽人は私のものだから渡さないよ~
「そんなの陽人に聞いてみないと分からないじゃないですか」
「そうだね。でも、陽人が何日も家に帰らずここにいるって事はそういう事でしょ? 貴女達か千夏さんと一緒にいたくないからここに居座っているって事でしょ? 違う?」
「そ、それは……」
私の言葉に恋紋ちゃんは押し黙り、凛瑠葉ちゃんは下を向いて黙ったまま。陽人が帰らない理由に心当たりがあるみたい
「それは? それは何? 陽人が家出する理由に心当たりがあるみたいだけどさ、一ついいかな?」
「何でしょう?」
「恋紋ちゃんも凛瑠葉ちゃんも来るの遅すぎない? あの子がここに来てから何日も経ってるのにさ」
「私には大学が、凛瑠葉には高校があるんです。おいそれとは来れませんよ」
恋紋ちゃんの言う事には一理ある。でもさ、大学も高校も土日は休みでしょ? 悪いけど、それは言い訳にならないんだよね
「確かにそうかもだけどさ、それって言い訳にならないよ? 二人がサークルや部活に入ってるって言うなら話は別だけどさ。その辺りどうなの?」
私も一応、大学は出ている。講義によっては土日を挟むものもあるのは知っているつもり。この恋紋ちゃんが学校を言い訳にしてきたから意地悪であえて尋ねてみたけど……どう答えるのか楽しみ
「そ、それは……その……」
恋紋ちゃんがどうにか答えようとしているけど、しどろもどろになり、凛瑠葉ちゃんはさっきと同じく黙ったまま喋らない。答えなんて聞かずとも分かる。この二人はサークルにも部活にも入ってない。ただ陽人に拒絶されるのが怖かったんだとね
「いいよ、答えなくて。二人とも陽人に拒絶されるのが怖かったんでしょ? うるさいって追い返されたらって思うと不安だったからなかなかここへ来られなかった。違う?」
「「────!?」」
二人は目を見開いた後、無言で頷いた。半分冗談のつもりで言ったんだけど本当にそうだったとは……
「これじゃ陽人がブジャル君になっちゃうのも無理ないか……」
「ブジャル君? 誰ですか? 陽くんのお友達ですか?」
さっきから黙ったままの凛瑠葉ちゃんがようやく口を開く。だけど、ブジャル君の事は教えられない……いや、教えたくない。これは私だけの秘密。陽人は隠しきれてるつもりだろうけど、私には分かる。ブジャル君の正体は陽人だと
「内緒~。陽人の交友関係を凛瑠葉ちゃんが知る必要はないよ。あの子も君達に知られるのは嫌がるだろうしね」
「そう……ですか……」
「ハッキリ言われるとキツイなぁ……」
落胆の表情を見せる恋紋ちゃんと凛瑠葉ちゃん。ちょっと言い過ぎたかなとは思うけど、陽人が交友関係を知られるのを望んでないのも多分事実。私の独断で話すわけにはいかない
「キツイも何も陽人の交友関係を私が勝手に話すわけにはいかないでしょ~?」
「そう……ですね……」
「陽くんにだってプライバシーはあるもんね……」
普段陽人にどう接しているか分からないけど、連れ戻しに来るくらいなら早く来たらよかったのに……日常会話の一つでもしていれば陽人の交友関係くらい分かるはずなんだけどなぁ……
「前途多難だねぇ~」
彼女達と陽人が仲直りをしても帰す気はないけど、目に見えて落ち込んでる姿を見ると思うところはある。もし自分だったらって考えると助けてあげたくもなるけど、こればかりは私じゃどうにもできない。当事者同士で考えるしかないからね
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました




