横四楓院絞男はAVがお好き
人気が少なくなった夕刻。
今日も今日とて、きな臭い授業という名の極秘任務を無事終えた僕は棲家に真っ直ぐ帰らず、視聴覚室の前に来ていた。スパイたる者、己の棲家をそうやすやすと敵国に知られるような愚行を犯したりはしないのである。そうでなくても棲家に帰ると、爆撃機に服を着せたようなババアもといオカンが物干し竿で僕の水蜜のような尻をペンペンと攻撃……おっと、話が逸れてしまった。兎に角、追手の有無を確認するうえでも二重尾行ならぬ二重迂回がスパイとして必要なのである。……誰だ、今、それは只の道草だろとか言った無礼者は。ちょっと、額に鉛玉くれてやるからそこで勃ってなさい。
「……よし。誰もいない、な」
周囲を十二分に確認した僕は予め学園の用務員からくすねた視聴覚室の鍵を使用して扉を開いて侵入した。……スパイだからって、ピッキングすると思ったら大間違いなんだからね。ハッキリ言おう、洋画の見過ぎである。
だいたい、ピッキングというモノはパチモンのスパイがやる行為である……と僕は常々考えている。スパイは泥棒ではない、あくまで諜報員なのである。確かに諜報活動をする上でピッキングという技術が必要に迫って来る場面があるだろう。愛しいあの子の蕾をピッキングしたいという男子もいることだろう。だが、知らない。軽々しくピッキングなどという愚行を犯す輩を僕は同じスパイとして認めたくないし、認められない。スパイを馬鹿にするにも程がある。それは決して、僕がピッキングが出来ないからとかピッキングが出来る奴スゲェとかそういうのじゃないことを追記しておくことにしよう。
「フフフ、これで準備万端だ……」
脳内で反ピッキング講座繰り広げながら、僕は手元を休めない。無論、視聴覚室に来たのは別に射撃の訓練の為ではなく、ましてや阿波踊りをする為でもない。視聴しに来たのだ……AVを!
……いや待て。別に野郎の股間をくすぐるビデオの事ではないぞ。AVというのはアニマルビデオの略称の事である。僕のスパイ界では隠語として使用される。まあ、確かに?そういうシモ方向で誤解されるかもしれない、寧ろ其れを狙って使用されることが多いのである。『今日はAVでもシコシコと見るか!』と僕がワザとらしく声高々に言えば、敵国の男スパイはノコノコとだらしない下半身をモロ出ししてやって来たところを僕のトカレフでバァン……!である。この手で今まで十人、いや六人だったかな……三人?いやいや、二人……ひ、と、り……?とにかく幾多モノ強者を葬ってきた僕である。
『ワフッ、ワフッ、ワフッ、ハッ、ハッ、ハッ』
「フフフ、ああ、可愛い……かぁいい」
映像の中には、柴犬が主人にまたたびで顎を撫でられて気持ち良さそうな声を上げながら、仰向けで懇ろがっている姿が映し出されていた。カメラ目線で誘っているような構図に若干違和感を感じたが、まあいい。可愛いは正義である。可愛いものと甘いものには目が無い僕である。
「やっほー! こんにちは! 佐藤くん!!」
「かぁいい、かわ……ピングゥ!?」ビクッ
愛くるしい我が娘を見守るような気持ちでかぁいいと連呼しながらAVを視聴していた時である。突然、視聴覚室のドアが思い切り開かれ、謎の来訪者が現る……て、敵襲かっ!?いきなりの来襲に身構えるとそこにいた招かれざる客とは。
「田中…………さん」
「おー、ようやく私を無視せずに返事してくれたね佐藤くん! えらいえらい、よーくできまちたねー! よーちよちよち」
僕の反応にご満足したのか田中某は、僕の顎をタプタプしながらムツ●ロウさんの如く頭を撫でまわしてくる。ち、畜生、僕は籠の中の小動物じゃないぞ。舐めやがって……いつかそのたわわに実った果実を揉みまくってやる。
「…………」
「むふふふふー。『なんでこの美少女がここに!?』と顔に書いてますぞー、機嫌がいいお姉さんは佐藤くんに教えてしんぜよう! それはねー、佐藤くんが一人でコソコソとNINJAのように教室から出て行くから……だから私もNINJAのようにこっそりと後をつけたんだよー、にっしっし」
じ、自分で自分の事を美少女とか言うな。まあ、顔が良いのは否めないが性格がアレ過ぎるだろうが貴様。しかも、別に聞いてもいないのにどうでもいいつまらんことをぺらぺらと喋りやがって……せめて、オチぐらいつけろ、こら。
「にっしっし、ところで佐藤くん……お邪魔だった、カナ?」
「……ちっ、違うッ! ……違います」
「違う? 何が違うのかなあ? でも、佐藤くんはこういうのを見て興奮……してるんでしょ?」
田中某はワザとらしく恥ずかしそうに口を押えて、停止している映像に指を差す。映像はちょうど柴犬が主人に浣腸されている場面で停止している。な、なんちゅうタイミングで映像が止まっているんだよ……これじゃあ、男優が動物にプレイをしているようにしか見えない!
「…………」
「ごめんね。お邪魔だったよね……クラスのみんなに佐藤くんが獣●大好きって告げ口しないから許して?」
「……やっ、止めろッ! ……止めて下さい」
「でもね、『●ンコの生態』とか……こういうのっていくないと思うんだ」
田中某は僕が持って来たDVDのケースのタイトルを読み上げながら、僕を諭してくる。な、何故伏字にする!それじゃあ、なんか違う意味に聞こえちゃうだろ!何か悪意を感じるぞ!これは可愛い犬と人間が触れ合う癒しさ溢れる『●ンコの生態』ビデオなんだぞ!んぐぅううううう!伏字がうっとおしいな!
「にっしっし。ごめんごめん、ちょーっとからかい過ぎたね。これ以上邪魔しちゃ悪いし、じゃあね、佐藤くん。ソロ活動頑張ってねー……床を汚しちゃだめだよ?」
田中某はとびっきりの笑顔を僕に向けながら視聴覚室から出て行った。
な、ナニが、ソロ活動頑張ってね、だよ。畜生、結局、最後までからかいながら出て行きやがって……まあ、いい。あんな女のことはもう忘れて今は目の前の癒し映像で思い切り癒されまくろう。僕は再び、再生ボタンを押す。
『ワッフゥゥゥンッ! キャァン、ハッハッハッハッハッハッ、ハッフ!!』
『ほらっ、もうすぐ生まれるぞジョン! もうすぐお前のうん●が生まれるぞ! お前が一年間貯めに貯めたうん●という名の貯蓄が……! ジョン、ジョン、ジョン……ジョォオォオオォオオン!!』
…………。
あれ、こんなビデオだったっけ?




