横四楓院絞男はギャルゲーがお好き
丸子『好き……好きなの! 大好きなの! 横四楓院くんのことが大好きなのッ!』
丸子の決死の想いに俺は……。
1.『俺も大好きだよ、丸子』
2.『とりあえず、股を開け。話はそれからだ』
3.『俺はお前のちん●が大好きだよ、丸子』
「フフ、なんだこのメスは……チョロすぎる」
僕こと横四楓院絞男はクラスルームの一番端っこの自席で携帯ゲームのディスプレイを見つめながら秘かにほくそ笑んでいた。もう分かっていると思うが、前述の会話は僕が丸子とか言うメス豚に実際に告白されているわけではない。あくまでもゲームの中の主人公こと横四楓院絞男が告白されているのだ。因みに、デフォルト名は【田中太郎】とかいう毒にも薬にもならない面白味の無いコードネームだった為、僕が自分のコードネームを入力したのである。
ヒソヒソヒソ、ヒソヒソヒソ……
僕が携帯ディスプレイに向かって何か言うたびに、遠巻きに相撲取りのような女子生徒達が何やら僕の陰口を叩いている。どうせ『横四楓院くんってそういうイケメンだったんだ……』とか『横四楓院くんって諜報員のくせにギャルゲェ信者だったんだ……』とか言っているんだろう。ふん、悪口の内容など気にもならないのだが、人の陰口をコソコソと言っている暇があるのなら四股でもとっていろ、と僕は言いたい。
だいたいギャルゲーは敵女スパイの心理思考を読み取る上で重要なキーアイテムであることはスパイ界で常識なのである。確かに現実世界の女の思考回路は目の前の画面の中にいる女よりも複雑怪奇であることは言うまでもないだろう。しかし、しかしである。かつて、僕の同僚だった人間が敵対組織の女スパイに甘い言葉でコロッと騙されてATM野郎に成り下がってしまった事実を僕は目の当たりにしている。メスの吐く甘い誘惑めいた言葉に騙されないように日頃からギャルゲーという名の砂糖をオカズに砂糖を食べるような強化訓練がスパイには必要不可欠なのである。決して、狙ったあの子のエロCGを埋めたいだとか、しこリズムに明け暮れたいだとかそういう俗物的な感情は一切ないということを追記しておくことにする。
「フフフ、こんなもの常識的に考えて『1』でファイナルアンサーだ……」
☞1.『俺も大好きだよ、丸子』
2.『とりあえず、股を開け。話はそれからだ』
3.『俺はお前のちん●が大好きだよ、丸子』
ピコッ
絞男『俺も大好きだよ、丸子』
丸子『絞男くん……私も大好き』
グサッ……
絞男『グッ……!?』
丸子『ゲハハハハハハ! 私も好きだよう! 死ねっ、シネッ、くたばりやがれこのDTがっ、ギャハハハハハハ! イヒヒヒヒヒヒ!』
【俺は丸子に胸元をアイスピックで一突きされ、天に召された】
DEAD END
…………。
はっ、ファアアア!?
なっ何だこれ!?ど、どうなっているんだ一体……天に召された、じゃねーよ!……ば、バグか!?これはもしかして悪質なバグなのか!?ちゃんとデバックしてやがるのか!?ち、ち、チックショウ!メーカーのデバッカーめ!ちゃんと仕事しろ!この理不尽な展開に憤りを感じた僕は携帯ゲームを床に思いきりたたきつける。フフフ、どうだ、教室の冷たい床をとくと味合うがヨロシ。
「あーあ、やっちゃったね。その娘は実は男の娘でヤンデレなんだよ……だから、変に同調するような選択肢を選んだら一発アウトなんだよ」
心の中で修羅場っていると、僕のすぐ傍で何やら攻略ヒロインについて解説する女子の声が。こ、この声は……恐る恐る振り向くと、はーやれやれを絵に描いたような失望の表情で僕を見つめる田中某が僕の背後に突っ立っていた。こ、この女……もしかして僕がゲームに向かって会話していた様子を今まで黙って見ていたのか。な、なんて悪趣味な女なのだ。
「…………」
「はいはい、わかってますよーだ。どうせ、佐藤くんは私を無視するんだよね……ちなみにその正しい選択肢は『3』だよ」
田中某はうんざりした表情をしながらも、僕の席の隣を僕に向き合う様に座る。こ、こら、勝手にネタバレするんじゃない。って、答えが『3』だと?『3』って……うっそだろ、僕のヒロイン、おい。
「いやー……佐藤くんがこんなにもゲームのセンスが無いなんてね、いっしっし」
田中某は口元を抑えて、小悪魔的な表情で笑う。ぼ、僕の恋愛センスが悪いのじゃない。このイカレぽんちなゲームの開発者のセンスが無いのだ。田中某は気付いていないようだが、だらしなく大股開いて座っている為に白い太腿が露わに……ごっくん。な、ナニを生唾飲んでいるのだ。スパイたる者こんな女に心を乱されるようなことがあってはならない。前もこんなことを考えていたような気がするが、兎にも角にもこんな絶対に動じないぞ。動じないったら、動じないんだぞ。
「…………ッ」
「あれ? 何で、今、私から顔を逸らしたの? あっれれ~~? おっかしぃなー」
クッ……なんたる屈辱。
今にもニヤニヤという擬音が聞こえてきそうである。目の前の女を意識しないと念じれば念じるほど意識をしてしまうという何たるこの悪循環。お、おのれ……このスーツの懐に眠るトカレフで目の前の女を黙らせてやりたいところだが、今の僕は己のトカレフを鎮めるので精一杯である。それどころではない。し、しずまれ!しずまるんだ、僕のトカレフよ!キョエェエエ……!
「フゥー……」
「ヒャァウ!」
「『ヒャァウ!』だって。かーわいいんだ、佐藤くん」
田中某に耳穴に生暖かい息を吐かれて思わず悲鳴を上げる僕。
く、くそお!い、今に見てろ!ぼ、僕のトカレフでお前をお仕置きしてやる!
キーンコーンカーンコーン
「あ……予鈴のチャイム鳴っちゃった、残念だね。じゃあ私、席に戻るね、佐藤くん」
田中某は名残惜しそうに僕の席から離れて自分の席へと戻る。
残念だ……もうすぐ僕のトカレフが火を噴くところだったのに。気を取り直して、足元の携帯ゲーム機を拾い上げる。フフフ、まあ、いい。あの女を調教してやるのはこの地雷ゲームが終わってからでいいだろう。そして僕は気を取り直して、携帯ゲーム機のディスプレイに目をやる。
「あ……」
携帯ゲームのディスプレイは割れ、天に召されていた。




