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横四楓院絞男はヒトカラがお好き

「僕は自由だああああああ!!」


 朱色に染まった人が行き交う時間帯の繁華街。

僕はアスファルトの舗装道路に両膝をついて両手を思い切り空に向かって挙げ、その場で銅像のように固まっていた。フフフ、喜びのあまりついコロンビア万歳の型をとってしまった。幸福度九十九パーセントである。


「ギャハハハハハハ! 何だしあの痛T野郎wwwマジウケるっちゃwww」

「もしもし、病院ですか? 駅前の繁華街で『僕は自由だ』とかオタクボッチの佐藤くんが発狂してるんです、ハイ」

「ウ゛ッ~~~ワンワンワンワンッ、ハッハッハッ! キャンキャンキャンキャン! ガルルルルルル……!」


 フフフ、ヤマンバのようなコギャルに指差されて笑われようとも、野良ワンコに親の仇のように異常に吠えられようとも今のテンションあげまん状態の僕はナニをされても気にならな……だ、誰だ今、僕の事を痛T野郎とか言った非国民は。『魔法処女プリン』のTシャツもとい僕の礼服を馬鹿にするお豆は万死に値するぞ、こらあ!っと、冷静になれ僕。野次馬など今の僕には皆、毛の生えたダイコーンに見えるぞ、フフフ。


 今日はようやくあの僕にとって鬼門である田中某の魔の手から逃げ果せたのだ。これで喜ばない僕はいない。『先生、先程僕の親戚が不幸にあったとの連絡がありまして』この魔法の言葉(嘘)で授業中でも早退できるという寸法である。まあ、七千百十一人目の親戚の葬式だから流石にそろそろこの手も使えないだろうが。忌引きとあっては田中某も手が出せないし、僕が教室からそそくさと出て行く間際のあのメス豚のキョトンとした顔ときたら……フフのフ。あの女の顔でご飯五杯はイケるぜ!何なら今なら路肩のその辺に転がってる犬の糞でご飯六杯はイケるぜ!いや、ごめん。何か今のは変態を通り越して只の危ないヒトみたいだったからノーカンで。


「さて……今日はナニをしよう」


 今日はハナキン、いわゆる『花の金曜日』である。

ある社会の畜生は浴びる様に酒を飲んだり、またあるニートは画面の中にいるあられもない姿のヒロインをオカズに自分の香ばしい聖棒を弄んだり、またまたある僕のオカンは自分が産んだ鼻糞を息子や娘に喰らわせようとしたり……各々の愚民共が翌日の休日に想いを馳せながらフライデーナイトフィーバーを楽しむのである。無論、学園スパイである僕も世間様様の様式に則り、週休二日制で金曜日は大好きである。崩れないカレイの煮つけよりも大好きである。


「よし、今日は君に決めた……」


 珍獣トレーナーのような台詞を口にしながら僕はネオン街のとある建物に入った。『イラッシャイマーシー、ワテノオパイサワルカ~! オ~、ビックビク!』とイカれたにわかガイコク人のように喋る店員の男にとある個室に案内された。『ビショジョノォドリンクハノミホウダイネー! ユックリ、シコシコシテネ~! オ~、ビックビク!』と謎の捨て台詞を言い残しこの場から去って行った。ここは風俗か何かか?何が、ビックビックだよ。お前をこの僕の黒光りするぶっといトカレフでビックビクにしてやろうか?


「まあ、いい。あんな不愉快が服を着たような店員は忘れて今日は思い切りストレスを発散しよう」


 僕はマイクを握り、端末に歌いたい曲を入力する。

僕の…スパイのストレス解消法の一つ、それは『カラオケ』である。正確にはこの自分だけの空間で思いの丈を歌でぶつける『ひとりカラオケ』、通称『ヒトカラ』である。大のスパイがヒトカラってシャバくない?と思われたそこの貴方、それは間違っている。だいたい、ヒトカラは……(中略)……おわかりいただけただろうか?だ、誰だ、僕の誰得豆知識を省略した小市民は。まあ、いい。今日の僕はすこぶる気分が良いから、汚水に流そう。ちなみに僕の十八番はアニソン全般である。


 チャン~~チャン~~チャチャッチャチャチャッ!


 僕が端末に入力したアニソンのイントロが狭い個室に心地よい春の息吹を迎え入れる。嗚呼、アニソンの痛々しいBGMが五臓六腑に染み渡る……ヨシッ、気合を入れて今日は歌うぞ!聞いて下さい……アイドルマスターSHIMEO、『最強○×計画』。


「ちらり」

「こ、づ、く、り、しまっ……ショォオオオオオオイ!?」


 み、見たくなかったものが見えてしまったでござる。

何となく格好つけて振り向きウィンクなどという誰得仕草で歌い出した僕が間違っていました。背後に振り向いた瞬間、個室のドア窓から幼気な僕を狙うような眼つきで覗く刺客が……!


「わ、わ、わわわ……!」


 僕は流れるアニソンを無視して咄嗟にドアの向こう側にいるアレルゲンの侵入を遮断すべく、ドアを押し付ける様に閉めた。


ガンガン、ガンッ!


『こ~ら~こ~こ~を~あ~け~ろ~わ~た~し~を~い~れ~ろ~』

「ヒェ!」


 な、何かのドラマでこのシチュに似た展開があったような気がする!

僕は身体全体でドアを抑えて、アレルゲンの闖入を防御する。やばいやばい、やばい!何がやばいのか自分でもよく分からないが、兎に角ここを開けたら僕は元の人間でいられない気がする!……なんでやねーん。ひ、一人でつまらんツッコミをしている場合ではない!ど、どうしよう、頼みの綱のトカレフは……し、しまったあ!学校の机の中に置き忘れた!何たる失態!上司にお尻ぺんぺんされる!


『なんで途中でやめるんだよー! 最後までうたってよー! アイドルマスター! アンコール! 歌えよー! あいどるますたぁー!』


 繰り返し個室のドアを叩き、ドアの向こう側から僕に向かって声高に叫ぶ田中某。こ、こいつ、エスパーか!?何故、僕がアイドルマスターであることを知っている!何故、僕が此処にいることを知っているんだこのストーカー女はぁああ!


『最初に伏線張ってたでしょー! コロンビア万歳の下りのとこ! 佐藤くんが僕は神だ!とか叫んで葉っぱ隊になるとこ!』


 あ、あの病院に電話してた野次馬はお前か!

しょ、しょうもない伏線を貼るんじゃないよまったく!あと、何か微妙に違くないですかその場面!?


「と、いうわけで。むっふっふ、到着」

「えっ……。えぇ、う、嘘ぉ!?」


 わ、ワープしおったでこのアレルゲン女!

ドアの向こうでガンガンとドアに攻撃を仕掛けていた女がいつの間にか個室のソファにドヤ顔で座っていた。しかも、ドリンクバーのビショジョノドリンクも飲んじゃってるし!何だビショジョノドリンクって!あのイカレタにわかガイコク店員の口癖が移ってしまったぞ!


「ふっふっふ……私の女子力とヒロイン力をもってすれば、こんな芸当朝飯前なのだよ、アイマスくん!」


 吃驚して生まれたての小鹿のように震えている僕に向かって、そう言いながらえばりくさる田中某。あ、アイマスくん言うな。ち、畜生……次元を歪める能力でももってるのかこの女。非常識が不幸を背負ってやって来るようなものだぞ。


「さー! せっかく来たんだし歌おうよアイマスくん! あ、今の邪魔しちゃったし、折角だからもう一度、アイマスくん、どーぞ! あ、TMの恰好で歌うのもいいネ! 臨場感出るし!」


 悪意の『あ』の字も感じられない笑顔を浮かべる田中某は僕にマイクを手渡してくる。同級生の美少女の前で痛々しいアニソンを熱唱するTM美男子……それ何て拷問?何か変なプレイですか?ち、畜生め、先刻から黙って聞いてりゃあヤリタイ放題やりやがって。僕はな!お前を即死に至らせる魔法の言葉を知っているんだぞ!いいだろう、喰らえ!必☆殺!


「く、くまぱ」

「歌わないと切ねえに『汚された』ってちくるから」

「こ、づ、く、り、しまっショォオオオオオオウオオオオイ!」


 長いものに巻かれよ。

結局僕は、田中某の言われるがままにTMの恰好で一生の恥を晒すことになったのである。畜生!いつかそのたわわに実った巨峰を弄り回してやるんだからね!

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