横四楓院絞男は昆虫がお好き
「ふぁいとふぁーいとぉ! ふぁいとふぁーいとぉ!」
朝練の部活動をしている女子の黄色い声をBGMに僕は校庭のベンチで一人、葉巻を吸ってボーっとしている。フゥ、空気の澄んだ早朝のこの時間に揺れ動く女子のおっぱいプリンやカイワレダイコンのような太ももを観察しながら吸う葉巻は実にうまいものである。それに人気も少ないから、かまってちゃんに服を着せたような女子とか暗殺ラヴァーなオイタ妹とかレズ通り魔といった害獣四天王にエンカウントないし襲われる心配も無い為、この時間はスパイである僕にとって大変貴重なのである。え?四天王なのに四人いないって?最後の害獣四天王は君たちの心の底にいる……なんてのは如何だろうか。
「フゥ~~…………ん?」
ふと視線を女子のパイ乙から真横の誰も座っていないベンチに向けると、そこにはちょこんとお利口さんに佇んでいるバッタがいた。身体の大きさや外見からしてショウリョウバッタか。そうか、お前も女子のだらしなくてエロい身体を観察しているんだな。
「こんにちは」
「キチキチキチキチ」
何故だか同族意識を感じた僕は葉巻を吸う手を止め、バッタ様に向かって
斜め四十五度でお辞儀をした。すると僕の声に呼応するようにバッタ様は音を立てながら僕の手の甲に飛び乗った。スパイは基本的に送り狼である。すまん、テイク2。スパイは基本的に一匹狼である。そこに一抹の寂しさを感じたことは無いが、自分と近しい人間……人間じゃないな、昆虫と出会うとつい敬礼したくなるのはこれもバッタの性……僕はバッタじゃないな、スパイの性である。
「よし、じゃあ一緒にスケベ女子を見ようか」
「キチキチガイキチ」
『そうだな、心の友よ』
バッタ様は残念ながら日本語で意思疎通をとることはできないが、心と気持ちを通わせることができる。この場所でこの時間この瞬間……今、僕とバッタ様は合体もといキモチが一体化したように思える。畏敬と尊敬の念を込めて今風に『ヴァッタ様』とでも呼ぼうではないか。是非とも機会があれば、今度は『野郎の乳毛は何のために存在しているのか』を議題に一晩中、酒でも飲みかわしながら語り明かしたいものである。
「にぃに! お弁当忘れてる! 暗殺する!」
ヴァッタ様と戯れていると、僕とヴァッタ様の愛の巣もとい愛のベンチにとてとてと駆け足でやってくる女子が一人。害獣四天王が一人、妹の睦海である。ちっ、煩わしい奴がやって来た。棲家に弁当を忘れるとはスパイである僕としたことが不覚である。
「ご苦労。だが、僕とヴァッタ様の水蜜桃のような一時を邪魔するんじゃないよ」
「ヴァッタ様って、にぃにの架空のお友達? それより早くその毒入りお弁当を食べて私に暗殺されて!」
「ど、毒入りだと……一体、どんな毒を入れたんだ?」
「私の聖水を仕込んでおいた」
「そうかそれは、たいへんな猛毒だな」
「…………」
「…………」
「嘘です……ごめんなさい。今の訂正させてください、正確には私の聖水ではなくぺス(※にぃにの愛犬♂)の産んだ聖水を仕込みました」
睦海は涙目になって僕から目を逸らし、消え入りそうな声でそう呟く。
ふ、ふざけるな、どちらにしても猛毒ではないか。何故、そんな意味のない嘘を吐くんだこいつは?それにしてもあの駄犬め。僕の貴重なランチを無駄にしやがって。ドーベルマンとして傍においてやろうと思っていたが、犬鍋にして喰ってやろうか。あと、目の前にいるキモウトに対して何か制裁を下さないと僕の気が済まない。スパイである僕に嘘を吐いたこともそうだが、豚の餌(←くさや)のような食糧を無駄にした罪は相当に重い。
「キチキチキチキチ」
『絞男、大丈夫だ。ここは俺に任せろ』
手の甲でじっと待機し、僕を見つめるヴァッタ様の瞳はそう言っている様に心で感じた。そうか、お前がやってくれるのか、ヴァッタ様。ふむ、何の事ですかさっぱり分かりません!だが、よろしく頼みます。以心伝心とはまさにこのことである。僕はヴァッタ様の溶けちゃいそうな熱い視線に対してコクリと頷き、見守ることにする。
「に、にぃに……? と、ところで、その手に乗ってるイキ物はなんなの?」
睦海は全身を震わせながらヴァッタ様に指差し、僕に尋ねてくる。
そういえば、こいつ小さい頃から昆虫の名を持つ生き物は全面的に事務所NGだったな。
「キチキチキチキチ!」
ピョーン
「ぴっ……!? ぴゃああああああ!!」
ヴァッタ様は僕の手の甲からいきなり睦海の頭へ鳴きながら飛び移る。
己の髪に張り付いたヴァッタ様に嫌悪感を抱いたのか、睦海はそのままお弁当を放り投げてこの場から逃走した。睦海に振り落とされたヴァッタ様は見事僕の目の前の地面へと着地し、僕と対面する形となる。
「キチガイキチキチ」
『あの小娘に社会の厳しさってもんを教えてやったばい、フヒヒ!』
僕は今ここに確信した。此奴は僕の永遠のパートナーであり、残りの害獣四天王を打倒する僕の新たなる『力』となり得る存在であることを。
【ヴァッタ様が絞男くんのお仲間になりました】
──昼休み、教室。
「おお、ヴァッタ様……ああん、私のヴァッタ様ぁ……貴方はどうしてこんなにも可愛いのお? 教えて、私のヴァッタ様あぁん」
「キチキチキチガイ」
「……。事案です! 事案です! ぴーぽー! ぴーぽー! みなさん、事案です! 佐藤くんが変態になりました!! みなさん一次避難して下さい!! 繰り返します、事案ですっ…! 事a」
自分の机の上で今朝のヴァッタ様と甘い一時を過ごしていると、それを見ていたのか害獣四天王が一人、田中恵が突然、大声を張り上げながら駆け足で教室から出ようとしていた。いかん、これはとってもイ・ケ・な・い・ぞ★僕は慌てて自分の席から立ち上がり、田中某の後を追った。
「まっ! 待ってくだしゃい!! これは違うんですあのその」
「うん。心配しなくてもちゃんと私は分かってるよ。佐藤くんが、今からそのバッタを性的に喰い散らかそうとしてるんだよね。相手が誰であろうと自分の遺伝子を後世に残そうとする佐藤くんのその逞しさは性獣に匹敵するよ」
ぜ、全然わかってないではないか。しかも勘違いの仕方が斜め上過ぎる。
「違うっ! ……違うんです」
「まあ、佐藤くんが性獣なのは今に始まったことじゃないし。で、その性獣の佐藤くんに聞きたいんだけれど、そのバッタ……とってもおいしそうだね。良かったら性獣行為の後でもいいから私にも分けれくれないかな、じゅるり」
せ、性獣性獣、言うな。
田中某は僕の人生パートナーであるヴァッタ様を羨ましそうな顔して見つめがら、口元の端から涎を垂らし、そう口にする。……は、はえ?ちょっと待って。この方、今なんて言ったの?
「バッタって、エビみたいな味がするんだよね……はー、楽しみだね!」
「キチキチキチキチ!(さいなら)」
ピョーン
ヴァッタ様は僕の机の上から窓の外へ飛び出し、ダイナミック自殺を図った。ちょっ、おまっ、ヴァッ……ヴァッタ様ぁ!?
がぶっ!
「んっほぉおお゛お゛お゛!!」
ヴァッタ様の呆気ない戦線離脱に呆然としていると突然指先に痛みが走り、情けない声を上げてしまう僕。な、何だ次から次へと!展開が激しいな!恐る恐ると自分の指先へ視線をやると。
「がぶっ! んぷっ……ンッ、はあ」
僕の指先を噛んでいたのは田中某であった。
僕の指先から口元を離し、指先と口にかかる唾液の虹ができるその様と仕草が何かエチく感じたのはきっと僕の気のせいです。
「あ、あの……? 何して」
「ん? いや、あのね。バッタ触ってた佐藤くんの指先からほんのりエビの味がするかなって思ってね。にっしっし、伊勢の気分を味わえたら幸せだよねーってことで、もういっちょがぶり!」
田中某はとびっきりの笑顔で僕に向かってそう口にしたかと思うともう一度、僕の指先をスッポンの如く噛みついてくる。な、ナニを訳の分からないことを言っとるんだこのポンコツ女は。ていうか、いってええええええ!!やめええええええ!!
【ヴァッタ様は童貞を捨てました】




