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横四楓院絞男はジオラマがお好き

 男なら一度は自分の城を持ちたいと思ったことがあるだろう。

僕もその口である。いや、スパイたる僕にとって自分の城という名の棲家は極秘任務をする上で重要であるし、絶対に敵対組織に知られてはいけない便所と同列な聖域であることは最早言うまでもない事実である。確かに、現在僕は自分の城である棲家は一応はある。しかし、である。今の僕の棲家は、『にぃに、にぃに!』などと壊れたカセットデッキのように喋りまくる妹や徒手拳法という名の凶器で僕を攻撃してくるこれまたクソ喧しいオカンが駐在している為、諜報活動もままならない。そして、ゆっくりと疲れた身体を休める居場所も存在しない。


 自分だけの自由な空間に想いを馳せる。

存在はしないが、その理想の空間に手を伸ばそうと思いを巡らす行為は何て素敵なのでしょう。言うなれば、自分が言ったことのない異国の地へ降りっ立った時のあの気持ち。ワクワク、ドキドキ、ビックビク……どんな気持ちであろうとあの昔日の自分が無邪気な少年であった頃の気持ちは今でもずっと忘れず持っておきたいものである。


「だから、僕は大阪城を作る……」


 僕は一人ぼそりと自分に言い聞かせるように自席で呟く。今、僕の机の上に広がるは兵どもが夢の跡……いや、ちょっと違うな。僕の城もとい大阪城になりかけの残骸である。……失礼な、残骸とは何事だ。大阪城のジオラマ製作の途中段階である。これは僕の趣…スパイの任務としてやるべき行為なのである。


 ジオラマ何てあれだろ、プラモと同じようなものだろ、大のスパイがする事かよ……と思われるかもしれないが、ちょっと待って欲しい。馬鹿にするのは早計である。だいたい、ジオラマ製作はスパイの諜報活動において重要となるキーアイテムであると僕のスパイ界では常識中の常識なのである。


 三つ、メリットがある。まず、一つ目は『手先が器用になる』。これは思いのほか重要な事でスパイたる者、爆弾の一つや二つ、三つや四つ製作できる手先の器用さが必要である。そして、二つ目は『想像力』と『妄想力』の育成である。これはラノベでも述べた事であるが、ジオラマを製作しながら自分が一国の主として居を構える気持ちを思い浮かべる……『想像力』『妄想力』は危険察知能力において重要なスキルである。最後、三つ目は『アジトの複製』である。頭の中にはてなマークを浮かべる方がいるかもしれないが、要するに敵対組織から自分の身を守る防衛策といっても過言ではないだろう。スパイは棲家を一か所に固めてはいけない、何故なら命を狙われる危険性があるから。


「だから、僕は大阪城を作る……」


 スケールは一分の一ではない為、人間の棲家としては程遠い規模ではあるが、もし仮にこのクラスに生徒に扮した変態ボマーがいた場合これを隠れ蓑として大いに活用できるのである。……誰だ、今、それは支離滅裂な言い訳だろ、とか思った反逆者は。いいだよ、スパイは支離滅裂なくらいの方がちょうどいいし、美学に反していない。それはともかく、よし……あと三分の一くらいで完成だな。周りの奇異な視線に囚われず、この昼休みという名の貴重な時間で殆どを完成させよう。


「アーロハー、佐藤くんこんにちは! 今日は何してんの?」


 ……やだぁ、来ないで…。僕の願いは空しく今日も今日とて性懲りもなく僕の敵、田中某が自席にフラフラとやってきた。何がアロハだよ。ここはニートの国、ジャパンである。非国民はこの教室から出て行きなさい!と大声で張り上げたいところであるが、下手に反応すればこの女の思い通りである。だから僕は徹底的にこの女を無視する。


「…………」

「あ、今日はプラモ作ってるんだ。男の子ってこういうの好きだよねー」


 僕がきっぱりさっぱり無視しても田中某は全然動じず、僕のジオラマを物珍しそうに眺めながらどうでもいいコメントを投げかけてくる。危うく、プラモって言うななどと、どうでもいいツッコミをしてしまうところであった。本当に危ない……とにかく、今日はどんなことをされても無視するんだぞ。たとへ、お宝本が燃やされようと自分の棲家が燃やされようとも……ナニをされてもタングステンの精神でこの女と対峙しなければ立派な諜報員になれやしないぞ。


「…………」

「にっしっし、私にはそういうのよく分からないけれど……男の子のロマンかな? うん! 分かる気がするよ!」


 田中某は人懐っこい笑顔を浮かべて、そう口にする。男のロマンなどと安っぽい言葉を使って適当な事を言うんじゃないよ。しかもなんだ、分からないけれど分かる気がするって……女の心は複雑怪奇って奴ですか?そういうのは、り●んとかなか●しとかち●おとか僕の愛読の少女漫画でしてください。


「…………」

「……ねー。いい加減、何か反応してよ。佐藤くんはぽんぽこ狸の置き物じゃないよね、ねーったら」


 田中某は僕の机を指先で叩きながら、不満そうに頬を少し膨らませて口にする。畜生、このメス何て失礼な事を言うんだ。とにかく今日は絶対に無視してやる。何故かって、それは。


 黒岩魔切とかいうレズ魔の報復が怖いからですっ……!


 しかも聞いたところによるとあのレズ魔、僕よりも年下で睦海と同年代の中等部にいるらしい。あの眼力で、あの迫力で、あの恐ろしさで年下ですか?世も末である。そして昨日、あのレズ魔が去り際『もし、恵に手を出したら……夜道に気を付けるんだな』とか脅迫めいたセリフを残していった。だから僕はこれからこの目の前の天然女を徹敵的に無視することに決めたのである。……無論、スパイとして一般人の戯言など耳に傾ける必要などないのだが。


「…………」

「……むー、そう。佐藤くんがそういうつもりなら……いいもん、我慢比べだよ」

「…………」

「じとー……」


 そう言って、田中某は僕の前の席に座り、僕をじっと眺めている。

……や、やりずらい。じとーとか言葉に出すんじゃない。他人の視線というモノは思いの外、居心地が悪いものである。そうか、普段僕は美少女を諜報しているからひょっとしたら美少女も僕の視線に居心地の悪さを感じているかもしれないな、って冷静に考察している場合ではないっ。何とかこの女を追っ払う方法は無いだろうか。……いや、あった。僕はこの女の弱みを既に握っている。魔法の言葉でこの女を追っ払おう。


「……クマパン」

「!?」


 僕が独り言のように魔法の言葉を呟くと、案の定、田中某は驚きの表情のあと、見る見るうちに頬をトマトのように染め上げる。フフフ、そうだその羞恥心に満ちた女の顔を僕は見たかったのである……違うそうじゃないぞ、僕。さっさと恥ずかしがってあっちにいけ、し、し、しっ。


「……さ、佐藤くん、見たのあの時」

「…………」

「み、見たん……だよね?」

「…………」


 田中某はマナーモードに用にふるふると震えながら僕に確認してくる。

し、しつこいなコイツ。さっさと、立ち去れよ……僕がレズ魔に襲われる前に。だいたい、お前のお子様パンツなどこちらは見ても何とも思わないのである。まあ?精々、三回くらいはそれで夜のオカズに……いや、圧倒的に違うぞ僕。とにかく、この女がとっとこ立ち去る為に僕が今から心の中で呪文を唱えてやる。た~ち~さ~り~な~さ~い、こ~こ~か~ら~、た~ち~さ~り~な~さ~い~(←ハスキーボイス)。


「さ、佐藤くんのバカぁあああああ!!」


バァンッ

ガラガラ、ガラガラ~(←夢の跡が瓦解した音)


 えっ、ちょっ、おまっ!うっそだろおい!

田中某は僕の机を思い切り叩き、『佐藤くんの熟女好き~』とかとんでもない台詞を言い残して走り去ってしまった。机を叩いた衝撃で製作途中の大阪城は簡単に崩れ去ってしまった。じょ、冗談だといっておくれよ、ヴォーイ……。

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