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04-下の下

 滴る汚水が錆びた鉄パイプを伝い、アンダークロフトの冷えた闇へ定期的な音を刻んでいた。


 旧文明の廃線跡――ネオ・フロンティアの巨大な質量が頭上に重圧となってのしかかる都市最深部。ミッド・ティアの施設で大規模な爆破を引き起こしてから、すでに二十四時間が経過していた。


 網状のドラム缶で爆ぜる小さな焚き火。その傍らに敷かれた薄い毛布。


 それが、アマディオが用意できた唯一の家だった。


 アマディオは愛用の白銀のM1911を右手に握りしめたまま、壁に背を預けていた。


 彼の視線の先には、焚き火の炎を無心に見つめる少女――リサが座っている。


 頭の奥で、じくじくと不気味な脈動が続いていた。


 一度はハッキングで焼き切られ、完全に停止したはずの自分の脳。その途絶えた神経回路をバイパスするように、リサの異常な脳波が滑り込み、アマディオの生命維持を肩代わりしている。


(俺の命は……この少女の脳と繋がっている……)


 どちらかが死ねば、もう片方も死ぬ。不可逆の生命リンク。自分の生死の主導権を他人に握られているという事実は、孤高の傭兵にとってあまりに耐え難い困惑だった。


 だが――目の前にいるリサは、世界を崩壊させかねないと恐れられた『最凶の生体兵器』には到底見えなかった。


 ジャンプスーツを着せられただけの華奢な肩。何を聞かれても理解できずに首を傾げる無垢な表情。危険な兵器などではなく、知識も感情も満足に与えられずに育った、ただの不憫な少女に過ぎない。


「……アマディオ。体温の低下を検知。リサの脳波バイパスによる負荷ですか?」


 リサが無機質な声で問いかけてくる。だが、その声には微かな探るような響きがあった。


「いや……問題ない。静かにしてろ」


「なぜ……リサを助けたのですか? ラボのデータによれば、貴方の行動は非合理的です。逃走による生存確率は極めて低い……」


「俺が助けたんじゃない……お前が俺の命を拾ったんだ、小娘。でないとハッカーに脳を焼かれ、どの道死んでたさ」


 アマディオは自嘲気味に呟き、頭を振った。

 その時、彼の耳が、湿った闇の奥から響く足音を捉えた。


 カツン……カツン……静寂を切り裂く、迷いのない硬い靴底の音。


 アマディオは瞬時にM1911のハンマーを起こし、暗闇の境界線へ銃口を向けた。


「そこにいるのは分かっている。動くな」


「……死人が銃を突きつけてくるとは、世も末だな」


 闇の中から現れたのは、煤けた革ジャンに身を包んだ青髪の女だった。


 ハイヴ・ギルドの密輸業者――ノヴァ。


 彼女は切り詰められたショットガンを肩に担ぎ、信じられないものを見る目でアマディオを凝視していた。


「ノヴァ……」


「アマディオ、冗談だろ……? エシュロンの公式アナウンスじゃ、お前は施設で脳死確認されたって流れてたんだぞ。サイモンから『アマディオからSOSが来た』って聞いたとき、幽霊の悪戯かと疑ったが」


 ノヴァは引きつった笑みを浮かべ、驚愕を隠しきれない様子で首を振る。


「……一度、死んだのは本当だ。説明しづらい事態になってな」


「そうか……なら、良い。生きているなら、それで十分だよ」


 ノヴァはポケットから使い古された暗号化通信端末を取り出し、アマディオへ放り投げた。


 スピーカーから、聞き慣れた情報屋サイモンのガラガラ声が漏れ出す。


『……おいおい、マジで生きてやがったのか、アマディオ。エシュロンのネットワークじゃ、お前のバイタル消失通知で持ちきりだったんだぞ……!? まあいい、無事なら何よりだ。ミッド・ティアは現在、非常線でガチガチだぞ。お前の首には「HEAT 4 コア・ブレイク」――即時抹殺の最高懸賞金が懸かっている』


「……すまん、大事になった」


『謝るな。それより……お前が命がけで奪い去った「プロトタイプ・アリス」……その少女を意地でも守り通せ。助かりたいなら、追手が回る前に俺の店に来い』


 ブツリと通信が切れる。ノヴァが手際よく端末を回収し、視線をアマディオの背後にいるリサへと向けた。


 世界を揺るがす危険兵器――そう聞いて警戒していたノヴァの表情が、リサの姿を目にした瞬間に強張った。


「……これが、『プロトタイプ・アリス』? ただの子供じゃないか……」


 ノヴァはゆっくりとリサの前で屈み込んだ。


 銃を構える手とは対照的な、慈愛に満ちた優しい手つきで、リサの小さく冷たい手をそっと包み込む。


「怖がらなくていいよ、おチビちゃん……あんな冷たいラボから引っ張り出してくれたんだ。あいつと一緒に、誰も手出しできない場所へ行こう」


 リサは自分の手を握るノヴァの温もりに戸惑うように、青い瞳を瞬かせた。


「……手の……温度が……あたたかい……」


「当たり前だろ。人間なんだからな」


 ノヴァは立ち上がり、ショットガンを叩くようにしてアマディオを見た。


「行くぞ、アマディオ。守ってやる。掃除屋どもがこの静寂を壊しに来る前に、サイモンのところへ逃げ込むよ」

【データベース】


 アマディオ 年齢35歳 身長186cm 体重74kg


 国籍: 新アメリカ合衆国

 出身地: ロウワーティア−ネオハーレム地区、殺人通り(キラーストリート)

 目の色: 緑

 髪の色:茶

 肌の色: 白


 元新アメリカ合衆国陸軍歩兵連隊所属、伝説の兵士ガレス・オブライエンに見出され、空軍の特殊諜報作戦組織『KANINE(ケイナイン)(正式名称: Kinetic Assault and Navigation Intelligence Network Element(機動強襲・航法情報ネットワーク部隊)』に拾われる。

 その後新アメリカ合衆国に失望し、職務を離脱。情報を抹消し、ロウワーティアで流れ者として生活し始めた。


 髪型は無造作なマレットヘア。ツンツンヘアとも揶揄われる。

 服装はブラウンの革ジャンとベージュの、くすんだ色のスキニージーンズに、各種ベルト、ホルスター、弾倉ポーチといった古着と軍用装備を掛け合わせたものになっている。


 愛車は銀色のサルーンクラス『Audi A7』。(よく大破する)

 かつては日本製の赤いスポーツカーを愛用していた模様。(TOYOTA GR86)


 武器は白銀に輝く『M1911』自動拳銃。市場に出回ることは滅多にない非常に価値の高いモデルである他、世界三大銘木として知られる赤褐色のマボガニーを削り出したグリップや、銃身への碑文の打刻といったエングレービングは今日の新アメリカではなかなかお目にかかれないらしく、『家一軒はくだらない程の価値がある』とのこと。


 孤児院出身。


 ロウワーティアでかつての旧友サイモンと接触をし、ハイヴ・ギルドの『外部の傭兵』として密輸、詐欺、強盗、暗殺契約を請け負い生活費を稼いでいたところ、エシュロン・コープの傘下組織『ジェネシス・ラボトリーズ』の職員であるドクター・サマラと接触。

 高額報酬を提示され、彼女の依頼を積極的にこなす。

 だがある日、ドクター・サマラの依頼で潜入したミッドティアの秘密基地で人体実験を受けた少女『リサ』と出会い、全てが一変。

 アマディオは企業の電子諜報戦部隊に脳を焼かれるという臨死体験を経て、リサを自分の手で匿うことを決意。秘密基地の電力装置とリサを閉じ込める隔壁をC4で破壊し、エシュロンの私兵を迎撃。

 リサを連れて逃亡生活を始める。

 エシュロン・コープはアマディオの首に生死問わずの賞金を賭けた。

 情報戦略への造詣が深く、工作活動と隠密作戦、ゲリラ戦を得意とする。


 エシュロンの管理下から脱獄し、電脳都市をハック可能な端末『ダーティデバイス』を使用し、ハッキングによる妨害と撹乱を活用した戦闘を展開。


 普段は首元にスカーフとして巻き、戦闘時には口元を覆い隠す特殊な『マスク』は監視カメラの映像を認識を阻害し、常にモザイクがかかった状態にする。


 また状況に応じて煙幕やデコイといった道具も活用する。


 ハッキングによるゲリラ戦術、カメラの認識阻害、アナログな装備。


 アマディオと交戦したマフィア、ストリートギャング、警察、兵士は口を揃えてこう言った。


『見えているのに見えない』と。


 その事から着いた異名はザ・ファントム。


 特殊諜報作戦組織ケイナインに伝わる近接戦術『ガン・フー』の達人。


 彼がハンドガンを愛用するのはこの為である。


 ガン・フーは柔道や合気道などの体術に銃撃を組み合わせ、銃を構えた相手の懐に飛び込み、至近距離で敵の攻撃を捌きながら、零距離で銃弾を叩き込むことで無駄弾を生じさせず確実に敵を排除する為に編み出された戦闘スタイルである。


 『一撃の美学』とも言われるこの戦い方はMemento Moriの異名を持つ伝説の兵士『ガレス・オブライエン』が編み出したもの。


 愛煙するタバコの銘柄はマールボロ。ボックスをジャケットの内ポケットに、いついかなる時も必ず忍ばせている。

 好きな飲酒の仕方は、ウィスキーに牛乳(ミルク)とハチミツを混ぜる『カウボーイ』。


 19世紀の銃器設計家『ジョン・ブローニング』の子孫。父はアッパーティア出身の『ジェンキンス・ブローニング』、母はマフィアの家系に生まれた『ラーチェ・アマディオ』。


 ジェンキンスはエシュロン社の手によって『世帯』が所有する財産を剥奪され、失意のまま衰弱死。ラーチェはまだ4歳ほどだったジョシュア・アマディオを連れてロウワーティアの知人のもとへ亡命。

 ジョシュアが母親の姓を名乗る所以だ。



 リサ 年齢16歳 身長150cm 体重47kg


 国籍: 不明

 出身地: 不明

 目の色: 青

 髪の色:黒

 肌の色: 白


 ミッドティアの工業団地にあるエシュロン・コープの秘密基地に隔離されていた『プロジェクト・アリス』の被検体。コードネーム、リサ。


 元孤児。記憶を奪われ、エシュロンの傘下組織『ジェネシス・ラボトリーズ』の非人道的な実験により「次世代の兵士」を量産するためのプロトタイプと化した。


 その半生を隔壁の中で、或いは生命維持ポッド内で過ごした為、人間らしさは希薄。


 アマディオと邂逅した際は全裸で液体に満たされたポッド内を浮かんでいた。

「ノード・アクセス能力」を持ち、念じるだけで電脳都市をハッキング可能。

 彼女の意識はニューヨークのネットワーク内に存在し、テレパシーじみたこともできる。

 ラボが造ろうとした次世代の兵士とは、念じるだけで電脳化社会を自在にコントロールし、脳波で通信を完結させる『超能力者』のような存在だったのだ。


 名前: ドクター・サマラ

 年齢: 不明

 クラス: アナリスト


 国籍: 新アメリカ合衆国

 出身地: アッパーティア-ネオマンハッタン地区

 目の色: ブラウン

 髪の色: 黒

 肌の色: 褐色


 エシュロン社傘下の新合衆国シンクタンク『ジェネシス・ラボトリーズ』に所属する科学者。

 癖っ毛の髪をポニーテールでまとめた、眼鏡をかけ、仕立てのいいスーツで外部の傭兵や工作員とコンタクトをとる、理知的かつ社交的な女性。


 その本性は自身の手がけた『プロジェクト』の完成を見届けるためならばエシュロン社の命令にさえ逆らい、非人道的な手段を選ぶマッドサイエンティスト。

 ある科学者の証言によると、彼女がチーフとして着任した初めての『研究』プロジェクトの際は、丸三日、仕事以外のことを忘れ放ったらかしにしたらしい。無論、食事、睡眠といった自分自身の生活(ルーチン)もだ。


 ヴィジラント本編を通して、トリックスターのような立ち位置のキャラクターである。



 名前: メイナード・“ディレクター”・ケイン

 年齢: 不明

 クラス: 該当なし


 国籍: 新アメリカ合衆国

 出身地: イングランド、ニューロンドン

 目の色: 青

 髪の色: ブロンド

 肌の色: 白


 新アメリカ合衆国を牛耳る巨大複合企業(コングロマリット)『エシュロン・コープ』の総帥(ディレクター)。


 ロンドン出身の彼は、伝説の傭兵『ガレス・"Memento Mori"・オブライエン』と共に新アメリカ合衆国に渡った。そして新合衆国の諜報部『CIA』と合流。彼は工作員として新合衆国国内で、そして西側とのにらみ合いを続ける『ソヴィエト連邦』領内で任務をこなした。


 やがて彼のCIAへの貢献が認められ、エシュロン社の幹部として迎え入れられる。

 彼はイングランド出身でありながら、新アメリカ合衆国への強い忠誠心があった。


 彼の忠誠心はやがて愛国心へと変わり、様々な問題を排除していった彼は『特別代替大統領(ディレクター)』の地位に上り詰めたのだ。

 


 ノヴァ 年齢26歳 身長158cm 体重51kg

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