16-金の雛鳥
「がッ……アマ……ディ……オ……」
ズドォンッ!!
容赦のない銃撃音とともに、潰れた車体から這い出そうとしていたノヴァの胸腔が弾け飛んだ。
吹き散る血飛沫が、雨と混ざり合ってアマディオの濡れた頬を濡らす。
「ノヴァぁぁぁッッ!!」
絶叫が路地に響き渡る。
スパークに続き、ノヴァまで――仲間が目の前で、虫ケラのように呆気なく命を刈り取られていく。
アマディオの視界が、抑えきれない激怒と動揺で真っ赤に染まった。
握りしめたグローブが、ギチギチと軋んだ音を立てる。
胸の奥で渦巻く殺意が暴論となって暴れ出しそうになるのを、必死に抑え込む。
(落ち着け……ッ! 感情に飲まれるな! ほんのひと目でもいい……奴との会話で時間を稼ぎ、隙を窺うんだ……リサを助け出して、ここから逃げる……!)
「……ガレスッ!! 良心は痛まないのか……? 女を、二人も! 容赦なく殺しやがって!」
激昂を孕んだ声でアマディオは問いただす。
ガレスは血の付着したリボルバーの銃身を揺らし、感情の一片すら交えずに答えた。
「……ロウワーの穢れた売女なぞ、なんの感情も掻き立てられん」
「ッ……!! お前は伝説の暗殺者でも何でもない。ただの金持ちのオモチャ……企業の、血に飢えた飼い犬だッ!! お前は俺の仲間を殺したッ!! スパークは……ハナは、あんな死に方をしていい子じゃなかったッ!!」
「はあ……生き残るための合理的な選択だよ、アマディオ」
ガレスの言葉には、深海のように静かな冷酷さしかなかった。
「システムに必要とされねば、俺たちはただの異分子として処分される……だが、無駄話はここまでだ。作戦時間が終わる。あと数十秒で回収が来る」
ガレスはリサを左腕で丸太のように抱え直すと、右手のマグナムをゆっくりとアマディオの脚へ向けた。
「お前を殺す契約はないが、これ以上邪魔をするなら……脚を、一本貰うぞ?」
(……今だッ!!)
ガレスの視線が、上空から近づく回収ドローンのローター音へ一瞬だけ泳いだ、その時。
アマディオの思考回路が焼き切れるような速度で回転する。
ノヴァへ一発、車体へ三発、スパークへ一発……そして、アマディオの幻影に向けて一発撃った。ガレスのマグナムの残弾はゼロ、そしてオフハンドはリサで塞がっている。再装填の隙はない。
――踏み込み、一閃。
アマディオは濡れた路面を蹴り、雨を割って肉迫した。
腰から弾き出されたステンレス警棒が、鋭い閃光となってガレスの右手首を狙う。
「ハァァァァッッ!!」
激怒と殺意を乗せた必殺の一撃。だが――
――ジャギィンッ!!
金属音が響いた。
ガレスは動じない。リサを抱えたまま最小限の体術で半身を回し、マグナムの重厚な銃身を合わせ、警棒の軌道を易々と受け流したのだ。
それどころか、そのまま滑らかな旋回運動の勢いを殺さず、大口径リボルバーのフレームをアマディオの肩口へ容赦なく叩き込んだ。
ガツゥンッ!!
「あがっ……!?」
骨が軋む強烈な衝撃。アマディオの腕から感覚が吹き飛び、警棒が暗闇の路地へと弾き飛ばされた。
「……いい踏み込みだ、アマディオ。怒りでブレていなければ、あるいはかすっていたかもな。いいSENSEだ」
頭上から強い風が吹き荒れ、冷たい雨の霧を吹き飛ばす。
企業の大型回収ドローンが、アームを伸ばしながら二人の真上へ降下してきた。
「残念だが、時間切れだ」
ガレスはドローンのアームに身を委ね、リサを抱えたまま浮上を開始する。
「安心しろ、ファントム。契約通り、この小娘に無駄な苦痛は与えん。お前の役目はここで終わりだ」
「待て……! 待てぇぇぇッ!! ガレスッ!!」
アマディオは痺れる腕を押し殺し、血を吐き捨てるようにして手を伸ばす。
しかし、ドローンは凄まじい推力音とともに夜空へ跳ね上がり、摩天楼のネオンの渦の中へと消えていく。
仲間を殺され、リサを奪われ、雨の泥水に一人残された傭兵。
アマディオは黒くそびえる都市の天井を見上げ、魂を搾り出すように叫んだ。
「リサァァァ――――――――ッッッ!!!!」




