↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/38

13-バレット・ダンス

(アッパー・ティア 通行人の盗聴)


「ねえ、パパ。テラスの下を見て。雲の海だよ、青くて、もくもくしてる。泳げるかな」


「ハハハ。あれは汚染された霧だよ。もし泳げても、身体が毒を吸ってしまうよ」


「でも、渦を巻いててきれいだよ。あ、雷だ!」


「……み、見つめているだけでも危険かもしれん。そろそろテラスから離れなさい、オプティックに悪い電磁波がさわったら大変だ」

 〈PM13:59〉、アッパー・ティア。


 金融地区。

 空が見える。


 都市の上層は、地表を覆う灰色の霧を突き抜けた位置にある。


 中層(ミッド)、下層(ロウワー)、地下世界(アンダークロフト)からは隔絶された階層。


 都市型コロニーの骨格を覆う円筒状のプラズマの障壁が汚染物質を弾き、このネオ・フロンティアの頂は文明があるべき姿を取り戻している。


 青空と太陽の光、緑の芝生……黒光りする摩天楼、張り巡らされた高速道路。


 微かに見える青空を未だ遮る、頭上数キロメートルで永遠に停滞する排気ガスと湿度の層。


 そこを突き破るように、クロームめっきの塔が幾重にも立ち並ぶ。


 それぞれの表面には、巨大な企業のロゴが、青、緑、そして赤のネオンで、無感情に瞬いている。



 * * *



 そんなアッパーの金融地区の一角にある『スカイライン・ヴォルト』は、摩天楼の一角を切り取ったようなカフェだった。


 壁面は全面が防弾処理されたスマート・ガラスで構成され、下層に広がる都市全域を見下ろす景観が売りである。

 ただし、そこにあるのは雲海ではなく――光化学スモッグと企業のドローンが織りなす灰色の潮流。


 空間を満たすのは、穏やかなアンビエント・ノイズと、エスプレッソ抽出機の控えめな駆動音だけ。


 テーブルは磨き上げられた純白の人工石、椅子は姿勢矯正機能付きの硬質なポリマー素材でできており、座り心地よりも機能性が優先されている。


 自然の温もりを排除したこの空間は、高位の取引が極秘裏に行われる、アッパー・ティアの縮図だった。


 ――アマディオは、その硬質な空間の入り口で一瞬立ち止まった。


 黒いスーツを誂え、周りの洗練されたスーツ姿の客と馴染み、それはさながら偽装効果を持つ迷彩である。


 無表情なウェイターが彼の存在を認識し、指定されたテーブルへと無言で誘導する。


 彼は席に着く前に、反射的に周囲の客と監視カメラの位置を確認した。

 まるで、洗練された食料庫に迷い込んだ肉食獣のように。


 アッパー・ティアに足を踏み入れるのは初めてとなる。アマディオが目にしているものは……果たしてこれは現実のものなのか。この荒廃しきった世界で、まだこんなにも綺麗なものが存在するなど――そして今、アマディオの脳裏をよぎるのはリサのことだった。


「ミスター・アマディオ。偽のパスポートとスーツ一式は気に入っていただけたかしら」


 アマディオをここに呼び出したサマラは既にそこにいた。


 彼女は窓の外、遥か下を見つめながら、ミルクも砂糖も入れないブラックコーヒーを小さなカップで啜っていた。


 アマディオが向かいの席に音もなく腰を下ろす。

 椅子に深く腰掛けることなく、いつでも立ち上がれる体勢を保つ。


 彼の警戒心は、カフェのノイズを全て排除し、サマラの唇の動きだけに集中している。


 サマラは視線だけを彼に向けた。

 その眼差しは、人工知能がデータから導き出した答えのように冷たく、感情の余地が一切ない。


「さて、入店から着席するまでの時間も含めて、五分二秒の遅刻です、ミスター・アマディオ。もしあなたにタイムカードでもあれば、この地区では既に赤信号」


 彼女はカップを静かにテーブルに置いた。

 その音は、この静寂な空間にあって、ガラスが割れる予感のように響いた。


 アマディオは鼻で笑った。


「リサを連れ出した俺が、今更お友達リストに載っているとでも思ったか? リサを巡って、俺たちは敵同士だろう。それとも、この会合は宣戦布告の場か?」


 サマラは微かに口元を上げた。それは笑みではなく、演算が正解を導いた際に出る光のような無機質な表情だ。


「敵、そうね。組織的には。だけど、私はもっと大切なことに注目しているの。それは結果。結果が全てよ、アマディオ」


 彼女はテーブルの上で指先を合わせた。


「あなたがプロトタイプ・アリス――リサを保護と称して連れ出した。非人道的な環境から外界へ連れ出し、彼女の生体反応と、未知の環境への適応データを送らせる。それはラボの最高機密であるべきデータを、より早く、より効率的に集めることになった」


 アマディオの表情が硬直した。


 サマラの言葉は、彼の『生き残るための行動』を、彼女の冷徹な計画の『有用な一手』として定義し直したのだ。


「今日あなたを呼んだのは、極めて重大な破綻……あなたたち二人に同時に降り懸かっている『命の危機』について警告するためよ」


 サマラは細い指先を組み、冷徹な瞳でアマディオの顔を覗き込んだ。


「リサの生体システムが不安定なのは言うまでもないけれど……本当に深刻なのは、ミスター・アマディオ、あなた自身の身体だわ」


「……何だと?」


「とぼけても無駄よ。あなたのバイタルデータは常にこちらのスキャナに捕捉されているの。……あなたの脳神経系は、とっくの昔に死滅・崩壊しているはずでしょう? それを今、彼女の〈ノード・アクセス〉能力が外部演算ユニットとして代行し、無理やりあなたの呼吸と心拍を繋ぎ止めている」


 サマラは冷淡に事実を突きつける。


「つまり、あなたたちは『二人で一つの生命体』……共生関係を超えた、綱渡りの異常システムよ。リサのコアが限界を迎えれば、あなたの脳も一瞬で焼き切れて即死する。逆に、あなたの脳が発する死の過負荷は、彼女のプロセッサを内側から破壊しつつあるわ」


 アマディオは息を呑み、奥歯を強く噛みしめた。


 自分の体に起きている異常、そして自分が存在するだけでリサの命を削っているという事実を、サマラは寸分違わず把握していた。


「その双方向のフィードバック障害を止める唯一の術……超高純度の『生体スタビライザー兼栄養剤』がなければ、あと数週間で二人まとめて自己崩壊を起こして終わるわ」


「その薬剤なら、俺がなんとか手配して――」


「その『なんとか』が完全に手詰まりなのも、データが証明しているわ。連日の銃撃事件も、あなたが違法な闇ルートで投薬カプセルを手に入れるために引き起こしたことでしょう? だけど、『コア・ブレイク』のジョシュア・アマディオの殺しの手口が露呈し、自分の首を絞めているだけ。ハイヴの協力ごときでは、すぐに行き詰まる」


 サマラは言葉を切らず、次の単語を静かに放った。


「どちらかが倒れれば、もう一人も引きずり込まれて即死する……共倒れか、自滅かの二択ね」


 アマディオの胸に、冷たい刃を突きつけられたような痛みが走る。


 自分自身の命が潰えようとしていること以上に、自分の存在そのものがリサを殺しかけているという現実が、彼の思考を麻痺させかけた。


「あなたが自分とリサ、双方の命を救いたいなら……私に従うことね。フロンティア・アームズ社の輸送ベイから、その特殊生体スタビライザーのコンテナが輸送されるわ。私の組織ではなく……エシュロン本社に向けてね」


 サマラはポケットから、指紋認証で厳重にロックされたデータチップを取り出した。


 それはクロームの光沢を放ち、アッパー・ティアの無機質な風景に溶け込んでいた。


「私がハッキングによって導き出した、輸送ベイへの唯一の裏口ルートよ……内部のセキュリティシステム、シフトパターン、全てがこの中に収められている」


 彼女はチップをテーブルの上で滑らせた。それはアマディオの目前で、ピタリと止まる。


「あなたは、そのデータを使い、エシュロンの搬入前に強奪を実行する。もちろん、あなた自身の命と、リサの延命のためにね。そして私は、そのデータと、あなたの『奪う』という行動によって生じる次のデータ・フィードを手に入れる」


 利害の一致。互いの命と目的を天秤にかけた、極めて冷徹な取引だった。


 アマディオは一瞬チップを見つめ、それから鋭い光を宿した目で顔を上げた。


「お前の手先になるのは、性に合わない」


「あなたには選択肢がないわ。それとも、あなたの衰弱した脳が限界を迎え、リサを道連れに息絶えるのをただ待つかしら? 『フロンティア・アームズ社の輸送計画』という名の餌を撒き散らした私を指をくわえて見過ごせば、あなたは死の直前まで自分を許せないでしょうね」


 傭兵は沈黙した。サマラの用意周到な罠、そして『お前自身の存在がリサを殺す』という最も残酷な弱点を突いた取引に、抗う術がないことを理解していた。


 アマディオはためらいなくチップを掴み取った。指先の感触は、氷のように冷たかった。


「取引成立ね。健闘を祈るわ、私の新たな協力者」


 サマラはそう言い放つと、カップに残った冷めたコーヒーを一気に飲み干し、立ち上がった。彼女は振り返ることなく、窓ガラスの向こうの、灰色の世界へと消えていった。



 * * *



(クソ、全ては奴の思惑通りか……? だが、俺がリサを連れ出したことが少なくとも奴にとって好都合なら――チャンスはある。集中するんだ)


 サマラが去った後でも、アマディオの体からは冷や汗が噴き出していた。

 スーツの胸ポケットから取り出した綺麗な艶のハンカチで額を拭い、カフェを後にする。



 ――フロンティア・アームズ社の巨大輸送ベイ内部。


 無機質な高天井から吊り下げられたクレーン、壁のように積み上げられた巨大なカーゴ・コンテナ。


 空間全体に金属粉の臭気と、重機のオイル、焦げたゴムの匂いが充満していた。


 目的の超高純度生体スタビライザーを積んだ特殊大型輸送車は、ベイの中央に鎮座している。その周りを固めるのは、重武装したフロンティア・アームズの警備傭兵部隊。


 コンテナの影やキャットウォーク、輸送車の周囲に配置された数名の視線が交差し、隙のない警戒網を形成していた。


(……予備のマガジンは二つ。無駄打ちはできないな)


 アマディオはコンテナの影に身を潜め、テーラーメイドのジャケットの裾を軽く整えた。


 アッパー・ティアの人間になりすますための上質なスーツは、洗練されたシルエットを保つ反面、戦術ベストや大量の予備弾薬を仕込む余裕がない。


 アマディオの瞳が静水のように冷たく冴え渡る。彼は深く息を吐くと、影から影へと滑るように移動を開始した。


 カチャン、とコンテナの反対側の鉄骨へ小石を一粒弾く。


 甲高い金属音に反応し、最外郭を警戒していた傭兵の一人が銃口を向けながら歩み寄ってきた。



 歩調がコンテナの角を通り過ぎた瞬間、アマディオは無音で踏み込んだ。


 敵が振り向くより早く、背から滑り出た特殊警棒が鋭い旋風を描き、傭兵の喉元へ叩きつけられる。


「がっ……!?」


 悶絶する傭兵のアサルトライフルを左手で奪うように跳ね上げ、そのまま右手の警棒で顎下へ突きを叩き込む。


 崩れ落ちる敵の襟元を掴んで衝撃を和らげ、銃声どころか倒れる音すら立てずにコンテナの影へ引きずり込んだ。近接格闘(CQC)による無駄のない制圧。


 だが、隣のラインを巡回していた二人目が不審な気配を感じ取り、コンテナの間から飛び出してきた。


「誰だ――ッ!」


 叫び声がベイに響くのと同時に、アマディオは躊躇なく間合いを詰めた。


 距離を詰めてのガン・フー。


 傭兵が引き金を引く直前、アマディオは警棒でライフルの銃身を強烈に弾いて射線を逸らした。


 懐へ深く潜り込み、相手の肘関節を極めて銃を無力化すると同時に、腰のホルダーから抜き放ったハンドガンの銃身スライド(銃身)で敵の鼻柱を激しく打擲する。


 怯んだ隙を見逃さず、頸動脈へ警棒の柄による正確無比な追撃。


 一発の弾丸も射出することなく、二人目の傭兵が意識を失って膝から崩れ落ちた。


「何事だ!? B区、応答しろ!」


 無力化した傭兵のインカムから、焦りを含んだ警戒の声が漏れる。


 アマディオは奪ったライフルのマガジンを一回の動作で抜き取り、床へ転がすと、冷徹に高所のキャットウォークを見上げた。


 スーツの襟元をわずかに整え、警棒を巧みに手元で一回転させる。弾力性と重量感を指先で確かめながら、アマディオは混乱し始めた警備部隊の死角を突き、目的の特殊大型輸送車へ向けてさらなる潜行を開始した。



 * * *



「――いい腕だ。だが、私のターゲットを横取りされるのは困るね」


 静かな声と共に、コンテナの影から一人の男が歩み出てきた。


 白いデザイナースーツに、襟を開いた黒のドレスシャツ。洗練された身だしなみに、顎には白髪混じりのヤギ髭。


 ライル・シェン――ミッドからアッパーの影を這う、フィクサー連合の超一流エージェント。


「君には上等な懸賞金が懸かっている。私のターゲットリストのトップだよ、ファントム」


 言い終わるや否や、ライルの足が地を蹴った。

 白いスーツが残像を描き、一瞬でアマディオの間合いを潰す。


 ――ドッ!


 放たれたのは、軸の通った見事な中段突き。


 空手の真髄たる一撃に対し、アマディオは間一髪で体幹を捻り、ガン・フーの基幹技術である『CQC(近接格闘術)』で応戦した。


 手首を滑らせて突きを流し、そのまま最短距離でライルの肘関節へ掌底を叩き込む。


 だが、ライルはそれを読んでいたかのように膝を跳ね上げ、アマディオの掌底を蹴り上げた。


 ――バシッ! ボカッ!


 一瞬の間に繰り広げられる、極限の徒手空拳。


 アマディオの無駄を極限まで削ぎ落としたCQCの捌きと関節技。

 ライルの剛毅かつ柔軟な空手の打撃と蹴り技。


 互いの拳と肘、膝が音を立てて交錯し、火花が散るような衝撃が二人の間を奔る。


「ほう……軍隊仕込みのCQCか! 流れるような体術だ!」


「アンタの空手こそ……伊達じゃないな!」


 互いに間合いを外し、両者はピタリと動きを止めた。息一つ乱さぬまま、二人の鋭い視線が空間でぶつかり合う。


 完璧な拮抗――それを打ち破ったのは、天井からの『乱入者』だった。


 ――バッ! スタッ!


 高所のキャットウォークから、しなやかな猫のような身のこなしで少女が飛び降りてきた。


 グラファイト色のツインテールを揺らし、ルビー色の瞳を爛々と輝かせる少女――フロンティア・アームズ社の専属傭兵『セッカ・ザ・ラビット』。


「コア・ブレイクのハイヴに……あら、フィクサーまで? まとめて蹴散らしてあげるわッ!」


 着地と同時に、セッカは手に携えたMP5を掃射。

 同時に、輸送ベイの反対側からフロンティア・アームズの重装増援部隊がシールドを構えてなだれ込んできた。


「チッ……多勢に無勢か!」


 ライルが身を翻してコンテナの陰へ隠れ、アマディオもまたM1911を抜き放ち、押し寄せる増援部隊へ向けて銃口を跳ね上げた。


 ――パンッ! パンッパン!


 シールドの覗き穴、膝裏の装甲の隙間。アマディオの冷徹なガン・フーが弾丸を叩き込み、増援を確実に減らしていく。


「余所見してんじゃないわよ、おっさんッ!」


 セッカがMP5の弾倉を叩き込みながら、驚異的な跳躍力でアマディオの頭上から襲いかかる。


 しなやか且つ、野性的な体術。

 アマディオは遮蔽物で銃撃を受け止め、即座に警棒を引き抜いてセッカの猛攻を押し返した。


「くッ……生意気なあっ!」


 激しい近接戦闘の応酬。アマディオの警棒による鋭い閃光のような打撃、掠め飛ぶ弾丸の衝撃波、そして鋭利なコンテナの突起。


 それらがダメージを与えるのは、セッカの身体だけではない。彼女が身に纏う、高価なナノポリマー製戦闘ボディスーツをも容赦なく引き裂いていく。


 ――ビリッ! バリバリッ!!


「な……ッ!?」


 激しい打ち合いの最中、特殊繊維が過剰な負荷に耐えかねて悲鳴を上げた。


 首元から胸元、さらには側腹部から腰回りにかけて、ボディスーツが大きな音を立てて派手に弾け飛ぶ。


 ブルンッ――!!


 破れ去った生地の隙間から、セッカの豊満な胸元や、眩しいほどの素肌――絶対に隠れていなければならない『大事な部分』が、隠しきれずに剥き出しとなった。


「……っ!?」


 追撃の引き金に指をかけていたアマディオの動きが、完全に凍りついた。


 感情を殺す訓練を受けた百戦錬磨の傭兵の顔が、一瞬で耳まで真っ赤に染まる。


 目の毒以外の何物でもない光景に、彼の高精度な脳内演算回路が『処理不能』を起こしてショートした。


「お、おい……お前……服が……!」


「は? 何言って……って、あ、きゃああああああっっ!?」


 自分のボディスーツが壊滅的な破れ方をしていることに遅まきながら気づいたセッカは、真っ赤になって胸と腰を腕で隠し、跳ね上がった。


「へ、変態! どこ見てんのよこのバカ! なに顔赤くしてんのよッ!?」


「見たくて見てるわけないだろうが! くっ……こんな状態で……手が出せるか……!」


 武士道とも男の矜持ともつかない、妙な倫理観が働き、アマディオは銃口を向けたまま完全に固まってしまった。


 それを見たライルが、コンテナの影からFNP9を叩き込みながら呆れたように叫ぶ。


「おいおいファントム! 戦場でウブな反応を見せている場合か! 追加の増援が来るぞ!」


 ライルの援護射撃が、狼狽するアマディオの背後を完璧にカバーした。


 図らずも成立した二人の奇妙な共闘。ライルの鮮やかなナイフと銃火が敵の通信網を断ち、正気を取り戻したアマディオの冷徹な射撃が残りの増援を全滅させた。


 ――静まり返った輸送ベイ。


 アマディオは露出しまくった服を抱えて、キーキーと叫ぶセッカを視界に入れないようにしながら、特殊輸送車から目的の『生体スタビライザー』のケースを奪取した。


「よし、ブツは確保した……サマラ、脱出ルートは?」


『あら、頼もしいお友達が乗ってきた車があるじゃない?』


「……あれはお前の差し金か」


 通信を切ったアマディオは、ベイの裏口に停められていた深紅のマッスルカーへと向かう。


「待ちなさい……! 絶対に許さないんだから……ッ!」


 半泣きになりながら重厚なWA2000狙撃銃を構えようとするセッカを置き去りにし、アマディオとライルはマッスルカーに飛び乗り、タイヤを煙らせて現場を離脱した。



 追手を撒き、静まり返った地下道。


 ライルは助手席のアマディオへ、クロームに輝く名刺代わりのデータチップを投げ渡した。


「また会えるのを楽しみにしているよ、ファントム。君は私にとって、最高のビジネスパートナーになりそうだ」


 不敵な笑みを残し、ライルは闇の中へと消えていった。

【データベース】


 〈フィクサー〉……都市中層〜上層で活動する独自のネットワークを有する裏社会の便利屋。報酬目当てで雇われ、暗殺からデータ復旧までどんな仕事の計画も実行する彼らは、ハイヴとは対比的でありながら共通点もいくつかある奇妙な関係である。


 〈FNP9ピストル〉


 〈カスタムMP5サブマシンガン〉


 〈カスタムWA2000〉


 サマラ 年齢39歳 身長175cm 体重52kg


 ライル・シェン 年齢38歳 身長185cm 体重80kg


・プロの殺し屋 中国出身

・アマディオに性的な意味で情熱の眼差しを向ける

・突然排気口等から現れてターゲットを確実に殺して消える。神出鬼没

・おそらく空手?テコンドー?に習熟

・愛銃はG36C步槍、SVDスナイパーライフル、AKM步槍、FN P9ピストル等多岐に渡る。彼の愛車でもある赤いキャデラックのトランクは武器庫代わりとなっており、小規模なギャング組織程度なら単独でも壊滅可能な程の火力がぎっしりと詰まっている



 セッカ 年齢21歳 身長159cm 体重44kg


 エシュロンコープ傘下企業フロンティア・アームズ社と契約を結ぶエリート傭兵。


 ツンギレ系。


 孤児院出身で、同じ境遇の子供たちを救うべくエシュロンのESF兵士として志願、その後フィクサーとして独立。


 彼女の赤い目つきはサイバネ強化施術を受けた『オーグメンテッド』特有の発光であり、スマートスキンや人工筋肉など最新鋭のサイバネティクスを搭載しているようだ。


 武器はストックを外したMP5サブマシンガンと精度と火力が極限までカスタマイズされたWA2000スナイパーライフル。


 武器の収集にこだわりがあり、収入はほぼ全てそれに費やしている。



 ディレクター・ケイン 年齢57歳 身長180cm 体重90kg


 イヴ・ヴァンス 年齢29歳 身長161cm 体重46kg




 都市のアッパー・ティアで見られる青空はプラズマバリアによるフェイク。

 都市上層に住む市民の待遇を良くし、成功を夢見る中層、下層の市民から搾取するために整えられた環境である。


 ネオ・フロンティアの搾取構造の基本は偽りの危険(恒常汚染霧や工業廃棄物に曝される中層、下層)、偽りの幸福(上層の快適な暮らし)、偽りの情報(プロパガンダと極端な監視、思想警察)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。