白磁の再誕
その光景を目にした瞬間、私の心臓は一瞬、拍動を忘れました。
ギルドの床にぶくぶくと膨れ上がり、赤黒く変色した肉の塊。それが、私が愛してやまないアリオス様の成れの果てであることを、私の脳は拒絶しようとしました。
ガン、と乱暴に机に置かれた遺体。腐敗した死臭と重苦しい衝撃音が、私を現実に引き戻します。
「……アリオス、様……っ」
声を絞り出すのが精一杯でした。あぁ、なんてこと。私の王子様が、見る影もない醜い姿になってしまって。失われてしまった白磁の美しさを想い、瞳に熱いものが込み上げます。
「依頼は……完了した。パーティの解消、および……死亡の処理を頼む」
その声は、かつての玉を転がすような響きを失い、喉を焼かれた獣のような、聞くに堪えない音でした。
けれど、大丈夫ですよ、アリオス様。後ですべて、私が元通りにして差し上げますから。
「……確認しろ。これが、『旋風のフレイア』のタグだ」
遺体をまさぐり、タグを取り出したその手は、毒で膿み、まるで厚手の革の籠手を着けているかのように膨れ上がっていました。
そのあまりの痛々しさに、私は「受付嬢」としての仮面を剥き出しにして叫びました。
「そんな……あまりに、あまりにひどい……! すぐに奥へ、組合提携の神官を呼びます! このままでは、あなたの命まで……!」
一応、手配はしておいたのです。
私の手には負えない最悪の事態も想定して。ですが、アリオス様は私の差し伸べた手を、力なく、けれど明確に振り払いました。
「構うなと言ったはずだ。……俺が死のうが生きようが、君には関係ない」
冷たく突き放され、彼はよろめきながらギルドを去っていきました。
普通なら、ここで絶望するのでしょう。けれど、私は違いました。
彼があれほどまでに醜く、弱り果てたこと。それは、この世界に彼を救える人間が「私しかいない」という舞台が整ったことを意味するのです。
私の手で彼を取り戻してこそ、真実の、純粋な「お話」ができるようになる。
その夜。青白い月が空に掛かる頃、私は一人、アリオス様の冒険者宿へと向かいました。
宿の主人は、私の「組合から看病を頼まれた」という嘘を、涙を浮かべて信じ込みました。
哀れな男。
鍵を受け取るまでもなく、私は練習した通りの手つきでドアノブに触れます。
カチリ、と小さな音がして、聖域の扉が開きました。
部屋には、苦悶のうめき声を上げる「肉の塊」が横たわっていました。
さあ、アリオス様。再建の時間です。
まずは、よく眠れるよう特別に調合した睡眠薬をその唇に流し込みました。激しい呼吸が穏やかになり、抵抗の意志が消えたのを確認してから、私は特級の解毒薬を惜しみなく全身に塗り込みます。
それからは、時間との戦いでした。月明かりの下、私はナイフを握り、彼の肌の膿んでいる箇所を躊躇なく裂いていきます。溢れ出す毒を吸い出し、膿を絞り出す。
眠るあなたの体を、私が切り刻み、私が繋ぎ止めている。
薬草を丹念にすり潰し、水と混ぜた冷たい布で、その熱を帯びた体を包み込みます。
三日三晩。
私は眠ることも忘れ、アリオス様の「修理」に没頭しました。彼の汗を拭い、肌を撫で、毒に侵された箇所を一つ一つ、丁寧に取り除いていく。
そして三日目の朝。
朝日が窓から差し込んだとき、そこにはかつての――いいえ、かつてよりも清らかに輝く、白磁の肌を取り戻したアリオス様が横たわっていました。
私は、その頬をそっと撫で、恍惚とした吐息を漏らしました。この肌も、この命も。
「……アリオス様。……おはようございます」
目を覚ました彼に向けた私の微笑みは、世界で最も純粋な、慈愛の色をしていたはずです。
さあ、アリオス様。
これで私と楽しくお話をしていただけるでしょうか。




