カウンター越しの片思い
十四歳。
辺境のシルヴァ村に派遣が決まったとき、私は自分の人生が灰色に塗りつぶされたのだと思っていました。
この閉鎖的な村で、退屈な日々を積み重ね、誰にも知られず枯れていく一生。そんな私の絶望の淵に、一筋の光として舞い降りたのが、当時十五歳だったアリオス様でした。
彼はあまりに眩く、清らかで、この泥臭い村にはふさわしくない気高さを纏っていました。一目見たその瞬間から、私の心は彼でいっぱいになりました。アリオス様が歩けば、そこだけに陽光が差しているように見え、彼が笑えば、死んだ私の心がわずかに跳ねるのを感じました。
けれど、私には声などかけられません。私はただの受付嬢。そして彼は、期待を一身に背負う若き才能。
彼には常に三人の幼馴染が寄り添っていました。カイル、ミリー、ロルフ。彼らが笑い合い、肩を並べて歩く光景を、私はいつも物陰から、あるいはギルドの隙間から、ただ見つめることしかできませんでした。
それから一年。
十六歳になったアリオス様が、冒険者として組合に顔を出すようになりました。受付の業務は常にカイルが仕切っていたため、彼と言葉を交わす機会はありませんでしたが、カウンターという至近距離で見るアリオス様は、遠くから眺めていた時の何倍も、何十倍も美しかった。
白磁のようにきめ細やかな肌、澄んだ青い瞳。目の前にいる。
手を伸ばせば、その髪の一房にでも触れられる距離。それなのに、この重い木製のカウンターが、超えられない世界の断絶として立ちはだかっています。隣で親しげに笑う幼馴染たちが、ただただ羨ましくて。でも、そこに自らを重ね合わせることすら私にはできませんでした。
半年もの間、私はカイルの後ろでこちらを見つめるアリオス様に、狂おしいほどの情念を注ぎ続けました。けれど、いつもそこまで。
そんなある日。ついに、あの素晴らしい出来事が起きたのです。
「アリオス、様……? 一体、何が……」
ギルドの扉を押し開けて現れたのは、血塗れの、ボロボロになった私の王子様でした。仲間を失い、誇りを砕かれ、今にも崩れ落ちそうなその姿。
――ああ。
この時。
私はようやく、忌々しいカウンターを飛び越え、彼の世界へと踏み込むことができたのです。
「……リリアン、さん……」
震える唇から、玉のような声が私の名前を紡ぎました。その瞬間、私は新たにこの世界に生まれたような、強烈な産声を聞いた気がしました。
声をかけてくれた。
それだけじゃない。私のような端役の名前を、アリオス様が覚えていてくださったなんて!
こんな幸せなことが、他にありますでしょうか。
いいえ。けれど、まだ完璧ではありません。
アリオス様の白くつややかな肌に、死んだ者たちの赤いいらない付着物がこびりついている。
なんてこと。
あんなに汚いものに汚されて。
でも――感謝しなくてはなりません。
その汚れがあるからこそ、私は彼に触れる許しを得られるのですから。
彼の美しさを存分に堪能するために、私は優しく、声を紡ぎます。
「私が拭っているうちに、ゆっくりと落ち着いてください。あなたには時間が必要です」
差し出した布越しに、初めて伝わるアリオス様の肌の感触。
あぁ、柔らかい。
なんてしなやかで、吸い付くような手触り。
夢に見た妄想など、この本物の快感の足元にも及びません。
アリオス様のすべてが愛おしい。青く透き通る宝石のような瞳から、絶望を湛えて流れ落ちる涙。その一滴一滴さえも、私への最高の供物に見えました。
もう一歩、踏み込んでしまってもいいでしょうか。
私は迷わず、震える彼の体を優しく、力強く包み込みました。
あぁ! 私はなんて幸せなのでしょう!
私の腕の中で、彼は泣き、私は彼を独占している。
この日、脳髄が焼けるような悦楽を体験したリリアンは、人生のすべてをアリオス様に捧げることを誓いました。彼の声を聴くために。彼の肌に触れるために。彼の心に触れるために。




