表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フレッシュ  作者: 石鬼 輪たつ
第5章 fall on call
26/33

チャプター14 リインカーネーション≪転用≫(1/2)

 空のくもり続ける昼下がり。

 

 透見川うおせ家の玄関を出て、少し顔を伏せがちにしたソフムが傘を手に持ちながら帰路につく。


 リビングでは水鈴みすずの両親である2体の第一世代(バーナム型)≪スキン≫が、テーブルに昼食の用意をし始める。



「もう! 水鈴みすずったら急に≪スキン≫替えるって言うんだから。びっくりしちゃったぁ!」



 前掛けをして、大小さまざまの皿に惣菜そうざいを盛る≪スキン≫がのんきにはしゃぐ。母親だろうか。



「ねー。愛玩用ウイルガの交換も、初めてだもんね。ソフムがいてくれなかったら、愛玩用ウイルガの交換が原則回収後だっていうのも忘れてたし! さっき電話したら、あと1時間くらいで来てくれるって」



 一方、おそろいの前掛けを着用し、テーブルの上に布巾をかける温和な口調の≪スキン≫。

 父親だろうか。


 2体の第一世代(バーナム型)≪スキン≫は談笑しながら、朝食の残りに付け合わせのサラダを加え、テーブルにつく。

 手を合わせる動作もなく、どちらともなく食器を手に料理を口へ運び始める。


 のんきな性格をした≪スキン≫が時折ときおり冗談を言って、おだやかな性格の≪スキン≫に回答を強要する。


 一般の家庭的な食事風景がそこにはあった。


 いまだ昼食の最中、つんざく音で鳴り渡る本日二度目の玄関チャイム。


 おだやかな性格の≪スキン≫が真っ先に席を立つ。

 リビングには、玄関先のようすを視認できるモニター機器が設置されているが、≪スキン≫は不用心にもそれをスルーして来客を出迎えに向かう。



 ためらいなく透見川うおせ家の玄関扉が開かれる。

 やって来たのは、出迎えたおだやかな性格の≪スキン≫と同じ容姿に、スーツを着た第一世代(バーナム型)≪スキン≫と、もう1体の拘束具めいたジャケットに身を包んだ巨体の≪スキン≫だった。


 荷物は、手提げカバンが一つのみ。


 スーツ姿の第一世代(バーナム型)≪スキン≫は深々(ふかぶか)頭を垂れると、第一声にあいさつを口にした。



「こんにちは! あやしい者ではないです! ≪スキン≫回収に、新循環機構しんじゅんかんきこうから来ました」


「ええ。わかってますよ。上がってください」



 来客を軽くあしらう父親だろう≪スキン≫。



「お昼ごはんですか! 途中にお邪魔してしまい、申し訳ないです」


「いえいえ。早く来てもらってありがたい限りですよ」


「ああっ、野菜の甘い香りィ! 僕、野菜が大好きでして! 家業は製薬工場だったのですが、第一世代バーナムになったら農園をやりたいと思っていました」


「そうなんですね……」



 家に上がるとさらに底抜けの明るさをむき出しにする第一世代(バーナム型)≪スキン≫に、父親だろう≪スキン≫は困惑する。


 リビングを通過する際、顔を出した母親らしき≪スキン≫に救援をたのむと目配めくばせするも、かんの悪さにより叶わなかった。


 父親だろう≪スキン≫は第一世代(バーナム型)≪スキン≫たちを2階の一室前まで案内する。


 水鈴みすずの私室。


 ソフムが帰る前、一度だけすさまじい奇声が家じゅうを騒がせたものの、それ以来(なか)からは物音一つ聞こえてこない。


 一同は父親だろう≪スキン≫を先頭に、ノックなしに室内へと立ち入る。


 ほとんど家具のない質素な部屋に変化はない。ベッドの上にはパジャマを身に着けた愛玩用(ウイルガ型)≪スキン≫の1体が横たわっている。



「では、失礼します!」



 第一世代(バーナム型)≪スキン≫は威勢よく、父親だろう≪スキン≫に断りを入れる。


 すると、後方から巨体の≪スキン≫がおどり出て、愛玩用(ウイルガ型)≪スキン≫のベッドへと近づいていく。


 手元の手提げカバンから、大判の袋を取り出した。

 袋は、広げるとガーメントバッグのような包みの形状に変わる。


 巨体の≪スキン≫はこの袋に、廃棄予定の愛玩用(ウイルガ型)≪スキン≫を入れようとする。


 みると、愛玩用(ウイルガ型)≪スキン≫にかかる毛布の胸あたりが上下し、わずかに息があるようすだ。


 巨体の≪スキン≫は振り返って第一世代(バーナム型)≪スキン≫たちを一瞥いちべつするが、視線は交わされなかった。


 巨体の≪スキン≫はそのままベッドの上の毛布をはぎ取り、愛玩用(ウイルガ型)≪スキン≫へ袋をかぶせる。



 時を同じくして、部屋の入口前では第一世代(バーナム型)≪スキン≫が世間話ムダばなしに夢中になっている。



透見川うおせさんは、どういった公社でお仕事なさってるんです?」


「ちょうど、愛玩用(ウイルガ型)の≪スキンプラント≫ですよ。()()()の≪スキン≫もうちで受注します」


「そう、なんですね! 親子の愛がなんて美しい……そうです、先に≪スキン≫回収の同意確認をさせていただきたいです!」



 いきなり自身の仕事を思い出した第一世代(バーナム型)≪スキン≫は、先のカバンから液晶タブレット機器を取り出すと、画面を起こして水鈴みすずの父親だろう≪スキン≫に手渡す。


 液晶画面のはじめには以下の文言と、『同意します』のチェックボックスが設置されている。



 『本日回収された≪スキン≫は、遺伝子検査の後、≪憲章≫にもとづき特殊とくしゅ食糧しょくりょう公社にてリサイクル食品ないし労働用(オプス型)≪スキン≫飼料、≪スキンルーツ≫などに()()されます』



 父親だろう≪スキン≫は迷いなくチェックボックスへチェックを入れる。


 画面が切り替わる。



「ああ、経年けいねん指定! 事故とか、そういうのの補償ほしょうじゃなかったんですね」


愛玩用ウイルガの交換は、今回が初めてで?」


「ええ。何分なにぶんつくるばかりで制度までは……≪人命データ≫を入れられるのが回収後、というのも知らなくて」



 父親だろう≪スキン≫は無知を恥じるように頭をかく。



「制度ができた頃は、第一世代バーナムと同じ自主廃棄もできたんですが。……()()()()()ような、悪いやつらもいたようで。まあでも、ペットですから! 好きなようにできるならそうしますよね。今回は、死亡時と同じ(経年相当)にされますか?」


「ええ。いや……経年、10年くらいにしようか。この頃が一番元気でかわいくって」



 ひとりにんまりした笑顔で液晶画面に向かう父親だろう≪スキン≫。



「――終わりました」



 なごやかな2人の間に、ベッドの方から野太い声が割り込んでくる。


 巨体の≪スキン≫が黒い人型の袋を抱きかかえ、たたずむ。


 第一世代(バーナム型)≪スキン≫は平静な声のトーンで応じながら、まゆをひそめて「なんでこんなに時間かかった?」と問い詰める。


 巨体の≪スキン≫は部屋の時計を一度見て、10分も経過していないと言いたげな表情のみを第一世代(バーナム型)≪スキン≫に返した。



「抜けた髪を集めていました」


「あー、そうか」



 第一世代(バーナム型)≪スキン≫は大きくうなずいてみせる。


 巨体の≪スキン≫が部屋の出入口に歩く途中、その脇腹わきばら第一世代(バーナム型)≪スキン≫は肘でどつく。

 ドッと音がして、巨体の≪スキン≫が揺れる。



「お待たせしました! 同意確認もありがとうございます! これで終了です」


「はい。ご苦労さまです」



 父親だろう≪スキン≫はお辞儀をし、手元の機器を第一世代(バーナム型)≪スキン≫に返却して、玄関先まで見送った。


 それからリビングの、母親だろう≪スキン≫へ報告しに行く。



「お母さん、水鈴みすず、ちょっと時間かかるかも。経年指定できたからさ」



 工場では、≪INC(インク)≫の使用量が増加する経年指定の≪スキン≫製造工程において、奇形きけいなどの遺伝子異常を防止する目的で、通常工程よりも時間をついやして作業・検査が行われる。


 父親だろう≪スキン≫はそのことをかいまんで補足する。



「あらぁ! よかった。子ども用の洋服、また買わなくてすむのねぇ」



 母親だろう≪スキン≫は独自の間を置いてから、変わらないのんきなトーンで安心を述べた。


 2人は改めて昼食の席についた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「あれ、あれ……んん?」



 苦悶くもんの声を上げるのは、父親だろう≪スキン≫だ。


 その手に持った小判型の端末のケーブルは、リビングに横たわる新品全裸の愛玩用(ウイルガ型)≪スキン≫の≪人倫統制器≫に接続されている。



「まだ水鈴みすず起きないのぉ?」


「それどころじゃないよっ。≪()()()≫にアクセスしても、通信エラーだか何だか表示されて……一向につながらないんだ!」



 横から顔と口を出してくる母親だろう≪スキン≫に、父親だろう≪スキン≫がいらだちをあらわにしながら答えた。


 言葉の通り、手元の端末画面には『NO SIGNAL』の文言がポップアップしている。



「ただ混雑してるだけだわ。ちょっと待ちましょ」


「うーん……」



 説得されても、父親だろう≪スキン≫はに落ちないとうなり声を上げる。


 しびれを切らして立ち上がるや否や、リビングに設置された電話機へと駆け足で向かって、受話器を取った。


 逡巡しゅんじゅんする動作なく四桁の数字をボタン入力し、電話をかけ始める。



『お待たせいたしました、新循環機構連絡部(れんらくぶ)です』



 受話器から聞こえる声は、人間の声とも機械音声ともとれる抑揚のないアナウンスだ。


 父親だろう≪スキン≫はあくせくとした態度で用件を告げる。



「あの。愛玩用ウイルガなんですが、≪人命データ≫が来なくて。サーバはどうなってるんですか?」


『恐れ入ります。私にて、≪ノストルム・アルカ≫の状況確認をいたします。まずは所有者様の情報からお伺いします』


「ああ、はいはいえーっと……」



 父親だろう≪スキン≫はつとめて作業的に、電話口で個人情報を伝える。


 『確認して参ります』と、抑揚よくようのない声は無慈悲むじひな保留音に代わり、それから長い時間が経過する。



『お待たせいたしました。サーバ状況につきまして、現在多くの所有者様からお問い合わせがあり、確認作業に時間がかかっております』


「知ってるよ……」


『ご迷惑をおかけしますが、このままお待ちいただくか、一度電話を切ってあらためておかけ直しをお願いいたします』


「所有者確認の前に言ってくださいよそれ!」



 融通ゆうずうの利かない対応に、思わず声を荒らげる≪スキン≫。


 電話相手にはそつなく謝罪される。



「というか、その、万が一今日中に≪アルカ≫からデータが来なかったら、≪スキン≫が死にますよね? 補償ほしょうはあるんですか?」


『いえ、お届け時の生命維持カプセルに格納かくのうされていれば、1週間程度は……』



 抑揚のない声はせりふを言いかけたところで、質問の意図を察して、思いとどまった。


 電話をかける父親だろう≪スキン≫の足元にちょうど、分厚ぶあついビニール生地でできた生命維持カプセルの残骸ざんがいが放置されている。



『……失礼しました。愛玩用(ウイルガ型)≪スキン≫が使用できない状態となった場合、こちらから新しい製品をお送りいたします。この度は誠に申し訳ございません』



 アナウンスは半ば強制的な終了のフレーズを切り出し、父親だろう≪スキン≫から切電するよう無言の圧力をかけ始めた。


 父親だろう≪スキン≫はしぶしぶ電話を切る。



「お母さん、テレビつけて」


「なんで?」


「この分だと、『政府』が何かしら呼びかけてると思うから」



 根拠のない推測ではあったが、第一世代バーナムの夫婦はこれにけるしか現実的な選択肢がない。


 母親だろう≪スキン≫はリモコンを操作し、液晶テレビの電源をつける。


 チャンネルはすでにニュース放送へ合わさっているが、全国区の番組であるせいかしばらく気象情報が続いた。


 母親だろう≪スキン≫がチャンネルを都市の放送局に変更すると、幸運にもすぐに期待した情報が飛び込んでくる。



昨日さくじつ午後11時頃に起きました≪ノストルム・アルカ≫への()()()()()()につきまして、政府は情報通信関連公社(こうしゃ)と提携し、現在もサーバの復旧作業に当たっています』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ