チャプター13 コンセント≪諦め≫(1/2)
「水鈴ぅ、おはよう!」
透見川家の2階で、お隣まで聞こえるのではないかという過剰に元気なあいさつが本日もなされる。
声を上げた第一世代≪スキン≫は水鈴の私室にダイナミック入室する。
ベッドと、棚代わりのドレッサーしかない部屋にぬるい風が舞い込む。
「むぅっ、おはよ、お母さん……」
ベッドの上の毛布からあいさつが返り、先の≪スキン≫が母親であることを確定させる。
「起きてる?」
「うん……1時間くらい……」
「起きられる?」
いまだ毛布に包まって、顔を出す気配のない水鈴と思しき存在に、母親は早口で訊ねる。口調は制圧的ではなくむしろ甲斐甲斐しい印象だ。
一方、毛布の中の存在はヌーヌーと曖昧なうなりを上げるばかりで、それ以上の問答を拒絶するようすだった。
「もう! いくつになっても子どもなんだから……おりゃっ」
母親はわずかに嬉しそうな顔で、いきなりベッドの上の分厚い毛布をはぎ取る。
中から、水鈴と思しき愛玩用≪スキン≫が姿を現す。
パジャマを着た骸骨のごとくやせ細った身体に、目の落ちくぼんだ蒼い顔、絶え間なく小さな喘鳴をくり返す≪スキン≫。
映画に出演した俳優としての華麗さはおろか、すでに水鈴として最低限認識しうる要素すらも衰えていた。
「さ、さむいっ」
むき出しになった肌へ感じた冷気に、怒りを覚える水鈴。
母親は断りもなくその我が子を抱き上げる。器用に宙で回して、背中におんぶし直す。
ふと母親が視線を枕元に向けると、チョコレート色の枕の表面にマーブリングアートの様相で無数の抜け毛が張りついている。枕から、母親はすぐにも顔をそむける。
2人は階下のリビングに行く。
部屋いっぱいに充満した甘ったるい芳香。廊下まで漂っていた。火で炙った脂の香。テーブルの決まった席に、母親は水鈴をおろす。
食卓の上には、カルパッチョやハンバーグステーキ、ボロネーゼのパスタといった、朝食とは言いがたい大げさな食事の用意がなされていた。
またそれはらフレッシュミートをふんだんに使用した献立であることに間違いなかった。
「いただきます……」
水鈴はあいさつを唱えて、合掌する。
両親もそろって水鈴に合わせる。
手前に並べられたハンバーグステーキの皿。
ナイフを手に水鈴が、押しつぶすように肉を切断し、フォークの先であかがね色のソースを断面へ塗るように絡めて、口まで運ぶ。
咀嚼する。
「≪学園≫にはもう、休むって連絡してあるから。ゆっくりしていなさい」
母親ではない≪スキン≫がシリアルの器をかき混ぜながら言う。
水鈴は食器を、皿のふちに置く。
「パパ、ありがと」
水鈴は屈託のない表情にわずかな笑みを浮かべる。
また肉を数切れ食べるが、しばらくすると吐き気をもよおし、母親によってリビングの外へと担いで連れ出された。




