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フレッシュ  作者: 石鬼 輪たつ
幕間
23/33

幕間3 サルベージ≪救済≫

 『いのちのこえ学舎』設立から2年目を迎え、労働用(オプス型)≪スキン≫幼体とソフムたちとの間には擬似ぎじ的な家族関係が構築されつつあった。


 日々勉学に励みながら、時には教え子と教師の垣根かきねをこえて楽しく安らかな団らんの時間を過ごした。


 1体のソフムをのぞいては。

 ――その女装したソフムは独断で道副みちぞえの私室に入り、机やベッドの上で読書をたしなみながら外出した主人の帰りを待つ。


 やがて道副みちぞえが学舎にもどる。

 くたびれた外套がいとうを脱いで、私室のソフムにかけるや否や、興奮したようすで口を開いた。



「明日の朝、来客がある。俺のよき理解者だ。お前も同席して、丁重ていちょうにもてなしてくれ」



 どういった用事で誰が学舎に来るのか、ソフムは訊ねるか迷ったが、道副みちぞえの気分を害することもあるだろうと思って口答くちごたえせずに了承する。



 翌日、くもった天気の下のほの暗い朝を迎えたソフムは、約束の時間に学舎玄関でその男を出迎える。

 道副みちぞえゆうに超える長身の第一世代(バーナム型)≪スキン≫で、冬物のトレンチコートに身を包み、つばの広いハットで目元を隠している。



四方白よもしろ 二郎じろうくんだ。今回の件で協力してくれる」



 道副みちぞえがソフムに紹介する。

 ソフムは自身が当事者のように扱われることに不満を覚え、2人の第一世代《バーナム型》≪スキン≫をキッとにらみつける。



「ええどうも、四方白よもしろです。正しい読みはヨモジロなんですがね、ヨモジロ・ジロウだと、じろじろ見てるようでどうにも気持ち悪いと言われるもんで、今は――」


「取りあえず部屋に入ってくれたまえ」



 道副みちぞえが先導し、3人は道副みちぞえの私室に集まった。


 悪人顔の第一世代バーナムが2人、定位置とばかりに道副みちぞえのベッドへ腰かける女装ソフムとを合わせて奇妙な鼎談ていだん様相ようそうができ上がる。



「それで……これはどういう集まり? 悪巧わるだくみなら、私を抜きにしてもらえるかな」


「まあ聞け。アカウントのない愛玩用ウイルガを手に入れる計画についてだ。……お前にも協力してもらう」



 昨日の時点で、道副みちぞえの目的についておおよそ予測していたソフムは、やはりそうかと呆れかえった素振そぶりをする。尻の下へもぐり込むほど伸びた真っ白い髪をで、ため息をつく。



「だから私は関わりたくない……」


「≪学園≫にもどれるぞ? さらに役職と、第一世代バーナム同等の権限もくれてやる」


 道副みちぞえの急な提案を耳にしたとたん、ソフムは顔色を変えて、話の中心へと向き直った。


段取だんどりはこうだ。ソフムがまず≪アルカ≫へハッキングをかける」


「ちょっと待て!」


「なんだ。今日はコロコロと顔を変えるじゃないか。そんなにむねはずむか?」


「弾むどころかはち切れそうだっ! ハッキングなんて……私にそんな技術はない。この≪農労のうろうマニュアル≫は、ここの子どもたちに教養を与えることが精いっぱいなんだ……」


「そうだな。だから、せんだって≪学園≫にもどり、技術を身に着けるんだ。この計画の発動は、ソフムの采配にかっていると言っていい」


「それで、≪アルカ≫を吹き飛ばせばこっちのモン! 『墓守はかもり』って制度がありやしてね、頭のイカれた愛玩用ウイルガの回収やら作り直しやらをう連中がいるんです。そいつらにふんして、データが壊れた≪スキン≫の持ち主に交換を持ちかける」



 次から次へと道副みちぞえ四方白よもしろが思いのままの私見をくり出す。

 ソフムは目を丸くしている。



「俺らが行った時点で、まだ≪スキン≫が生きていたとしても口車に乗せられれば……」


「そうか。ためしに≪スキン≫へ≪人命データ≫を入れさせて、≪人命データ≫が破損しているとわかった場合は『アカウントは再作成するが、一度データを読み込んだ人倫統制器に他のデータを入れることはできない。だからこの≪スキン≫はこちらで処分しよう』と提案し、『加工所かこうしょ』に送るふりをして持ち帰ればよいのだな」


「ノリノリじゃないかっ。せて持ち出す算段までつけるとはな!」


「おたく、もしや≪学園≫は犯罪科のソフムですかい?」


「違うっ……」



 手を叩いて感激する道副みちぞえに、四方白よもしろも悪ノリしてソフムをあおり立てる。



「そもそも、道副みちぞえ教授はいい。四方白よもしろ氏とやら、あなたには手を貸すメリットがあるの?」



 ソフムがじっとりした目で胡乱うろん四方白よもしろを見る。そもそも、この男は素性すじょうが知れなかった。



「ええまあ、道副みちぞえさんには世話になった分もあるし。何よりアタシの目当ては『墓守はかもり』であって、おたくに何も口出しするつもりはありゃあせん」


「それなら、なおさら……いいのか? ここまでの画策かくさくを実行にうつせば、万が一にもそれなりの待遇たいぐうを受けることになると思うんだけれど」



 思い直すべきだという主張か、あるいは積極性ゆえのフカしか――その空間の外からはどちらでもあるように分別ふんべつつかない、余裕の笑みをあらわしたソフムは、道副みちぞえに訊ねる。


 道副みちぞえは揺るぎない決心の下に答えた。



「これは決定事項だ、必ず達成してもらう。一度きりの道具のお前なら、意味がわかるだろう?」


「……なはっ。持ち主が物惜ものおしみをしないのは、道具冥利(みょうり)に尽きるね」



 着せられたエプロンドレスのフリルを優雅に揺らして、ソフムはついにあきらめる。


 どのような形であれ≪学園≫へ、ソフムの存在意義が保障された場所へ行くことができる、それへの高ぶりも確かにあった。


 そして不本意ながら、道副みちぞえの想定外の期待にこたえたい気持ちも。



「では、な。帰ったなら、お前の言うたましいとやらを見せてもらおう」



 ソフムが学舎を立つ日、道副みちぞえはその言葉をたくしていた。

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