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化粧室から診察室へ戻るまでに、赤薔薇の君は、いつもの女王様のような赤薔薇の君に戻っていた。
そんな彼女に、レイ君が声をかける。
「少し長かったから、ミサトさんに様子を見に行ってもらいましたけど・・・大丈夫?」
「ええ、話し過ぎたのかしら。少し疲れたのかもしれないわね。」
先ほどのことは、ここで共有したほうがいいのだろうか。
それとも、女性同士のヒミツにしておいたほうがいいのだろうか。
迷う時には、リュウ先生やマイケル先生の判断を仰いだほうが賢明。
一人で突っ走ったらロクなことにはならないのは、ウィリアム先生のルール設定の事件で学習済み。
でも・・・この状態で1か月放っておくこともできない。
ハンドクリームも1か月なんてもたない量だし、ならば、少しでも手を洗う回数を減らす方法を一緒に考えるのが、一番大事な気がする。
なにより、プライドの高い彼女が、素直に頼って来るとは思えない。
「今日はどうします?お店に行きますか?」
「ええ。1か月に1度だもの。当然、行くわよ。」
「わかりました。でも、無理はダメですよー?あなたの体調が一番ですからね。お店はなくならないし、いつでも来れるんですから。」
「ええ、わかっているわ。でもね、私も暇じゃないのよ。そうそうゆっくり時間も取れないの。」
赤薔薇の君とレイ君は、お店に行くために立ち上がった。
「少しお待ちいただけますか?」
「・・・ミサトさん、私の話聞いていたかしら。暇じゃないって言ったばかりなんだけど。」
「すみません。お渡ししたいものがあるので、ほんの少しだけ。」
私は、光の勇者君にいつも渡しているキャンディを渡すことに決めた。
少しでも気持ちが落ち着けば、手を洗う時間が少なくなるかもしれないと思ったのだ。
大きなビンを渡すわけにもいかなかったので、いつもハーブティーを淹れいている袋に移し替える。
そして、袋を二つ抱えて、急ぎ二人の元に向かった。
「すみません。お待たせしました。ちょっとこちらに。レイ先生、外で待っててくれるかな。」
レイ君は、袋を二つ持っていた私を見て、察してくれたようだった。
「これ、ハーブティーから作ったキャンディです。気持ちを落ち着けたいときに食べてください。あと、ハンドクリームがなくなったら、1か月後じゃなくてもいいのでいつでも仰ってくださいね。」
「・・・暇じゃないって言ったのに。でも・・・ありがたくいただくわ。」
― よかった、受け取ってくれた。
「はい。それでは、面接はまた1か月後に。お待ちしてますね。」
赤薔薇の君は、なにか言いたそうな顔をしていたが、フィッと私に背を向け、歩き出した。
私は、レイ君に袋を預け、二人の背中を見送る。
三室から二人の姿が見えなくなったところで、リュウ先生が私の隣に来た。
「今日のところは、ここまでだな。」
「そうですね。ハンドクリーム作ってもらってて良かったです。ささくれだって、ところどころ血がにじんでて・・・相当堪えてるんじゃないかな。」
「そうか・・・。原因もおおむね合ってたようだな。」
「はい。私たちは、物語の空白の時間を埋めてあげる必要があると感じました。」
「空白の時間?」
そこで、私は化粧室での会話をリュウ先生に報告した。
「なるほどな・・・。物語には書かれていない時間は、読者の解釈次第か。悪くないな。」
「それでも、あの悪逆非道の行為をどうすり替えるか、それが問題ですよね。」
「そこは、マイケル先生とレイを交えて話し合おう。まずはおつかれ。」
ひとまず、今回のミッションはなんとかクリアできたようだ。




