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そして迎えた赤薔薇の君の面接日。
予習も終え、準備は万端だ。
口が裂けても、「その物語を読みましたー」、なんて言えないけど。
レイ君は、「めんどくさいから、あらすじだけ教えてー」ということで、本は読まなかった。
レイ君情報によると、黒服さんは、思った通り、全肯定の許容型の、大人の対応をするタイプの方であった。
時には従者のように、時には父親かお兄さんのように、優しく言うことを聞いてあげるスタンスがお好みだとのこと。
ただし、一線を越えるようなサービスは求めてこないそうだ。
・・・やっぱりそういうコースもあるんだ・・・。
彼女が手を洗う行動に走るトリガーはなにか、を探るのが今日のミッション。
向こうでも、きっと何回も手を洗っているであろうことが予想できたため、リュウ先生には特製のハンドクリームを用意してもらった。
「転移者の方をお連れしました。」
赤薔薇の君は、律儀に1か月後に面接に来た。
高飛車なところはあれども、やることはやる、真面目な方なんだろう。
だから、物語の通りにやらなければならない、と思っちゃうのかもしれない。
レイ君の主導で、近況報告などのやり取りをしていく。
今日もリュウ先生は、給湯室でこっそり見学している。
「そういえば、今日は物語のお話をしてくれるんですよねー。あなたのお話を聞いて、すっごく読みたくなっちゃったんですけど、取り寄せられないから、楽しみにしてたんですよねー。」
― この営業トークよ・・・「めんどくさい」なんて言ってたくせに!
「私もです。どんな美しいお話なんだろうって、ワクワクしてました。」
― 時々寝落ちしちゃったけどね。
でも、あの難解な文章の内容を、どんなふうに語ってくれるのかは興味がある!
「そんなに楽しみに待っててくれたなんて、嬉しいわね。本当なら実際に読んで欲しいのだけど、それは叶わないものね。」
少し嬉しそうに笑った赤薔薇の君が、物語の内容を話し始めた。
私が呼んだ内容と、ほぼ同じ。
彼女に言わせると、色彩豊かな表現であり、文章が色づいているんだとか。
― ああ、確かにねー、火は赤だし、水は青だし、七色揃ってるもんねー。
そして、ラストの覚醒のシーンについては、一番熱く語っていたのが印象的だった。
「こんな感じね。もっと話したいことはあるんだけど、時間が惜しいからまたの機会に。」
「へー、そんなお話なんですねー。ミサトさんが読んでいた公爵令嬢のお話とはスケールが全然違いますねー。」
― なぜ、そこでまたその話題を出す?
「あはは、確かにそうですね。複雑な人間関係のうえに、世界の崩壊を止めるお話だったなんて、想像もしてませんでした。」
赤薔薇の君は、私たちの感想を聞いて満足そうな表情を浮かべていた。
「その物語に、僕たちも出てるのかなー。どんな風に書かれているんだろうねー。」
ここで、レイ君が矛盾点をつく。
赤薔薇の君が『物語の世界に召喚された』と信じているなら、そこには私たちセンターの存在も書かれているはず。
当たり前だが、そんな記述は一切なかった。
そこは、読者の解釈次第でどうとでもなるところだろうけど。
レイ君の自然なぶっこみに、赤薔薇の君の表情が、変わった。
「あ・・・」という口の形になり、手袋にギュッと皺が寄った。
しかし、すぐさま元の表情を取り戻す。
「ふふ、どうかしらね。・・・ごめんなさい、ミサトさん。ここにお化粧室はあって?」
「はい、ありますよ。ご案内しますね。こちらにどうぞ。」
きっと手を洗いに行くのだろう。
トリガーは・・・『物語と違う行動をとったとき』だ。




