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レイ君にエスコートされお店へと向かう赤薔薇の君の背中を見送り、三室に戻るとリュウ先生が診察室にいた。
リュウ先生には、給湯室で今回のやり取りをこっそり観察してもらっていたのだ。
「おつかれ。」
「はい。なんとか会話が成立して安心しました。」
「そのようだな。ミサから見て、どう映った?」
「彼女は、本当に物語の世界に転移しちゃったのでしょうか。」
私が初めてこのセンターで目が覚めて、ジュエル先生を見て、『異世界へ転移』ということを知らされた時、真っ先に思ったのが、『乙女ゲームとかやってないんだけど!』だった。
だから、赤薔薇の君がこの超常現象にそう思ってしまうのも頷ける。
彼女の口ぶりから、前の世界で読んでいた小説と同じ世界ならなおさら。
だけど、そんなこと、現実にあるんだろうか?
そもそも、『異世界に転移』なんてことが非現実的だけど!
「リュウ先生は、召喚された時、なにかのゲームとかアニメの世界だって思いました?」
「まあ、その系のラノベは読んでたから多少はね。まさか自分の身に降りかかるとは思わなかったけどなあ。」
― へぇ~、理詰めのリュウ先生でも、そう思ったんだ。
「リュウ先生がもし召喚された世界に行っていたら、『優秀過ぎて追放された薬師は辺境で勝手に国を立て直してました』みたいな話になるんでしょうかね~。」
「・・・なんで追放されてんだよ。」
― だって、リュウ先生だもの。
「そういうミサトさんは、『うっかり召喚されたモブ令嬢なのに王子様の溺愛が止まりません』ってやつになるのか?」
― んなっ!『モブ』って言ったな!その通りだけど、反論できませんけど!
「しかし、彼女はやはり少し心配だな。」
「・・・そうですね。美しい物語って言ってましたけど、そこでは彼女は・・・」
「間違いなく悪役の立ち位置だろうな。それを演じきろうとしているってところか。」
「それはどうしてですか?なんで断罪を受け入れるんですか?」
私には、その気持ちがさっぱりわからない。
死にたくないって、抗わないのだろうか。
断罪される原因がわかっているなら、それを回避する行動を起こさないのだろうか。
「それが自分の使命だって思ってるのかもな。物語を完成させるのが召喚された理由だと。」
「そんな・・・それじゃあ、自ら命を投げ出すようなもの・・・」
「最初のミサの疑問な、物語の世界に転移したって、そんな話は聞いたことがない。その論法だと転移先は『本』の中だ。その『本』の中に、俺たちがいるか?」
「・・・おそらくいないと思います。」
「さらに、天界の窓口が機能していて、天界のヤツがその世界に実体として存在している。ということは、そこはもう文章の世界じゃない。」
「な、なるほど?」
― なんだか屁理屈に思えてくるのは、私だけかな。
「まずはその物語とやらの内容を知る必要があるな。」
― 赤薔薇の君は、『次に来た時に』と、『また1か月後に』と言っていた。となると・・・
「来月まで待つしかなさそうですね。」
そこで、リュウ先生がニヤッと笑う。
― あれ?どうして、そこで、黒い笑顔になるのカナ?
「これは緊急事態だ、そうだな?ミサ。」
「え、ええ~っと・・・そうですね。このまま行くと、彼女の心が限界を迎えそうですね。」
あの、ギュッと皺の寄った手袋を思い出す。
でも、元の世界とのゲートは閉じるから、干渉はできないはず、だよね。
それなのに、どうやって取り寄せるというの?
「ちょっとした伝手がある。その伝手で取り寄せてもらうか。」
一言突っ込ませてほしい・・・ちょっとした伝手ってどういう伝手!?




