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王宮から街に出た後、引きこもりになってしまった勇者様。
ルカ君とミカ君から、祝勝会と凱旋パレードにはきちんと出席し、例の褒章の授与も受けたと聞いた。
結局、勇者様が選んだものは、領地、爵位、王女様との結婚であった。
そして、気になる情報がもう一つ。
以前は、国を救った勇者様と美しい王女様の結婚話がお伽話のように噂されていたが、ある界隈では平民の恋人を裏切り、権力欲しさに王女様との婚姻を望んだと、そういう噂も出ているらしい。
いったいどこから・・・彼女さんの関係者からだろうか。
街に出てなにがあったのか、彼女さんとは会えたのか、そしてなにを思っていたのか。
なにかしらショックな出来事があったはずで、ヤケを起こして取り返しのつかない状況にならなかったのは良かったのだろうけど・・・。
その一番辛かったであろう時期に、寄り添ってあげるのが私たちの仕事なのに・・・。
こちらから過度な介入はしないのが原則なのはわかってはいるが、どうしてもそう思ってしまう私であった。
勇者様から予約が入ったのが、ちょうど祝勝会のあたりであろうか。
それから一週間後、勇者様が面接に訪れる日が来た。
「転移者の方をお連れしました。」
いつものように、極めて事務的に天界の方が勇者様を伴って三室にやって来る。
決して感情を表に出さない天界の方。
勇者様の召喚の時から今まで、周りで起こったことを全て見聞きしていたであろうに、色々思う所もあるだろうに、それを決して表に出さない。
天界の者は人間には肩入れしてはならない、ようなことをケヴィン様が仰っていた。
それに、先日いらした護衛の方のお話を聞いた後では、そうあるよう己を律しているのだな、とふと思った。
「お待ちしてました、こちらにどうぞ。」
私も、努めて冷静に、いつもと変わらないよう気を付けて勇者様を迎える。
食事もロクにとっていなかったのか、少し頬がこけているように感じた。
しかし、勇者様の視線はしっかりとしていて、不安や恐れを感じさせなかった。
彼は彼なりに、腹を括った結果なんだな、と私にもわかった。
診療室で、私たちは勇者様と向き合う。
ハーブティーを一口飲んで、ふぅっと息を整えた勇者様が、
「いろいろご心配をおかけしました。すべて終わりました。」
と、私たちを真っ直ぐ見据えたまま、そう言った。
「そう・・・頑張ったな、お疲れ様。」
リュウ先生は、その内容を聞かずに、短い言葉で勇者様を労った。
「神殿経由で知ってるでしょうけど、国に従いました。明日、王女様と領地に行きます。」
「明日出発か・・・領地まではどのくらい?」
「ゆっくり行く予定なので、二週間くらいかかると思います。」
― 田舎って聞いていたけど、そんなに遠いところとは!
「ずいぶんと遠いところなのですね。」
「俺一人だったら一週間もあれば行けますが、王女様も一緒なので無理はさせられません。まあ、新婚旅行だと思って、楽しみながら行きますよ。」
「そうだね。今まではゆっくり旅する余裕なんてなかっただろうから、寄り道しながら楽しむといい。そのくらいの金も貰ったんだろう?」
「ええっと、多分?今まで切り詰めて旅してたから、金銭感覚がおかしくなりそうでちょっと怖いですけどね。」
― ああ、いきなり大金持っちゃうと金銭感覚がバグっちゃう人っているもんね。
宝くじに当たったようなものかな・・・当たったことないけど。
「そう思えるのなら大丈夫だよ。王女様も浪費するような女性ではないんだろう?」
「そう・・・ですね。リュウ先生から言われて、王女様とも話しましたが、鈍い俺でも気が付くくらい、その・・・かなり肩身の狭い思いをされてたようで・・・。」
― 女性の機微に明るくなさそうな勇者様がわかるくらいなんて・・・よっぽどだったに違いない。
「王女様も、肩身の狭い場所から解放されるのは願ったり叶ったりだろうさ。しかも君が隣にいるんだ。心強いじゃないか。君はまた一人、人を救った。そう思えばいい。」
リュウ先生は、王女様と共に生きていくことを決めた勇者様に、彼女さんのことにはあえて触れないようにしているのだろう。




