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魔王を討ち果たし、時の人となった勇者様への褒章が、王女様付きの爵位と領地であった。
結婚を約束した女性がいるのを知っていて、二人の仲を引き裂くような真似をするとは、あんまりだ。
断る一択しかないと思うのだが、相談するくらいだから迷っているということだろうか。
なにか、のっぴきならない事情でもあるのだろうか。
「なぜ、相手が君なんだ?他にも仲間がいたんだろう?」
「多分、一番条件のいい相手だったんだと思います。他は貴族や聖職者、既婚者だし、あと年齢的にも。」
「貴族だと派閥などのパワーバランスもあるし、聖職者はそもそも結婚ができない、というところか。」
勇者様は、頷いた。
「俺だって最初は断りました。もともと自分は平民みたいなもんだし、貴族のふるまいなんて無理です。それに俺には彼女がいる。」
ジュエル先生にいろいろアドバイスをもらって、ようやくお付き合いできた時は、すごーく嬉しそうに、興奮気味に話してくれたのを覚えている。
「でも・・・だんだん断れない雰囲気になってきて・・・どうしたらいいのか。」
「断れない雰囲気とは・・・王女様と二人きりにされたり、周りにも根回しがされていたり、外堀が埋められている感じなのか?」
「それもありますが・・・」
「まさか、君の彼女の安全を脅かすようなことを言われているのか?」
「はっきりと言われたわけじゃありませんが・・・。そんな感じです。」
― ひ、ひどっ!
国のために必死に戦った勇者様のささやかな幸せを踏み潰すなんて、ひどすぎる!
そんなことをしたって、誰も幸せになれないじゃないの。
「君の彼女は、貴族ではなかったね。」
「はい。彼女の実家はそこそこ大きな商会です。」
「なるほど。その商会を潰す、とでも言われたか。」
「商会なんて貴族の匙加減ひとつだと、そう言われました。それと、国を救った英雄様に愛人の1人や2人いたって、誰も何も言わないだろう、と。」
― ・・・はあ?
それって、本命の彼女を愛人にでもしたら?ってこと?
そこまでして、王女様と結婚させたいの?なんのために?
無理を通して結婚した夫に見向きもされない王女様なんて、惨めなだけじゃない。
まったく、女性をなんだと思ってるのさ!
「それはまた・・・ずいぶんと強引な話だな。なにか別の思惑がありそうだけど、心当たりはあるかい?」
「そもそも召喚されたのは神殿だし、王宮なんて討伐の挨拶に行くときぐらいしか入ったことありません。それに、そういうのは疎いのでまったくわかりません。」
― 勇者様は真っ直ぐな人だし、お貴族様の駆け引きとか苦手そうだもんな~。
「でも、その王女様の望みではないことはわかりました。何度も謝罪されましたから。」
― 王女様が望んでない?
ということは、『私、あの人と結婚したいの、パパ、どうにかして!』とかいう、王女様のワガママではないってことだ。
「王女様のワガママじゃないとすると、政略的なものかな。それ、時間の猶予はあるのか?」
「祝勝会のときに褒章の授与があるので、その時に言われるかもしれません。」
「祝勝会はいつ?」
「準備もあるので、1か月後くらいだと聞きました。」
「そうか・・・思ったより時間はないんだな。」
沈痛な空気が三室を包む。
勇者様と彼女と、王女様の人生を決める選択を1か月で決めなきゃいけないって、あんまりだ。
彼女を選んだら、彼女の実家がどうなるかわかったもんじゃない。
仮にどこか遠くに逃亡したところで、両親や従業員が路頭に迷うことになるかもしれない。
だからって王女様を選んだら、それなりの暮らしは保障されるかもしれないけど、それだけだ。
よほど割り切らないと、愛情のない暮らしなんて続けていけるわけがない。
真っ直ぐな勇者様は、彼女への罪悪感で心が悲鳴をあげるかもしれない。
なにより、勇者様を待ち続けていた彼女だって、望まない結婚をさせられるかもしれない。
それらがすべて勇者様の選択にかかってるなんて、重い、重すぎる。




