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『困ったな』という勇者様の呟きは、きっとリュウ先生にも聞こえていただろう。
ちょっと眉間に皺を寄せたリュウ先生だったが、そこにはあえて触れず、これまでのことを尋ねることから始まった。
勇者様は、旅の途中の失敗談や、魔王との戦いの武勇伝などを話していく。
もちろん一人で行ったわけではなく共に戦う仲間がいた。
その話しぶりからうまくやっていたようだし、帰還後も交流があるとのことで、特に問題はなさそうに聞こえた。
「君は、これからどうするんだい?」
魔王討伐のために召喚された勇者様。
その目的が達成されて、めでたしめでたしではない。
これから先、長い時間を暮らしていかなければならない。
以前、アーネット先生に仕置きされた勇者様は、褒章に領地をもらっていた。
ロクに領地経営もせず、税金搾り取って、ブクブクに太っていたけど・・・。
「そうですね・・・。」
その話題になった途端、勇者様の表情が浮かないものになった。
― あれ?確か、好きな女性と結婚するとかなんとか言ってなかったっけ?
勇者様は、ジュエル先生のアドバイスの甲斐もあって、好きだった女性とうまくいったはず。
『無事に帰ってきたら、結婚します』って、鬼気迫る表情で報告していたのを覚えている。
盛大にフラグ立ててどうすんのよ~って思ったっけ。
「お付き合いしていた女性と、ご結婚されるのではないのですか?」
「・・・・・・」
返事がない。
― ま、まさか・・・フラれちゃった・・・とか?
まずいこと聞いちゃった?もしかして、私・・・やってもうた?
ど、ど、どうしよう、なんて声をかければいいんだ。
たまらず、リュウ先生にヘルプの視線を送る。
「・・・なにかあったのですね。もしかして褒章絡みで?」
「・・・・・・」
勇者様は、黙ったままだ。
― 褒章って、お金とか領地じゃないんだろうか。
「・・・・・俺、どうしたらいいのか、わからなくて。ジュエル先生に相談・・・しようと。」
しばらく黙っていた勇者様が、途切れ途切れに言葉を発した。
膝の上に置かれている手をどれだけ強く握りしめているのか、小刻みに震えている。
「落ち着いて。なにがあったのか話せますか?」
リュウ先生が私を見て頷いた。
私は急いで、替えのハーブティーを淹れて、勇者様に出す。
「まずはハーブティーを飲んでください。ゆっくりでいいので、お話聞かせてくれませんか?」
勇者様はハーブティーを飲み、深呼吸をひとつした。
「すみません。取り乱してしまいました。」
「気にしなくていい。こちらから質問させてもらっていいかな。」
勇者様が黙って頷いた。
「君には結婚を約束した人がいたよね?その女性には会えたのかい?」
「いえ・・・まだ会えていません。」
「会いに行かなかったのか?」
「討伐から帰って来たばかりで、今は客人として王宮にいます。大騒ぎになるから、今は街には行かないほうがいいだろうって。祝勝会とか凱旋パレードするから、それまで待ってくれ、とか言われて。」
― なるほど・・・国を救った勇者様が街に行ったらもみくちゃにされそうだし、その騒ぎを収めるのも大変そうだ。
「君は、国を魔物の脅威から救った英雄だ。当然、褒章があるんだろう?それは、お金かな?」
「いえ・・・それもあるかもしれません。」
「お金がついてくるなら、爵位を与えられて、どこかの領主にでもなるのかな?」
「・・・・・大体、そんな感じです。」
「大体・・・?もしかして、その領地に王女とか身分の高いご令嬢がついてくるのか?」
勇者様がハッとした顔をして、リュウ先生を見た。
「その・・・通りです。相手は第三王女様、らしいです。」
― ここでも、王女様による『ナンダソレ』案件だった!




