閑話【キャロルの仕置き部屋】
カン、カン、カン。
二室の仕置き部屋では、剣を打ち合う軽快な音が響いている。
キャロルの日課でもある、ケリーとの鍛錬の時間であった。
「ますます剣技に磨きがかかっていますね、キャロル。」
「ふふっ、僕も指導者として負けるわけにはいかないからね。ケリーには感謝してるよ。」
「いえいえ。私も体を動かすのはいい気分転換になりますから、お互い様です。」
ブロンドの髪をなびかせながら剣を振るう二人の姿は、天上界のおとぎ話のような雰囲気である。
ミサトが見たら、うっとりと妄想がはかどるに違いない美しい光景だ。
そんな白い世界に似つかわしくない訪問者が仕置き部屋のドアを開く。
「失礼します。・・・お邪魔でしたか。出直します。」
その人物は、キャロルとケリーが剣を交わしているのを見て、部屋を出て行こうとした。
「・・・なぜ、リュウがここに?」
剣の打ち合いをやめたケリーが、訝し気にリュウを見る。
「僕が呼んだんだ。リュウ、いらっしゃい、待ってたよ。」
リュウは、何故ここに自分が呼ばれたのかわからない・・・しかも仕置き部屋に。
最近はアリィとも飲んでないし、酒場でも暴れてないし、心当たりがまったくないのである。
これは、絶対ロクなことじゃない、と心の中でため息をつきながら2人のほうを向く。
「リュウも、薬ばかり作っていないで、たまには体を動かしたらどうです?君さえよければ私が剣を教えましょうか?」
キラキラした髪をファサっとなびかせて、ケリーがリュウを見下ろしている。
「いえ、それほど暇じゃありませんから。遠慮申し上げます。」
ケリーとリュウの間で、バチバチと静かな火花が散る。
「今日はね、リュウにお願いがあって呼んだんだ。黒髪の子に教えていた体術を僕にも教えてよ。」
「は・・・?」
「・・・タイジュツ?なんですか、それは。」
「ケリーは見たことがないかな。リュウのいた、えっと・・・ニホン?だったっけ。そこで流行ってるの、ブドウっていうんでしょう?」
「・・・見たことないですね。」
「流行っているわけではないですよ。それに、剣や魔法には太刀打ちできません。突然どうされたのですか?」
これ以上キャロルに強くなられては、困る。
それに、自分のアドバンテージは最大限温存しておきたい。
全力で拒否したいリュウである。
「ん~、きっとね、金髪の子もリュウの体術に目を付けると思うんだよね~。それを織り交ぜられたら、さすがの僕も対処できない。だからさ、先に習っておきたくてね。」
リュウはこの状況をなんとしても回避したいが、そう言われてしまっては余計断りづらくなる。
「して、そのタイジュツとは?」
「ああ、殴ったり蹴ったりするヤツだよ。」
「なっ・・・そんな、野蛮な!」
「ケリーも教えてもらうといいよ。戦い方の幅が広がると思うんだよね~。実戦ではイレギュラーが起こるものだし。」
「はっ・・・?私がリュウに教えを請う?」
あからさまに嫌そうな顔をするケリーである。
「物は試し。リュウ、ちょっと見せてあげてよ。」
キャロルはそう言うと、部屋の隅に置かれている黒いミットを指さした。
はあ~っとため息をつき、そのミットをケリーに渡す。
「・・・なんですか、これは。」
「キャロル姫に持たせるわけにはいかないでしょう?これ、こう持って、ここで構えてください。しっかり持って、動かないように踏ん張ってください。」
腹の横をしっかりとガードさせるように、ケリーにミットを持たせたリュウ。
そして、スッと構えるとミットに向かって蹴りをくりだした。
ズバーンと、気持ちいい音が仕置き部屋に響く。
「ヒュー。いつ見ても迫力があるな。それに、軸がぶれていなくて、綺麗な姿勢だよね。ね、ケリーも興味出てきたでしょう?一緒にやらない?」
「・・・ふむ、リュウの所作は野蛮なものではない。いにしえから脈々と続く伝統のようなものを感じますね。」
「じゃあ、決まりだね!そういうことだから、週3回、よろしくね。リュウ先生。」
「待ってください。まだ引き受けるとは一言も・・・」
「タダで教えを請うわけにもいくまい。対価として私からリュウに剣を教えようではないか。」
「いや、だから、勝手に・・・」
「あ、いいこと思いついた!ここで道場を開くってどうだろう?剣と体術の道場!」
「なるほど。それは各々の危機管理意識の高揚につながる。わかりました。エリィ様にかけあってみましょう。」
どうして、王女ってのはこうやって思い付きで・・・とんだトラブルメーカーだな!
心の中で叫びまくっているリュウであった。
・・・その後に、二室の仕置き部屋に拡張工事が入り、三界の重要な情報交換の場になったりしたとかしないとか・・・。




