692
光の勇者君は、その時の状況を話し始めた。
「試合のこと、あいつから聞いていますよね。」
「ええ。確か、回復魔法以外の人たちが試合を行うことになっていたって。それで、回復魔法を使う人は、国の王女様だって聞いていました。」
「その王女が・・・」
― 王女で聖女様が、なにかやらかしたんだな、きっと。
月曜日、王様が直々に激励するため、回復魔法担当である王女で聖女様を伴い、騎士団全員を集めた。
異国から召喚された勇者候補君たちは最前列に並ばされた。
王様の話が終わった後、その王女で聖女様が、『剣士はあなたがいいわ』と光の勇者君をご指名したとのことだった。
― やっぱり、『ナンダソレ案件』だった!!
光の勇者君と戦うために、頑張っていた彼の時間をなんだと思ってるのよ!
・・・でも、それだけで姿をくらます理由になるのだろうか。
負ける覚悟もしていたし、騎士団に残ってもいいように根回しをしていた闇の勇者君だ。
悔しいだろうけど、それはそれで、受け入れそうな気がするんだけどな。
「おかしいな。彼は負けることも想定して立ち回っていたようだったが・・・。」
リュウ先生も、私と同じように思っていたようだ。
「その後の王女の発言のせいだと思います。それで・・・」
「続きがあるのか。その王女はなんと?」
「・・・王と騎士団長が決定を覆すことはできないと説得しましたが、聞く耳を持たず・・・。僕でなければ討伐には行かないから、と。」
― とんだワガママ王女だな!
「王が理由を聞いたところ、『だって、あっちの子は魔族と同じ色よ。私、そんな人と行くのは嫌!』と・・・。」
「「・・・・・・はぁ?」」
リュウ先生と私の声が重なった。
― 黒目黒髪が、魔物の色ですってぇ?
なにのたまわってくれてんだ、その王女様は!
「魔族の色って、王女は実物を見たことがあるのか?」
「さあ。僕たちは同行したことがありませんが、討伐には行っていたようなので、あるいは。」
「君は魔族を見たことは?」
「ありません。僕たちが対処するのは魔物です。魔族に使役されている動物のようなものだけです。」
「魔物は黒いのか?」
「いえ。色は様々です。共通するのは瞳が真っ赤なことだけです。」
「誰も魔族の姿は見たことがないのか・・・まさか、騎士団のヤツらが王女の言うことを信用したというのか?」
「皆、という訳ではないと思いますが・・・。それから見る目が変わったのは事実です。僕たちのことを疎ましく思っていた連中も少なからずいるし、あからさまに態度に出すやつも出てきて。」
― なんてことだ・・・。
試合のための努力が無駄になったどころの話じゃない。
「君は、彼を魔族だと思っているか?」
「なにを言ってるんですか。そんなわけない。僕とあいつは同じ場所からこっちに来たんです。前の世界には魔王なんて存在しない、人間しかいない世界だ。間違いなく僕と同じ人間です。」
リュウ先生の質問に、光の勇者君は珍しく感情的になって答えていた。
「そうか。変な質問をして悪かった。もう一つ聞く。君は討伐に行くのか?」
「こんな気持ちにさせられて、仲間として一緒に戦うなんてできない。それよりもまず、あいつを探すほうが先です。」
― そりゃそうだよね。見た目だけで敵認定するような人に命を預けられない。
それに、たとえ親友じゃなくても、ずっと一緒にいた仲間を魔族扱いする人たちなんて、許せない気持ちになるよね。
「事情はわかった。こっちでも彼を探す。君はどうする?」
リュウ先生は、二室を動かすことに決めたようだ。
「戻りたくはありませんが・・・もう一度探してみます。」
「一人で無理はしないように。ダメだと思ったら、すぐこっちに来なさい。居場所がわかったら、教会を通して伝える。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
光の勇者君は、足早に三室から出て行った。
「二室に行くぞ。」
リュウ先生も、相当腹に据えかねているらしい。
その険しい顔と、なにやら立ち昇る黒いオーラは・・・以下省略。




