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勇者候補君の、今一番欲しいものや知りたいことは、私では与えられない。
私にできることといえば、口うるさい親のように生活面をチェックすることだけ。
口うるさく言うのは、弟で慣れたものである。
幸い、2人とも礼儀正しい子だから、『うぜぇ』なんて言わないだろう。
「顔色はいいようだから大丈夫だと思うけど、三食食べてきちんと寝る。空腹と寝不足はロクなこと考えませんからね?」
「はい。耳が痛いですけど、ミサト先生の言うとおりですね。気を付けます。」
― やっぱり受け答えは素直なんだよな~。
「普段は、どのように過ごされているんですか?」
「召喚された僕たちは、特別に王宮付きの騎士団に所属させてもらってます。もちろん、有事の際は出兵します。そのための日々の訓練と、王宮の警護などです。タダで住まわせてもらうわけにもいきませんので。」
― なんと殊勝な!
「有事ですか?有事とは・・・まさか戦争、とか?」
「ああ、いえ。魔物が出ますので、その討伐です。それ以外はいたって平和な国です。」
― 人間同士の争いがなくて、とりあえずひと安心。
「魔物・・・被害も相当なのでしょうね。」
「そうですね。末端を排除してもキリがありません。大元をどうにかしないと。」
「なるほど。それで今回魔王の討伐隊を。」
「これまで何回か行ったようですが、結果が芳しくなかったようで・・・それで、異界から召喚することになったと聞きました。」
― 昔の古い文献とかに、そういう記録があったのかしら?
そこを突っ込むと、時間がなくなりそうだから、今日はやめとこう。
「そういう事情だったんですね。王宮の方たちとはトラブルとかありませんか?」
「ええ、まあ・・・。そうならないように気を付けています。」
― ああ・・・だからあえて仕事を引き受けたのか。
召喚されたての時には、いろいろ言われたんだろうな。
「もしかして、騎士団に所属して仕事されているのも、そのせいですか?」
「もともと騎士を目指して学園に通ってました。ただ場所が変わっただけです。・・・ようやく周りも認めてくれたみたいで、今では楽しくやっています。」
「そうでしたか。あなたの頑張りで、今があるんですね。」
「なんか恥ずかしいな。ははっ」
闇の勇者君は、少し照れくさそうに小さく笑った。
勇者候補君たちは、仕事をして、成果をあげて、周りの信頼を実力で勝ち取ってきたようだ。
おそらく、そうするよう仕向けたのは闇の勇者君。
そして今も闇の勇者君は、決められたスケジュールを守って生活してるのだろう。
なら、図書室に入り浸っている光の勇者君は・・・どうなってんだ?
御前試合のために、仕事を免除されているのかしら?
「あの、一つ質問していいですか?」
「なんでしょう?」
「あいつは・・・指導以外でもここに来ているんですか?」
― おや、光の勇者君の動向を知らないとは。
「あれ、彼から聞いていませんか?暇があればここの図書室で勉強されているようですよ。」
「図書室、ですか?」
「ええ。このセンターにはいろいろな書物がありますから。なにか調べているようですけど・・・残念ながら、内容までは私にはわからないです。」
リュウ先生とキャロルさんと相談し、『調べればわかること』は聞かれたら答えることにした。
今の質問だって、本人に聞けばすぐにわかること。
となると、光の勇者君とは会話すらしていないのか。
もし、光の勇者君が任務を放棄してここに来ているとしたら・・・。
闇の勇者君が、それをわかったうえで、あえて普段通りの生活をしているとしたら・・・。
試合を控えて、任務を遂行する闇の勇者君と、任務を放棄している光の勇者君。
どちらの評判がいいかなんて、明らかだ。
心配そうなその表情の裏側には、どんな顔が隠されているのだろう。




