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週が明けて木曜日、いよいよ勇者候補君の面接が始まる。
一週間に一度、同じ人との面接なんて、もちろん初めての経験である。
そんなに話すことなんてないんじゃないの?と思ったりしたが、本当はどういう思いを抱えているのかを話してもらうのが目的。
2,3か月の短期間でそれを引き出せとは、なかなかに無謀な要求である。
「転移者の方をお連れしました。」
二室での特訓を終えて入って来たのは、予想通り、黒髪の、闇の勇者君であった。
― やっぱりこっちの子が最初か。
今日の様子を、光の勇者君に伝える役目も担っているんだろう・・・面倒見がいいけど、少々お世話しすぎなんじゃないかな。
「お疲れさまでした。どうぞこちらに座ってください。」
診療室に入って来た闇の勇者君をソファーに座らせ、私はよく冷えたミント水を出す。
彼は、一礼して座り、出されたミント水を一気飲みした。
「ありがとうございます。美味しかったです。あの・・・もう一杯いただけますか。」
ちょっと照れながら言う姿は、微笑ましくて、ついつい応援したくなってしまう。
「はい、いいですよ。相当しごかれてきたみたいですね。」
「はは、ええ、まあ。ついていくのにやっとで。」
一息ついた頃を見計らい、改めて自己紹介する。
「これから君の担当になる、リュウといいます。専門は薬です。よろしく。」
「私は、ミサトといいます。よろしくお願いしますね。」
「こちらこそよろしくお願いします。って、リュウさんって薬の先生なんですか?」
闇の勇者君は、ずいぶん驚いていた。
「ええ、そうです。薬といっても、傷を治すような万能薬は作れませんがね。」
「そうなんですか?キャロル先生が言ってたことと違うな・・・」
― ん?キャロルさん、リュウ先生についてなにか言ってたのかな?」
「キャロル先生は、リュウ先生のことについて、どう言っていたのですか?」
「あ、はい。なんでも、剣以外で戦う術をお持ちだとか。知りたかったら直接聞け、と。なので、まさか薬の先生だとは思わず・・・。」
リュウ先生の眉がぴくっと動いた。
― あ、『余計なこと言いやがって』って思ってるな、リュウ先生!
キャロルさんも、やってくれる。
「ああ・・・まあ、体術を少しね。」
「体術?それはどういうものなんでしょうか?」
闇の勇者君が食いついた。
「・・・・・・君、ケンカしたことはある?」
「ケンカ・・・?それって、殴り合いとか、そういうのでしょうか。」
「そう。私がいた国では、殴る蹴るを体系化した競技があってね。・・・言っておくけど、魔王討伐にはもっとも向かないものだよ。人間相手に考えられたものだから。」
「なるほど・・・殴る蹴るにも、型のようなものがあるんですね。あの、もしよかったら、教えていただくことは・・・」
― 強くなるためなら、努力を惜しまない秀才型か~、なるほどねぇ。
もしもの時のために、手数を多く持っておきたいのかな。
旅行に行くときには、旅行カバンがパンパンになるタイプだな、きっと。
「教えるのは構わないけど、地味だよ。私がやっていたのは、あくまでスポーツ競技であって、実戦のためじゃないからね。」
― えええ、引き受けちゃうの?
面倒くさそうな顔してたのに、どういう風の吹き回し?
「いいんですか?いや、殴る時に魔法を乗せたらいけるかなって。それなら、ちゃんとした殴り方で殴ったほうが威力があるんじゃないかと思って。剣をはじかれたとき、残るのは素手ですから。」
そう言って、自分の右手をぎゅっと握る闇の勇者君であった。
「なるほどね。そういうことなら、殴り方や蹴り方は教える。先ほども言ったけど、あくまで人間相手のものだ。それをアレンジするのは君のセンスになるよ。それでもいいかな。」
「はいっ!ありがとうございます。」
闇の勇者君の特訓内容が一つ増えた。
彼の面接時間が削られちゃうけど、いいのかしら・・・。
でも、一生懸命な彼の顔を見てたら、そんなことは言えないよね。




