桜井かすみの視点
桜井かすみは、カイが電車に乗ったのを確認してからふと一息ついた。
「それじゃあ、私もお嬢様に今日の報告をして帰るとしましょう」
時はさかのぼること5時間前、桜井かすみは赤瀬家の敷居をまたいでいた。私は警備員に会釈をして、自分の主の部屋へと足を運んでいた。
元来、桜井家は日本の医療界を牽引する家系の一つだった。両親なんかは、よく医療系学術雑誌で特集のインタビュー記事を組まれたり、テレビ出演していた。私も小学校高学年に上がる頃までは、お嬢様のように育てられていてそんな日が終わりを告げるとは想像もしていなかった。だけど十年ほど前、米国の大手投資銀行の倒産により、病院の経営は一瞬にして経営難に陥った。一度は借金をして再建を試みたが、借金は年々増えていく一方だった。
そこへ手を差し伸べたのが赤瀬家だった。赤瀬家は自動車産業や建築業などを経営する企業グループで医療の分野にもビジネスを展開しようと考えていた。当時の桜井家の頭は、赤瀬家の傘下に入る提案を受け入れ、それからは桜井家は赤瀬家の補佐を担う家系という立場となった。そして当然、かすみも従者としての務めを行っている。
「お嬢様、かすみです。失礼します。」
ドアを開けて中に入る。私は、ベッドのところまで行き主の様子を見る。
そこには、赤髪の少女が可愛らしく寝ていた。私は主の肩をトントンと叩きながら声をかける。
「あずさ様、起きてください。」
主であるあずさが目を覚ました。
「おはよう」
目が覚めた主はベッドから起き上がり、大きな鏡の前まで歩いていく。
「おはようございます。あずさ様。」
かすみは、それからあずさの出掛ける支度の手伝いをする。最後の仕上げに髪をくしで整えているとあずさが話しかけてきた。
「かすみ、お願いがあるのだけれど。入隊試験の時に私と対戦した男子のことについて調べておいて。私たちと同年代であれほど強いのに名前も聞いたことなんて、あまりにも不自然だから」
「かしこまりしました、お嬢様」
かすみは、赤瀬家と桜井家の情報網を使って黒川カイについて調べてみたが、分かったことはカイの中学の時の魔力検査の結果とカイの父親が先の戦争で亡くなったことだけだった。
なので直接黒川に接触して色々情報を聞き出すことにした訳なのだが、かすみは元より諜報の分野に関しては素人なので無駄なことを喋りすぎてしまった。
とりあえず今日のカイとのやり取りは録音してあるので、あずさ様に届けてまた明日からも少しずつ調べようとかすみは気持ちを切り替えるのだった。




