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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第22章 神になりたかった男

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殲滅戦2 ~魔術&呪術vs脂虫

 舞奈たちが廃工場の人型怪異を一掃するよりしばし前。

 明日香とルーシア、冴子やフランたちのチームは伊或(いある)町の一角を見回っていた。

 以前に無人のアパートが怪異に占拠されていた事があったからだ。

 そこは奪われたプリドゥエンの箱舟が最初に見つかった場所でもあった。


 そして箱舟を奪い違法薬物を流通させている何者かの情報は不足している。

 国内にいるとおぼしき黒幕に繋がる手がかりも一切ない。

 なので他にも何か見つからないか調べ直す算段だ。

 もちろん奴らの手駒でもある人型怪異が再びあらわれて市民に被害が出ないためのパトロールの意味合いもある。


「すごく不思議な街並みですね」

「はい。古い建物が木造なのは少し面白いですよね」

 褐色の可愛らしい顔をキョロキョロさせて周囲を見回すフランに、隣を金髪をなびかせて歩くルーシアが笑顔で答える。

 中東系のフランも、金髪のルーシアも、古い日本の街並みには馴染が薄い。


 木造やトタン壁の平屋が並ぶ古びた通りを明日香は平然と、ルーシアや騎士たちは少し慣れた様子で、冴子とフランは物珍しそうに見渡しながら歩きながら……


「……気がかりな事?」

「ええ。わたしたちが初めて巣黒(すぐろ)支部にお邪魔した時に、こちらの警備員と協力して不法移民に対処したっていう話はしたでしょう?」

「まあ、そんな事が」

「そうなんですよ……」

 首をかしげる明日香に冴子が答える。

 ビックリするルーシアに、フランが苦笑してみせる。


 今回のパトロール兼調査は人数に余裕があるので監視する目にも余裕がある。

 なので周囲を警戒しながらも雑談に興じていた。


 明日香と冴子が話していたのは、冴子たち協力部隊の面々が初めて巣黒を訪れた日曜日の事だ。

 明日香やルーシアが東南アジアで魔獣に対処していたのとほぼ同じ頃。

 6年生の秘密基地にまた不審者があらわれ、彼女たちは警備員と協力して対処してくれたらしい。だが……


「……その際に、警備員たちより先に不審者に対応した何者かがいたわ」

「何者か……ですか」

「ええ」

 続く言葉に明日香は少し驚く。

 そんな明日香の側を歩きながら、冴子は淡々と事実を語る。


「申し訳ないけれど、それ以上は不明よ。ただ対処に当たった誰のものでもない殺され方の残骸がいくつか見つかったわ」

「と、言いますと?」

「……奴らは斬り伏せられるか、貫かれていた」

「斬撃と刺突による致命傷ですか……」

 その言葉にも、明日香は歩きながら考える。

 利発で冷静な子供と、同じくらい知的な協力者の女性の会話に、フランやルーシア、騎士たちも注視する。


 対処にあたった警備員は明日香の部下なので、得物も戦い方も知っている。

 だが、その中にそういう戦い方をする人材は確かにいない。


 モールなら、その2メートル近い巨躯から伸びる両腕でひねり潰すはずだ。

 それ以前に子供の遊び場で見つけた脂虫にとどめを刺したりしない。

 地元警察に引き渡す事を前提に可能な限り外傷のない形で無力化するだろう。

 逆に娑ならもっと……何というかバリエーションに富んだ殺し方をする。

 道士である彼女にとって、石や枯れ枝、落ち葉に至るまで林にある全てのものが武器になる。

 もちろん魔術師(ウィザード)である冴子ややんす、回術士(スーフィー)のフランも違う。

 ドルチェは【装甲硬化(ナイトガード)】で強化したワイヤーで切断する技を持つが、こういう話をするという事は確認はしたのだろう。


 それ以外で心当たる人物や状況も皆無ではない。

 だが不審者とも警備員サイドとも違う第三者として考えにくいのも事実だ。


 そのうちひとつは埼玉の一角で、元凶である殴野元酷を討った際の事。

 明日香と舞奈は一度は奴を取り逃がし、だがすぐに発見した。

 その際に殴野元酷は両足を切断され、両手を貫かれていた。

 当時はサイキック暗殺者リンカー姉妹の仕業だと思った。

 だが【転移能力(テレポーテーション)】【精神読解(マインド・リード)】とその派生の超能力(サイオン)を得手とする彼女らに人型怪異の身体を切断したり穴を開けたりする手札なんてあっただろうか?


 もうひとつは……Koboldビル攻略戦の際に倒したイレブンナイツの騎士。

 剣鬼とコルテロと言ったか。

 ひとりは太刀を振るい、もうひとりはレイピア使いだった。

 だが奴らにはもう他の何かを害する力はない。

 自分と舞奈で排除したからだ。

 その際に少しばかり正々堂々とは言いかねる手段は使ったが、そんな理由でいちいち化けて出てこられてはキリがない。


 なので、まあ、それについては頭の片隅に留めておく。

 今は伊或町のアパート近辺の調査兼パトロールの時間だ。

 他の懸念は後で熟考し、どうしても腑に落ちなければ林を捜索する日に徹底的に調査すればいい。

 そんな事を考えながら、木造の家屋が珍しい古びた通りを歩いていると……


「……おやルーシアさん。皆さんもお揃いで」

「こんばんは皆さん。明日香ちゃんも。今日もパトロールかい?」

「あら楓様。紅葉様もこんばんは」

「こんばんは」

 見知った2人組とバッタリ出くわした。

 ひとりはウェーブのかかった長髪をなびかせた女子高生。

 もうひとりはポニーテールが爽やかな女子中学生。

 桂木姉妹だ。


「お2人とも、こんな時間に何故ここに?」

「いえ実は、桜さんが何日か前にここらで再び不法移民を見かけたらしく、警戒のためにパトロール中なのですよ」

「……クラスの者がお手数をおかけします」

 訝しむ明日香に、楓は満面の笑顔で答える。


 今の楓は髪を下ろし、眼鏡も外してコンタクトにしている。

 彼女が殺しを楽しむ時のスタイルだ。

 おおかた皆の武勇伝を聞いて、桜にも話を聞いて、人型怪異の喫煙者を好きなだけ始末できると思ってハンティングに出向いたのだろう。

 医学生にしてアーティストの彼女は脂虫を芸術的に捌くのが大好きだ。

 妹の紅葉は例によって姉に付き合わされているのだ。

 本当にお手数をおかけして申し訳ない。

 思わず苦笑する明日香を他所に……


「貴女たちは仕事人(トラブルシューター)だったわよね? 報酬も出ないのに……」

「あの忌まわしい怪異どもを一匹でも多く屠れる事こそが我が報酬ですよ」

「まあ! この界隈の強力な怪異に対抗するには、そのくらいの覚悟が必要だという事かしら。流石だわ。巣黒の術者は面構えからして違うわね」

「若いのに何て立派な心がけなんでしょう!」

 冴子とフランが感動する。


 楓は脂虫を芸術的に斬り刻みたいだけだ。

 もちろん悪臭と犯罪を振り撒く脂虫どもは人に似るが人ではない怪異だ。

 くわえ煙草の人型怪異を斬ろうが刺そうが倫理的には問題ない。

 むしろ善行だ。

 法的な問題も【機関】の関係者であれば問題ない。

 それでも人の形をした怪異をいたぶって殺すのが三度の飯より好きだと言われるとドン引きだし、そんなキチ〇イみたいな人がいるなんて普通は思わない。


 対して事情を知らない冴子やフランは単に職務に前のめりな子だと思っている。

 2人が生真面目だからという理由もある。

 禍我愚痴支部陥落の際に楓が少し協力してくれたという理由も少しある。

 そして2人ともが怪異の陰謀に大事な誰かを奪われたから、怪異を殲滅する仕事に前のめりな楓の様子に素直に共感できるという理由も多分にあるだろう。


 事情を知ってる明日香は(なんだこの会話)みたいな表情で苦笑い。

 楓の側の紅葉も似た表情だ。


「楓様も紅葉様も本当に熱心な方で、この道を志して一年足らずで魔術と呪術の基礎を身につけられたんですよ」

「まあ!」

「凄いです! 神童ですね」

 続くルーシアの言葉に、冴子とフランはまたまた感激。

 こっちはこっちで天然だし……。

 それに舞奈の言葉ではないが、楓は上面だけは学園のアイドルで高根の花だ。


 まあ別に嘘でもないし、姉妹が有能なのは本当なので特に異は唱えない。

 紅葉も苦笑するに留める。

 楓は他人事のようにニコニコしている。


「お尻も触りませんし」

「……舞奈がいつもすいません」

 ボソリと言ったフランから目をそらす。

 まあ、それはともかく……


「……その子がどのあたりで移民を見かけたのかはわかるのかしら?」

「近所の他の子たちにも聞きこみして、目撃地点をまとめてみたんですよ」

「まあ、本当に精力的ね」

 言いつつ楓は携帯を取り出す。


 手早く操作して画面に地図を表示させる。

 伊或町周辺の詳細地図だ。

 よく見やると路上の十数か所にチェックマークがついている。

 聞きこみで得られた目撃地点だろう。

 けっこう頑張って情報収集をしたらしい。

 楓さん、外国から不正輸入された脂虫を斬り刻みたい熱意だけは本物だ。


 正直なところ盲点だったと明日香は思う。

 桜も学校で明日香や舞奈が忙しそうにしてるし放課後もすぐ下校してしまうから楓に相談したのだろうし。


「出没地点に偏りがありますね」

「店舗もなく人通りも少なく、高齢世帯が多くを占める地域ですね」

 フランと一緒に明日香も画面を覗きこみ、


「件数が多くて助かるわ。中心にあるのはここ……公園かしら?」

「児童公園がありますね」

 要領よく場所を特定した冴子の言葉に明日香が答える。

 こちらも、どうでもいい三角形を作っていたニュットに比べて格段に有能だ。


 そして正直なところ有り難いのも事実だ。

 ご町内を闇雲に歩き回ったり、完全にクリアして警察の実況見分も行われた場所を見て回るより、数日前の目撃地点を元に調査した方が収穫がある可能性は高い。

 それが一連の事件の手がかりであれ。

 地域住民の安全であれ。

 なので――


「――では皆でそちらに向かいましょうか」

「宜しいのですか? 明日香さんたちにも目的があるのでは」

「すでに人型怪異を片づけた場所より、今まさに怪異がいるかもしれない場所の方が優先順位は高いですので。皆さんも構いませんよね?」

「ええ、異存はないわ」

「はい!」

 そのように楓たちと合流し、目的地を変えて歩き出す。


 明日香に冴子にフラン、ルーシアや騎士たちに加え、楓や紅葉の目も使って周囲を窺いつつ公園へ向かって歩く。


 なるほど人気のない通りは、進む毎に道端のゴミや吸い殻が増える。

 少し離れた通りの向こうを、くわえ煙草の浅黒い集団がうろついている。

 そりゃあこんな状況なら桜も気味悪く思うだろう。

 手遅れにならないうちに言ってくれて良かったと思う。


「……まだだよ? 姉さん。奴らのアジトがあるなら見つけて潰さないと」

「わかっていますとも」

 そんな話をしながら夕暮れの通りを歩いていると……


「……あれではないでしょうか?」

 ルーシアが指さす。


 大きめの民家ひとつ分くらいの敷地の、こじんまりとした公園。

 地図にあった児童公園だ。

 明日香も知らない場所ではなかったが、今の状況は予想外だ。

 敷地内はゴミで溢れ、何かの残骸が道路にまではみ出している。

 壊された遊具の合間には薄汚いテントが張られ、すっかり難民キャンプの様相を呈している。

 地元警察は何をしているのか割と真面目に問い詰めたい状況ではある。


 しかも小さなスラムには、いくつもの不気味な人影がたむろしていた。

 長身で浅黒い不法移民の群れだ。

 遠目に見る限り、盗品らしき何かの交換をしていたり、何かを貪っていたり、単に千切られたブランコの鎖に登って遊んでいたりする。

 その全員が煙草を手にし、あるいは吹かせている。


「ナイジェリア人のグループでしょうか」

「ええ、おそらく」

 眉をひそめるルーシアの言葉に明日香がうなずいていると、


「先程こちらの支部に伺ったところ、殲滅の許可を頂きました」

 フランが携帯から顔を上げる。

 流石は気の利く協力者チームのお母さん。


「けど確保した人型怪異は不法滞在者として地元警察に引き渡す予定なので、それが可能な状態で確保してほしいとの事です」

「じゃあ【煮える悪血シェメム・セネフ・アジャ】や【沸騰する悪血シェメム・セネフ・アジャ・シェム】で一掃する訳にもいかないね」

「まあ、手段はいくらでもありますよ」

 続くフランの言葉に紅葉が苦笑する。

 対して楓は不敵に笑ってみせる。

 明日香も方針には賛成だ。


 だが、のんびり準備をする理由はなかった。

 何故なら浅黒い男たちのうちひとり……1匹がこちらを見やって何かを叫ぶ。

 他の男たちも一斉に立ち上がる。

 ゴミの山から掘り出した得物を手にし、こちらに向かって走り来る。

 鉄パイプや錆びた日本刀、ナイフを構える者もいる。


 不法移民の集団は自分たちが遠くから見られている事に気づいたらしい。

 そのほとんどが女性である事にも。

 だから襲撃しようと思ったのだろう。

 人型怪異とはそういう存在だ。

 しかも海外から入りこんだ最悪の種類の怪異は知能も品性も最低な代わりに視覚を含む身体能力に秀でる。

 おまけに野生動物のように同族同士での仲間意識が強い。

 周囲の住民に被害が出る前に接触できて本当に良かったと思う。


「わたしが一帯を封鎖するわ」

 宣言するが早いか冴子が施術を開始。

 短い祝詞と同時に周囲の景色が一転する。


 木造の素朴な家屋はハイカラな大正時代風の建物に。

 ゴミが散乱していた通りは真新しいアスファルトの路地に。


 即ち【天岩戸・改(あまのいわと・かい)】。

 国家神術による戦術結界だ。

 その手慣れた施術は素早く、正確。

 元の支部でも、あるいは禍我愚痴支部でも同じ状況が何度もあったのだろう。

 楓たちや明日香自身を高く評価している冴子には、自分たちにはまだない組織に属する術者としての経験値がある。


「では我々も先輩に恥じぬ技を見せねばなりませんね!」

 ニヤリと笑いながら楓が走る。

 その左右を……


「――失礼します!」

「お先に!」

「……あ」

 フランと紅葉が普通に追い越す。

 身体強化され、普段から訓練している2人に楓は身体能力では敵わない。

 というか、どうして楓は走ったのだろう?

 明日香は思わず苦笑する。


 そうしながら詠唱もなく【氷盾アイゼス・シュルツェン】を行使して4枚の氷盾を展開する。


 見たところ敵に異能力の使い手はいなさそうだ。

 もちろん術者もいない。

 だが油断は禁物だ。

 冴子のそれに比べればはるかに短い明日香のキャリアの中ですら、敵の規模に対して不必要と思える警戒と準備が命を繋いだ場面が何度もあった。

 今回の一連の事件では特にだ。

 そう考えて明日香が気を引き締めると同時に――


「――集団の中に術者も異能力者もいないわ。思う存分やっちゃって」

「了解です!」

 冴子の言葉に答えつつ、前衛の2人が敵集団と接触する。


 長身の男が振りかざすナイフをものともせず、フランが褐色の拳を男のみぞおちに叩きこむ。男の長躯がくの字に曲がって崩れ落ちる。

 回術【強い体(ジスム・カウィー)】で強化された必殺の拳を生身で避ける事は普通はできない。

 もちろん、まともに食らって耐える事も。

 攻撃魔法(エヴォケーション)や他の回術を使うまでもない。

 埼玉の一角で何度も一行のピンチを救ったフランは技量をますます上げている。


 それだけじゃない。

 冴子は素早く魔力感知を行使して敵の異能の有無を確認し、皆に伝えた。

 あるいは結界に同調して調べたのだろうか?

 堅実な手管だと明日香は思った。

 冴子は熟達した術者であるだけでなく、サポートにも手慣れている。

 一騎当千の火力ではない、十の戦力を百に変える戦い方。


「なら思ったより仕事は楽そうだね」

 紅葉も笑みを浮かべつつ、別の男が振るった鉄パイプを避けつつ蹴る。

 ウアブ呪術【屈強なる身体(ジュト・ネケト)】によって強化されたスマートなつま先が浅黒い屈強な男を吹き飛ばす。向かいの塀に激突した男は崩れ落ちたまま動かない。


「紅葉さん!? 横から!」

「大丈夫! 問題ないよ!」

 ルーシアの悲鳴に笑顔で答え、左右から迫る男を近い方から蹴散らす。

 その程度は舞奈ほどの直観や感覚を持たなくても余裕だ。


 そんな様子を見やってフランが「流石です」と笑う。

 紅葉も「お褒めいただき光栄です」と爽やかなスマイルを返す。


 一方、ルーシアも負けじと施術を完成させる。

 同胞の士気を上げ身体能力を上昇させる【勇猛たる戦士の旋律サング・ウォバービーネリング】。


 熟達したセイズ呪術のサポートを得た騎士たちが暴徒どもを叩きのめす。

 ある者は掌から【氷結剣(クリオ・ソード)】による氷の剣を伸ばして。

 別の者は【強化能力(リインフォース)】【加速能力(アクセラレート)】を併用した超パワー、超スピードで。


 そんな前衛を迂回するように、ナイフを手にした男が後衛めがけて走り来る。

 隙あらば弱い相手を狙う性根は、まさに怪異。

 だが、もはや案ずる者は誰もいない。


 前衛の後ろ、後衛の前で手持ち無沙汰にしていた楓が適当に拳を突き出す。

 その手がいきなり巨大に膨らみ、ビックリして動きの止まった男を握りしめる。

 そのままゴリゴリと全身をマッサージされた男は悲鳴をあげて昏倒。

 巨大な手が離れた途端に崩れ落ちる。


 楓が得手とするウアブ魔術【変身術ケペル・ジェス・ケトゥ】の応用だ。

 厳密には手を巨大化させたのでなく、『他はそのままで手だけ大きい楓』に変身したのだ。


(本当にやるのね……)

 冴子は目を丸くする。

 念のためにと形成した結界が、こんな風に役立つとは思わなかっただろう。


 それはともかく、一行は公園に巣食っていた不法移民を苦も無く殲滅した。

 今日の見回りの目的のうち、パトロールの部分は首尾よく片付いた事になる。


「結界を解除するわ。フランちゃんは支部に連絡を――」

「――少し待ってもらっていいですか?」

 結界を解除しようとする冴子を明日香が制止する。


「折角ですから地元警察より先に少し話を伺おうと思います。ひとつ気になった事があるんですよ」

 言いつつ何処からともなくカミソリのような薄いナイフを取り出す。

 側でうめいていた意識のある男を【氷棺・弐式アイゼスザルク・ツヴァイ】の氷の茨で拘束する。

 その側にしゃがみこみ――


――絶叫。何度も。浅黒い長躯がまな板の上の魚のように跳ねる。


「明日香さん……!?」

「明日香様……」

 フランはビックリ。

 ルーシアはどうしていいかわからない様子でオロオロと騎士たちを見やる。

 だが騎士たちも困る。


 明日香は冷ややかな最低限の言葉で自分の仕事をこなす。

 目前の汚い口から悲鳴と一緒にヤニの悪臭が溢れ出るが、それも我慢。

 今の短く圧倒的な戦闘で、他の皆は各々の優れた技術を見せてくれたのだ。

 自分だけ何もしないというのも不誠実だろう。


「明日香ちゃん、そんな特技があったのね」

「執事さんがその方面の達人で、教えを受けたのだとか。わたしも見習わなければなりませんね」

 冴子は感心し、楓はニコニコと笑う。


 意志薄弱な脂虫は他者を容易く傷つけるのに、自身に与えられる苦痛には弱い。

 その性向は肌の色が何であろうと同じだ。

 なので断末魔のような悲鳴をあげて完全に意識を失った男を背に――


「――やはり、予想した通りでした」

 明日香は立ち上がり、ナイフの刃にこびりついた何かを布で拭き取りながら、


「国内の要職にある人型怪異が彼らの不法入国を手引きし、国内での生活をサポートしているようです」

 尋問で得られたばかりの情報を伝えながら不敵に笑った。


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