表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第22章 神になりたかった男

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

605/609

殲滅戦1 ~銃技&カバラ魔術vs脂虫

 パトロール兼調査に出かけた舞奈にドルチェにやんす、レナや騎士たち。

 倉庫街を見回る最中に不法移民の集団を発見した。

 舞奈とやんすは先行して集団を尾行する。

 奴らが入っていったのは金網の柵で囲まれたトタン壁の建物。

 そこは、いつか騎士団が麗華を誘拐した廃工場だった。


「マーサさんたちも、こちらに向かっているようです」

「さんきゅっ」

 舞奈の側に、虚空からにじみ出るようにやんすがあらわれる。

 透明化のカバラ魔術【めしいの外套(ベゲド・テュフロス)】を解除したのだ。

 周囲に見張りはいないから姿を隠している必要はない。

 ついでに【御使いの耳(オーゼン・ハ・マラフ)】、マーサの【魔術の幻聴(ベントリロキズム)】【智慧の耳(アーケイン・イヤー)】を使って本隊と連絡を取っていてくれたらしい。


 つまり、じきにマーサやレナ、騎士団とドルチェがやってくる。

 そうしたら何人かで裏口を封鎖して、表の搬入口からでも踏みこんで中にいる奴らを一網打尽にすればいいだろう。

 殲滅の許可も取ってくれたらしいし。

 何より舞奈は建物の間取りを知っている。

 今回の突発的なトラブルは珍しく楽に解決できそうだ。


「でも『例の廃工場』でわかるでやんすか?」

 首をかしげるやんすに、


「まあな。騎士団の連中がよく知ってる場所なんだ」

 舞奈はニヤリと笑みを浮かべつつ、音もなく柵を乗り越える。

 皆が到着するまで舞奈たちがする事はない。

 その間に中の様子を窺うのもやぶさかではないと思ったのだ。


 工場の窓からは明かりが漏れているし、人の声も物音もする。

 中に人がいるのは瞭然だ。


 あと本隊が道に迷う事はない。

 何故なら以前に騎士団の連中が麗華を誘拐し、ここに潜伏していたのだ。

 いちおう麗華様が預言の贄にされないよう守っていたらしいのだが。

 その際に下調べもしていたようだし、忘れる事はないだろう。

 色々な意味で。


 以前に舞奈がここを訪れた際、彼らは見張りを立てていた。

 舞奈はジェイク氏に捕まる形で侵入し、麗華を見つけて脱出。

 だが騎士団に見つかり、用心棒のサーシャ――レディ・アレクサンドラと対決。

 挙句に救援にやってきた明日香が……それ以上はやめよう。


 ともかく今回は以前とは違う点がいくつかある。

 ひとつは目的が救出ではなく殲滅である点。

 今、工場内にいるのは煙草を吸わない金髪の男たちではない。

 薄汚い身なりの脂虫だ。支部から殲滅の許可も出た。

 故に裏口を封鎖してから正面の搬入口を開けて集団で乗りこむ算段である。

 倉庫のガサ入れの時みたいに魔術で壊さず開けられる手段があればいいのだが。

 そんな事を考えながらトタン壁に耳を寄せる。


(……お、いるいる)

 薄い壁の向こうから複数人の男の声。

 搬入スペースに集まって何やらしているようだ。

 足音と合わせて察するに1ダース半ほどはいるだろう。

 だが当然ながら会話の内容はわからない。

 中の奴らが舞奈の知らない言語で話しているからだ。

 イントネーションから何か集団で興奮しているのだろうと思う。

 だが奴らは普段から動物みたいに興奮して暴れまくっている。


 舞奈は柵の外でぼんやりしていたやんすを手招きする。

 やんすは柵に顔をつけて覗きこんでくる。

 柵を乗り越える気はないらしい。まったく。

 仕方なく近づく。


「中で何か喋ってるんだが、意味はわかるか?」

 問いかけて、


「何て言ってるでやんすか?」

「ええっと……」

 やんすの返しにふと困る。

 知らない言語の声真似なんかできるか。


 そもそも、やんすはマーサの通信のサポートとして【御使いの耳(オーゼン・ハ・マラフ)】で聴力を強化しているはずだ。

 舞奈が素の聴力で聞けるくらいの壁越しの声なんか聞こえるだろうに。

 あるいは術に指向性を持たせてあるとかで方向を変えられないのだろうか?

 単に面倒くさいのか?


 仕方なく壁際に戻る。

 やんすと顔を突き合わせているより、こっちの方が役立つ情報があるだろう。

 そう考えつつ再び壁に耳を寄せ――


「――やんす! 壁かシャッターをぶち破れるか!?」

「なっ何でやんすか!?」

 いきなり叫ぶ。

 やんすがビックリする。

 下手をすると中から聞こえるレベルの大声だからだ。


 だが、そんな事に構っていられる場合じゃない。

 何故なら中から男のものだけじゃない、すすり泣く女の声がした。

 聞き間違いではない。


 この不法移民の集団が巣食う廃工場の中に……誘拐された犠牲者がいる!


「スマンが予定変更だ! 踏みこむ!」

「ほへっ!? わ、わかったでやんす――」

 続く詠唱と共に、やんすがかざした掌からレーザー光が伸びる。

 即ち【硫黄の火ゴフリート・ヴァ・エーシュ】。

 舞奈の様子から只ならぬ状況を察したか。

 あるいは【御使いの耳(オーゼン・ハ・マラフ)】で中の声を聞いたか。

 そういった部分で意外にも舞奈の直観と鋭い感覚は信頼されているし、やんすも言うほど肝心な時に労力を惜しんだりしない。


 そんなやんすが放つ、以前に何度か見た同じ術より一見すると細く弱い光。

 だが正確無比に照射された熱光は、錆びかけたシャッターをギリギリ貫通しない熱量で溶かして穴を開ける。

 そのまま光が動くと焼き貫かれた穴が線になる。

 カバラ魔術師は熱光を操り、レーザートーチの如く綺麗に四角く焼き切る。

 中の状況がわからないから無茶は避けたいと思ったのだろう。

 中々の手管と技術だと素直に思う。

 何故なら次のアクションが楽だ。


「さんきゅ!」

 言うが早いか、切断されたシャッターを蹴り飛ばして中に跳びこむ。

 もちろん鉄が赤く灼ける切断面に触れないように。


 錆びた四角い鉄の板が何かに当たって砕ける音が広い内部に響き渡る。

 鉄が焦げる臭いより酷い、焦げた糞尿のようなヤニの臭いが鼻を突く。


 中は以前にも見た廃工場の搬入スペースだ。

 以前に見たのと同じようにコンテナが散乱している。

 錆びて倒壊した二階への階段もそのまま。

 だが何時の間にか不法移民の根城になっていたのだろう。

 広間の隅にはゴミ溜めのように布切れや生活用品の残骸、あるいは小さな鳥のような何かの残骸が散乱している。

 そのうち林の木々の根元に積もっていた枯葉のように腐って土になりそうだ。


 そんな一角に集まっていた十数人の……十数匹の不法移民。

 そいつらが一斉に振り返る。

 どいつも大柄で浅黒い顔と肌をして、薄汚いシャツや作業着を着こんだ男たち。

 何より全員が煙草をくわえ、もしくは手にしている。


 そんな集団が1ダース半ほどもひしめいているのだから、威圧感も不快感も並大抵のものじゃない。

 並の子供なら……大人でも思わず逃げ出すか、腰を抜かす場面だろう。


 だが舞奈が顔をしかめた理由は、そんな些細な事じゃない。

 男たちの足元に横たわる若い女性。

 おそらく近隣の住人か。

 手足をロープか何かで拘束され、衣服は半ば剥ぎ取られている。


「やれやれビンゴだぜ」

 舞奈は口元を歪める。


「子供!?」

 女性は舞奈を見やって驚く。


「――!」

 くわえ煙草の男たちは乱入者を見やって得物を構える。

 鉄パイプや日本刀、ナイフ。

 いつもの暴徒と同じだ。

 そうしながら男たちは舞奈の知らない言語で何やら叫ぶ。


 丁度良く後からやんすが追いついてくる気配。

 自分で焼き開けたシャッターをアチアチ言ってまたぎながら入ってくる。


「――奴ら、なんて?」

「女が増えたって言ってるでやんす」

「……ひょっとして、気づいてなかったのあたしだけなのか?」

「舞奈さんの事だと思うでやんすよ」

 舞奈が気楽に軽口を叩く前で、


「あ、貴女! 逃げて!」

 女は舞奈を――ピンク色のジャケットを着こんだ小学生を見やって叫ぶ。

 焼き切られたシャッターはともかくとして、まあ舞奈の容姿だけ見るなら秘密基地のつもりで迷いこんだ子供に見えても仕方がない。

 だが舞奈は答える代わりに口元に笑みを浮かべ――


「――無粋な枯葉どもがいなくなったら、二人で一緒に逃げるかい?」

「えっ!?」

 すました口調で語りかけながら敵集団に接敵する。

 数メートルの距離が一気に無になる。

 女は再び驚愕する。


 背後でやんすが嘆息する気配。

 うるさいな!

 せっかくの美人なんだ! ちょっとくらい色目を使ったっていいだろう?


 勢いのまま手近にいた1匹めがけてハイキック。

 反応する間もなくみぞおちを蹴られ、浅黒い長身がくの字に折り曲がる。

 丁度いい位置に下がってきた喉笛を強打しながら男が手にした鉄パイプを奪う。


 その間、数秒。

 他の男たちに動く余裕はなし。


 なので続いて女性の近くでズボンを引き上げようとしていた1匹の股を突く。

 男は獣の断末魔みたいな凄い悲鳴をあげながら床を転がり、のたうち回る。

 浅黒い集団は騒然となる。


「イイ音量だ! オペラ歌手になれるんじゃないのか?」

 舞奈は軽口を叩きながら油断なく鉄パイプを構える。

 得物の先っぽに何かこびりついているのは見ないふり。

 代わりに横たわったまま動けない女性を安心させるように笑いかける。


 自分自身も理不尽な目に遭わされていたはずなのに。

 彼女は先ほど、同じ場所に迷いこんだ(と思っている)子供の身を案じた。

 善良な女性なのだろう。

 だから怪異なんかに襲われたのかもしれない。

 奴らマイナスの感情を糧とする人間の紛い物は、プラスの感情を賦活する美や善を執拗に棄損しようとする。

 舞奈はそれが気に入らない。


 それより何より舞奈は綺麗な女性が大好きだ。

 ただ界隈を見回って帰るより、見飽きた怪異を叩きのめすより、べっぴんさんを首尾よく助ける方が楽しいに決まっている。

 その彼女の、はだけたブラのサイズがビックリするくらい立派ならなおの事。


 一方、やんすは詠唱もなく【雷鳴の雹コロート・ヴェ・バラード】。

 かざした掌の先が一瞬だけまたたき、不法移民どもの足元が穿たれる。

 男たちは動揺する。

 同胞が瞬時に倒された挙句に発砲されたと思ったか。


 だが、その隙にやんすの姿が空気に溶けるように消える。

 敵の視線を自分からそらした隙の【めしいの外套(ベゲド・テュフロス)】。

 その手管に感心するうちに――


『――おや、出遅れてしまいましたか』

「スマンが予定が変わったんだ」

 足元に1匹の猫がいた。

 マーサが【生物召喚(サモン・クリーチャー)】で召喚した猫を先行させてきたらしい。

 使い魔を経由した声色の(如何にも舞奈様らしい展開ですね)みたいなニュアンスは意識してスルー。

 その間にも猫は目ざとく周囲を見回して状況を把握し、


「適当に踏みこんだから、裏口から逃げてないか見ておいてくれないか?」

『かしこまりました』

 言った舞奈に答えながら奥の通路へ走り去る。

 男たちは一瞬だけ猫を見やるが、構っている余裕などありはしない。


 気づくと女性の側にやんすがいた。

 そのまましゃがみこんで何か唱える。

 途端、女性の身体から穏やかに力が抜ける。

 おそらく対象を眠らせる【安息の光(オル・ハ・ヌアク)】という魔術だろう。

 透明化は彼女に近づいて魔法戦闘を見せないようにするためだったらしい。

 そして安全を確保するためだ。


 何故なら彼女の背後にいた男が、いきなり出現した眼鏡の出っ歯に驚いて日本刀を振り上げた。くすんだ鉄が、工場内の照明に照らされて鈍く光る。

 だが、それより早く――


「――ひゃー」

 気の抜けたような悲鳴だか掛け声だかをあげながらやんすは拳を突き出す。

 途端、拳の先に巨大な鉄拳があらわれ、漫画みたいに男を吹き飛ばす。

 人の上半身くらいのサイズがある金属の拳。

 文字通りの鉄拳だ。

 一時的にゴーレムを召喚して攻撃する【御神の拳ティール・ハ・メフォラシュ】の応用だったか。


(それ、本当にやるのか……)

 舞奈はビックリ。

 男たちも状況も忘れて目を丸くする。

 これを一般の女性に見せない分別がやんすにあって良かったと思う。


 そうする間に我に返った喫煙者どもが、懲りずに舞奈に襲いかかる。

 鉄パイプや日本刀を振りかざす。

 だが一般的な感覚からすれば剣呑な凶器の先には炎も稲妻も宿らない。

 男たちの身体能力も、邦人より高いとはいえ常識の範囲内。


 意味不明な何かを叫びながら振り下ろされたそれらを、舞奈は苦も無く避ける。

 逆に先ほど奪った鉄パイプで手元を殴り、得物を払って弾き飛ばす。

 あるいは単純に叩きのめす。


 造作もない。

 どうやら今回の不法移民は異能力すら持っていないようだ。

 違法薬物によるものも含めて。

 もちろん術者なんかいるはずもない。

 ただ大柄で数が多くて狂暴なだけの、人の形をした臭い動物の群だ。

 ジャケットの内側の拳銃(ジェリコ941)どころか自前のナイフを使うまでもない。

 なので手にした鉄パイプで1匹ずつ叩きのめすうちに――


「――おおっと!」

 不意にシャッターが爆発した。

 外から粒子ビームでぶち抜かれたらしい。

 レナは中の様子を確かめたのか?

 男のナイフを避けながら苦笑する舞奈の背後から――


「――舞奈殿! 御無事でゴザルか?」

「ちょっと! なに勝手してるのよ!」

「ああ、問題ない!」

 シャッターの残骸を踏み越えながらドルチェやレナが入ってきた。

 どうやら他の皆が到着したらしい。


「……って、貴方たち何を!?」

 叫びと同時に宙を舞う氷塊のひとつが男の股間にクリーンヒット。

 おそらくレナが突入前に展開していた【氷突盾アイゼス・シュティッヒシルト】。

 ルーン魔術による氷の盾だ。

 銃弾すらはじく堅牢な氷をマグナムに食らった男はたまらず悶絶する。

 やはり王女様には胸をはだけた女性は刺激が強すぎたか。

 いきなりスペースの半分を焼き払うとかしない自制心があって良かったと思う。


「裏口に使い魔を配してあります。今のところ異常はないようですね」

「そいつは重畳!」

 続くマーサの言葉に舞奈は笑う。

 同時に男のひとりが見えない何かに突き飛ばされて吹き飛ぶ。

 マーサの【爆裂衝球(コンカッション)】だ。

 以前にヘルバッハが何度も使って舞奈が苦も無く避け続けた空気弾の魔術。

 だが一般的な状況で外す事はない。


「この状況に気づいて先行したでゴザルか!? 流石は舞奈殿!」

 言いつつドルチェも集団との距離を一瞬で詰める。

 勢いのままぶちかます。

 獲物はない。

 そんなものは必要ない。

 移民どもより縦はともかく横は倍ほど大きな大柄な男性が、突撃の勢いと質量を完全に活かして一撃を食らわせたのだ。

 並の人型怪異に耐えられるはずもない。

 シャツの腹に描かれた女の子が活躍する日朝アニメの怪人の如く、男は吹き飛ばされて背後のコンテナに叩きつけられる。

 そのままずるずると床に崩れ落ちる。


 こちらも女性を守れる人間がひとりでも増えた方が良いという判断だろう。

 そういった機転が利くあたりも彼がAランクである所以だ。


 さらに搬入口からは騎士団たちも入ってきた。


「手加減しなくていいわ! やっちゃいなさい!」

「了解しましたレナ様!」

 主君であるレナの叫びに答えながらジェイクの手から稲妻が伸びて手近なひとりを絡め取り、激しくまたたきながら痺れさせる。

 魔法の王国の上半身マッチョ騎士が得手とする超能力(サイオン)放電剣(エレクトロ・ソード)】。

 強烈な電撃をまともに食らった喫煙者は抵抗の余地もなく感電して崩れ落ちる。


「了解なんだナ!」

「言われるまでもありませんぞ!」

 床を転がる日本刀を踏み折りながら太っちょイワンが続く。

 その背後から生え際が後退したゴードン氏が【精神剣(マインド・ソード)】を伸ばす。

 鞭のようにしなる実体のない黒い刃に触れた敵は、その場に崩れ落ち昏倒する。

 こちらも先程の電撃と同様、抵抗の余地などあろうはずもない。


 正直、彼らの手際の良さも中々だ。

 つい先日に装脚艇(ランドポッド)で魔獣を相手に苦戦していた時とは比べ物にならない。

 よくよく考えれば彼らも来日するまでEU圏の騒動の収拾に駆り出されていた。

 その際に、こうした暴徒や、あるいは薬物で急造された異能力者程度の集団への対処は日常茶飯事だったのだろう。

 そう考えて口元に笑みを浮かべる舞奈の背後で――


「――もうひとつの出入り口を1匹……いえ2匹が通りました!」

 マーサが手を止めて叫ぶ。

 使い魔の操作に専念しなければならなくなったか。


「こっちはまかせた!」

「頼んだでゴザル!」

 移民のひとりの喉を突いた鉄パイプをそのまま放り捨てつつ舞奈は走る。


 広い搬入スペースの奥にある通路に飛びこむ。

 いつかジェイクに抱えられ、あるいは麗華を抱え、錆喰い虫が降らせてくる落下物を避けつつ走った廊下を、記憶とは逆方向に駆け抜ける。


『舞奈様!』

「おまたせ!」

「――!」

 逃げた2匹はすぐに見つかった。

 歯をむき出しにして行く手を阻む猫に足止めされていたらしい。

 マーサの手管も大したものだ。

 ナイフを手にし、浅黒い肌をした大柄な2匹の喫煙者は後からあらわれた女子小学生に狙いを変更したようだ。


「――! ――!」

 叫びつつ、小柄な子供めがけて身をかがめながら斬りかかってくる。


「ここはあんたの国じゃねぇ! パンツ履いて日本語で喋れ!」

 舞奈は苦も無く凶刃を避ける。

 そうしながら薄汚く口元を歪めた男の顎をハイキックで粉砕する。

 力の抜けた男の手からナイフを奪う。

 まともに手入れもされず錆びの浮いたそれを、続けて襲いかかってきたもう1匹の喫煙者の剥き出しの股間に差しこむ。

 勝負は一瞬で終わった。

 のたうち回る2匹のみぞおちを踏み抜いて気絶させた後……


「……こいつら、今なんて?」

『あ、いえ、単なる悪口ですよ。舞奈様が気にする必要もないような……』

「そっか」

 マーサの猫に後をまかせて来た道を戻る。


「戻ってきたでやんす!」

「おお舞奈殿! こっちは片付いたでゴザル!」

「おう! お疲れ様」

「貴女もね!」

 表の搬入スペースに戻ってくると、一行は不法移民の殲滅に成功していた。

 本当に何の山も谷もない圧倒的な勝利だった。

 まあ舞奈的には余計な面倒がなくて良いが。


 薄汚れた広間のあちこちで、浅黒い大柄な男たちがのびている。

 そんな酷い絵面を見ながら、


「後は支部を経由して警察にまかせるのが良いでゴザルな」

「さっすがドルチェさん。話が早いぜ」

 太っちょドルチェが携帯を取り出してかける。

 背後で倒れている女性の代わりにシャツの胸元のアニメの女の子の顔が少しばかり不法移民の血反吐で汚れているのは御愛嬌。


「病院の手配もお願いするでやんす」

「見たところ外傷は無さそうですね」

「術で眠っている以外は異常ないでやんす」

 やんすとマーサは女性を介抱していた。

 女性は手足の拘束を解かれ、衣服も直されて穏やかな寝息をたてている。

 ついでに明らかにここにあったものじゃない清潔なタオルケットがかけられているのは2人の魔術師(ウィザード)どちらの計らいだろうか?


 チームに慣れた人間が多いと後の始末も楽で良い。

 舞奈がほくそ笑んでいると……


「……むむ。ニュット殿、ちと取りこんでいるようでゴザルな」

「何があったのか?」

「もうひとつのチームでも悶着があったようでゴザル」

 携帯を片手にドルチェが言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ