13.鋼の意志
陰険で狡猾な「鼠」は、夢にも思わなかっただろう。
数十年、組織のあいだを渡り歩いて無事だった。表向きはただの情報屋、その実、あらゆる勢力に目を張り巡らせた、知られざる暗黒の国の王。
それが、こんな普通に見える書店で、音もなく、痕跡も残さずに死んだ。
彼が誇った「鋭さ」の上で。
セリスは座り直したが、針の筵にいるようだった。
カップを持つ手が微かに震える。彼女は、隣のカウンターに置かれたガーゴイルへ、堪えきれず目をやった。
つい先ほど、生きた人間を極めて残忍な姿で呑み込んだ悪魔が、今はこうして、静かな黒い像に戻っている。
何事もなかったかのように。
置かれた像は、位置すら動いていない。扉の方を向いて、黙ってしゃがんでいる。
ただ、気のせいかもしれないが――その血の赤い目が、さっきより鮮やかになったように見えた。
セリスは、何事もなかったように階段を降りてくる彼方を見て、思った。
(これは、警告だ)
彼は、ローリーの不敬と疑いをとっくに見抜いていた。だが、指摘するのは不屑として、ガーゴイルに、あの無知で無謀な男を片づけさせた。
あまりに軽やかに。
自分で手を下すことすらせず、死に際の醜い姿も見たくないから、適当な口実をつけて席を外した。
いや、口実ですらなかった。「用事がある、五分で足りる」――それは、二階に上がって降りるあいだに、ローリーを殺す時間のことではなかったか。
これこそ、黒の魔術師の気質だ。高慢で、優雅で、残忍で、陰湿で。狩人よりも暴力を崇める。
だからあのとき、グリムがここに現れたのか。
近年の黒の魔術師の象徴ともいえる破壊級の強者が、この店主と、少なくとも親しい友人のはずだ。
「さっき、何か言いかけましたよね。考えがあるなら、遠慮なく。できる限り力になりますよ」
彼方は穏やかにセリスへ笑いかけ、自分の席に戻った。
セリスははっとし、ガーゴイルから視線を引き剥がした。固くなって言う。
「い、いいえ。ただ……もう一冊、貸していただけないかと。すみません、私の供の者が、先ほどは失礼を。ですが、あれは私の意思ではありません」
この瞬間、彼女は自分が途方に暮れた少女のように感じていた。先ほど霜牙の頭領の本拠を潰し、併合した冷血な狩人ではなく。
だが、ついさっきまで話していた人間が、すぐ傍らで一瞬のうちに殺され、痕跡も残らない。
肌で感じる、すぐ隣の死。
恐怖を痛感せずにはいられない。
そしてセリスにとって最も恐ろしかったのは、ローリーに抗う余地がなかったことではなく――自分が、何も反応できなかったことだ。
つまり、あのときガーゴイルが自分を狙っていたなら、自分もまた、音もなく消えていた。
以前の彼女の態度が敬意だったなら、今は、内心からの畏怖だ。
彼方は思わず笑った。
「何の問題もありませんよ。ここは本屋です。借りたいなら、好きに選んでください。棚の本を見ますか」
「ただし、一度に三冊まで。買うなら値は張ります。それと、あなたの後ろの棚の本だけです」
彼はセリスの背後にある三つの棚を指した。そこにあるのは、彼がすでに読み、複製を保存した本だ。
セリスは首を振った。この広大で神秘的な書庫を、気ままに覗くなんてできるはずがない。前回の『血噛みの頁』も、まだ序章で止まっている。これ以上踏み込めば、禁忌の言葉を直視して、精神が狂うのが怖い。
実力を上げるまで、待つしかない。
「どうか、私に合う本を、もう一冊。私の意志は、あまりに弱いので」
彼女は椅子に腰かけ、両手を膝に置いて、おずおずと言った。二十を過ぎた成熟した美貌の女が、今は、かわいがられたい小猫のように見える。
(この令嬢の態度は、どうにも妙だ)
彼方が席を外して五分で、彼女は虎にでも出会ったような顔をしている。話し方まで、一段低くなった。心に何か打撃を受けたらしい。
(このあいだの唯一の変化は、あの急用で去った供の者だ)
彼は二階にいたとき、階下から言い争う声を聞いていた。
(なるほど)
この供の者は、令嬢がこんな古びた店に身を落とすのは不適切だと思ったのだろう。彼を「詐欺師」から遠ざけようとした。だがセリスは彼への信頼を築いており、拒んだ。
そして二人は別れ、あの供の者は家へ報告に戻ったのだ。
(ああ、それらしい。これぞ、ひどい男に引っかかる令嬢、というものだ)
「それでは。確かに一冊、勧められる本があります」
彼方は立ち上がり、棚から一冊を抜き、軽く埃を払った。振り向いて、目を細める。
「ところで。あなたのあの供の者、目つきが良くなかったですよ」
「絶対に忠実、などという言葉は、控えたほうがいい」
セリスは先ほどの出来事で、すでに迷い、揺れていた。
「ですが……」
白の魔術師が古から受け継ぐルーンの力、とりわけこの「忠誠」の烙印は、上層の貴族や富豪のあいだで、非常によく使われる。
もっとも、描く者によってルーンは違い、解除の方法を知るのは本人だけだ。
もしローリーの烙印が失効していたのなら――それはつまり。
グウィリム・ブレイディ。父親が養う白の魔術師が、解除のルーンを、誰かに売った可能性がある。
彼方は手のなかの本を差し出し、低く言った。
「他人は地獄です。人の考えは、正しく測れない。どんな手段でも、他人の心を、そのままあなたの目の前にはさらせない」
「頼れるのは、信じられるのは、あなた自身だけです」
「ですから、励みなさい。あなたが鋼のように堅ければ、誰もあなたを倒せません」
セリスは両手で受け取り、表紙を見て呟いた。
「鋼……」
彼方は微笑んでうなずく。
そう、『鋼の意志』だ。
「読んでみてください。何か掴めれば、それが助けになります」
「そうすれば、いつか、振り返ったとき、無為に過ごしたことを悔やむことも、卑しく俗な生を恥じることもないでしょう」
「あなたには、使命がある」
セリスが店を出て、雨のなかにぼんやり立ったときも、店主の言葉は耳に残っていた。
彼女は手のなかの『鋼の意志』を見つめ、ゆっくりとページを開く。
その瞬間、名状しがたい力が、心智と魂を満たした。目の前のすべてが、隠しようなく見えてくる――そんな感覚だった。




