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村祭りの準備

 トムが首飾りをもらってから数日。


 ルーベル村は少しだけ慌ただしくなっていた。


 理由は単純だ。


 夏祭り。


 ルーベル村では毎年この時期になると、小さな祭りが開かれる。


 豊穣への感謝。


 秋の豊作祈願。


 そして何より。


 皆で酒を飲むためだ。


 父はそう言っていた。


「絶対違うだろ」


 レオンが言う。


「いや、本質だ」


 父は真顔だった。


 母が呆れている。


「子供に何言ってるの」


「事実だろ」


「違います」


 即座に否定された。


 父は肩を竦める。


 レオンは笑った。


 トムも笑った。


 いつもの食卓だった。



 朝食後。


 レオンは父に呼ばれた。


「今日は森へ行くぞ」


「森?」


「ああ」


 祭りで使う薪が足りん」


 父は斧を担ぐ。


「手伝え」


「分かった」


 レオンは頷いた。


「俺も行く!」


 当然のようにトムが言う。


 当然のように却下された。


「駄目だ」


「なんで!?」


「邪魔だから」


 即答だった。


 トムは傷付いた顔をした。


 しかし。


「村長のところへ荷物届けてこい」


 父が言う。


「祭りの飾りだ」


「おつかい?」


「ああ」


「一人で?」


「一人で」


 トムの顔が少し変わる。


 十歳。


 子供でもあり。


 少しだけ大人でもある。


 初めて一人で任される仕事。


 悪い気はしなかった。


「分かった」


 胸を張る。


 父が少し笑った。


「頼んだぞ」


「任せろ!」


 たぶん任せてはいけない。


 レオンはそう思った。



 森への道。


 父と二人。


 鳥の鳴き声が聞こえる。


 木漏れ日が揺れる。


 風が葉を鳴らす。


 平和だった。


 森の入口付近なら魔物も出ない。


 せいぜい牙ウサギがいる程度。


 だから村人も普通に出入りしている。


「そういや」


 父が言った。


「トムも十歳か」


「そうだな」


「早いもんだ」


 父は空を見上げる。


「お前もあっという間だった」


「そうか?」


「そうだ」


 父は笑った。


「この前まで膝くらいだったのにな」


「そんな昔か?」


「昔だ」


 レオンは少し考える。


 確かに。


 気付けば自分も大きくなっていた。


 父の肩に届くくらいには。


「お前」


 父がぽつりと言う。


「トムのこと好きだろ」


 レオンは咳き込んだ。


「急に何だよ」


「いや」


 父は笑う。


「見てれば分かる」


「別に普通だ」


「そうか?」


「そうだ」


 少しだけ気まずい。


 父は楽しそうだった。


「まあ」


 しばらく歩いてから言う。


「お前がいて良かったと思うよ」


 レオンは父を見る。


「何が」


「トムがな」


 父は森を見る。


 穏やかな顔だった。


「昔からお前の後ろばっか追いかけてる」


 少し笑う。


「多分あいつにとって、お前は世界一格好いい兄貴なんだろうな」


 レオンは返事に困った。


 そういうことを言われるのは苦手だった。


「……大袈裟だ」


「そうかもな」


 父は笑った。


 けれど。


 レオンは少しだけ嬉しかった。



 その頃。


 トムは一人で村長の家へ向かっていた。


 祭りの飾りが入った籠を抱えて。


 少しだけ誇らしげに。


 少しだけ背筋を伸ばして。


 初めて任された仕事。


 失敗したくなかった。


「大人だからな」


 誰も聞いていないのに呟く。


 そして。


 石につまずいた。


 転んだ。


「いてぇ!」


 祭りの飾りが飛び散る。


 数秒後。


 祭りの飾りを抱え直す。


 少しだけ土が付いてしまったが、たぶん大丈夫だ。


 たぶん。


 きっと。


「……うん」


 自分に言い聞かせるように頷く。


 胸元の首飾りが小さく揺れた。


 兄とお揃い。


 母からもらった大切な宝物。


 なんだか少しだけ勇気が出る気がした。


「よし」


 トムは再び歩き出した。


 祭りの準備で賑わう村の中を。


 少しだけ背筋を伸ばして。


 少しだけ大人になった気分で。


 村長の家はまだ少し遠い。


 けれど足取りは軽かった。


 初めて任された仕事を。


 ちゃんとやり遂げたいと思った。

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