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守りし者

 荒い息が漏れる。


 トムの手を握ったまま。


 レオンは前を見据えた。


 魔物。


 十や二十ではない。


 道を塞ぐように群れている。


 牙ウサギ。


 灰狼。


 見たこともない異形。


 赤い目が闇の中で揺れていた。


 後ろからも咆哮が聞こえる。


 挟まれた。


 その事実だけは理解できた。


「兄ちゃん……」


 トムの声が震える。


 レオンは弟を見た。


 泣いている。


 当たり前だ。


 十歳だ。


 こんな状況で平気なはずがない。


 だから。


 レオンは無理やり笑った。


「大丈夫だ」


 嘘だった。


 大丈夫な訳がない。


 それでも。


 兄だから。


 そう言うしかなかった。


「俺がいる」


 トムが唇を噛む。


 そして小さく頷いた。


 最初に飛び出してきたのは灰狼だった。


 速い。


 だが。


 レオンはさらに速かった。


 身体が勝手に動く。


 父から託された剣を振る。


 一閃。


 灰狼が地面へ転がる。


 止まらない。


 二匹目。


 三匹目。


 次々に飛び掛かってくる。


 レオンは前へ出た。


 トムを背中に隠す。


 剣を振る。


 斬る。


 避ける。


 斬る。


 身体が軽い。


 恐ろしいほど軽い。


 以前の自分では考えられない。


 だが。


 それでも。


 数が多い。


 牙ウサギが火球を吐く。


 横へ飛ぶ。


 炎が木を焼く。


 今度は右から巨大な昆虫めいた異形が迫る。


 黒い甲殻。


 巨大な顎。


 剣を振り下ろす。


 硬い。


 だが斬れた。


 血が飛ぶ。


 魔物が倒れる。


 次が来る。


 次が。


 次が。


 次が。


 終わらない。


「兄ちゃん!」


 トムが叫ぶ。


「右!」


 レオンが振り向く。


 灰狼。


 剣を振る。


 首が飛ぶ。


「後ろ!」


 火球。


 避ける。


「左!」


 昆虫型の魔物。


 迎撃する。


 トムには見えていた。


 赤い光。


 魔物達の動き。


 だから。


 必死に叫び続ける。


「兄ちゃん!」


「分かってる!」


 レオンも叫ぶ。


 戦う。


 ただ戦う。


 トムを守るために。


 父との約束。


 母との約束。


 己に強く誓った、ただそれだけの想い。


 どれくらい戦ったのか。


 分からない。


 数分か。


 数十秒か。


 時間の感覚が消えていた。


 ただ。


 少しずつ前が開き始める。


 突破できる。


 そう思った。


「トム!」


「うん!」


「走るぞ!」


 二人が走り出す。


 あと少し。


 あと少しで包囲を抜けられる。


 その瞬間だった。


 死角。


 木々の影。


 今まで動かなかった一体。


 巨大だった。


 熊のような身体。


 黒い毛皮。


 赤く光る目。


 そして。


 異常な速度。


 レオンが気付いた時には遅かった。


 真横。


 剣も届かない。


 避けられない。


 死ぬ。


 本能がそう告げた。


「兄ちゃん!!」


 トムが飛び出した。


 レオンを突き飛ばす。


 視界が回る。


 地面へ転がる。


 そして。


 鈍い音が響いた。


 ぐしゃり。


「――え?」


 レオンは顔を上げる。


 トムがいた。


 立っていた。


 いや。


 立てていなかった。


 魔物の爪が。


 トムの脇腹を深く抉っていた。


 真っ赤な血が溢れる。


「トム」


 頭が真っ白になる。


「トム!!」


 叫ぶ。


 弟の身体がゆっくりと崩れ落ちた。

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