表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/21

父の剣

 それから三日。


 森の異変は続いていた。


 だが。


 ルーベル村はまだ平和だった。


 魔物が村へ来たわけではない。


 畑が荒らされたわけでもない。


 誰かが怪我をしたわけでもない。


 だから村人達の危機感もそこまで強くはなかった。


 少し気を付けよう。


 その程度だった。


 朝。


 父が声を掛けてきた。


「レオン」


「ん?」


「今日は見回りだ」


「分かった」


 最近は村の男達が交代で森の様子を見ている。


 猟師達だけでは手が足りないからだ。


 レオンも準備を始める。


 その時だった。


「待て」


 父が呼び止めた。


 納屋へ入っていく。


 しばらくして戻ってきた父の手には、一本の剣があった。


 革の鞘。


 飾り気のない柄。


 決して高価そうには見えない。


 だが。


 丁寧に手入れされていることだけは分かった。


「これを持っていけ」


 レオンは少し驚いた。


「剣?」


「ああ」


「父さんのか」


 父は頷く。


「昔買った」


「昔?」


 父が少しだけ笑う。


「冒険者になりたかった頃にな」


 レオンも思わず笑った。


 以前聞いた話だった。


 父にもそんな時代があったらしい。


「結局ならなかったけどな」


「知ってる」


「母さんにも笑われた」


 父は肩を竦めた。


「今でも笑われる」


 レオンは吹き出した。


 それは想像できた。


「ずっと持ってたんだ」


 父は剣を見る。


「いつか息子が生まれたら渡そうと思ってな」


 その言葉に。


 レオンは少しだけ目を見開いた。


 父は照れ臭そうだった。


 こういう話は滅多にしない。


「業物じゃない」


「分かる」


「だが、ちゃんと斬れる」


 そう言って剣を差し出した。


「持っとけ」


 レオンはゆっくり受け取る。


 思ったより重かった。


 けれど。


 不思議と手に馴染む。


「ありがとう」


 父は少しだけ笑った。


「おう」


「父さんは?」


「俺はこっちだ」


 肩に担いだのは斧だった。


 薪割り。


 木の伐採。


 何十年も使ってきた道具。


「こっちの方が慣れてる」


 その言葉は妙に父らしかった。


 レオンは頷いた。


 そして二人は家を出た。



 森の入口。


 猟師が二人待っていた。


 父とレオンを加えて四人。


「奥までは行かん」


 猟師が言う。


「様子を見るだけだ」


「分かった」


 全員慎重だった。


 森は静かだった。


 静かすぎた。


 鳥の声が少ない。


 小動物の気配も少ない。


 風の音だけが聞こえる。


「やっぱり減ってるな」


 猟師が呟く。


「ああ」


 父も頷いた。


 以前なら。


 兎が走り回り。


 鳥が飛び立ち。


 鹿の姿も見えた。


 今はほとんどいない。


 その時だった。


 ガサッ。


 茂みが揺れる。


 全員が振り向いた。


 出てきたのは牙ウサギだった。


 だが。


 以前見た個体より一回り大きい。


 身体の周囲には赤い光が漂っていた。


「来るぞ!」


 猟師が叫ぶ。


 牙ウサギが飛び出した。


 真っ直ぐこちらへ向かってくる。


 そして。


 口を開いた。


 ぼっ。


 火球が飛ぶ。


 以前見た火花とは違う。


 拳ほどの大きさだった。


「ちっ!」


 父が横へ飛ぶ。


 火球が木に当たり、樹皮を焦がした。


「やっぱり強くなってるな」


 猟師が顔をしかめる。


 だが。


 相手は牙ウサギだ。


 レオンは前へ出た。


 剣を抜く。


 父から受け取ったばかりの剣。


 身体が軽い。


 地面を蹴る。


 一瞬で距離を詰めた。


 牙ウサギが反応するより早く。


 剣が振り抜かれる。


 牙ウサギは地面を転がった。


 動かない。


 静寂が落ちる。


「……おい」


 父が言った。


「なんだ」


「今の速さ見えたか?」


「見えた」


「俺は半分くらいだった」


 猟師が言う。


 もう一人も頷く。


「俺もだ」


 レオンは苦笑した。


 自分でも分かっている。


 おかしい。


 以前の自分ではない。


 魔法は使えない。


 だが。


 身体だけが異様に強くなっている。


 それは確かだった。


 帰り道。


 猟師がぽつりと呟いた。


「嫌な予感がするな」


 誰も否定しなかった。


 森の奥で何かが起きている。


 そんな気がしていた。



 その日の夜。


 トムはいつものように窓際に座っていた。


 森を見ている。


「兄ちゃん」


「ん?」


「赤いのな」


「うん」


「今日もっと増えた」


 レオンは森を見る。


 やはり何も見えない。


「そうか」


 トムは少し黙った。


 そして。


「集まってる」


「集まってる?」


「うん」


 森の奥を指差す。


「いっぱい」


 その顔は少しだけ不安そうだった。


 レオンは弟の頭を撫でる。


「父さん達も見回ってる」


「大丈夫だろ」


 トムは少し考えてから頷いた。


「そうだな」


 笑顔が戻る。


 単純だった。


 レオンは少し笑った。


 そして窓の外を見る。


 静かな森だった。


 何も変わらないように見える。


 けれど。


 森の奥では。


 確実に何かが増え続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ