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小さな違和感

 それから数日。


 ルーベル村は相変わらず平和だった。


 魔法にも慣れた。


 火を出す人も。


 水を出す人も。


 風を起こす人も。


 もう珍しくない。


 最初は大騒ぎしていた村人達も、今では普通に生活へ取り入れ始めている。


「見ろレオン」


 父が得意そうに言う。


 掌から水が落ちる。


 前より量が増えていた。


「すごいな」


「だろう」


 父が胸を張る。


 その瞬間。


 横から母が言った。


「その水で畑全部潤せるなら褒めてあげるわ」


 父は黙った。


 まだ桶半分くらいしか出せない。


 レオンは思わず笑った。


 畑仕事は少し楽になった。


 火魔法持ちは焚き火の準備が早い。


 水魔法持ちは水やりが楽になった。


 風魔法持ちは脱穀が楽になった。


 村人達は皆楽しそうだった。


 ただ。


 少しだけ変わったこともある。


「最近さ」


 昼休み。


 木陰で休んでいる時だった。


 父が言う。


「鹿が減ったな」


 レオンも気付いていた。


 森の近くで見かける鹿。


 兎。


 鳥。


 その辺りが少し減っている。


「猟師も言ってた」


 父が続ける。


「奥の方へ逃げてるんじゃないかってな」


 レオンは森を見る。


 いつもの森だった。


 緑の木々。


 鳥の声。


 風の音。


 何も変わらない。


 だが。


 なぜだろう。


 最近は少しだけ静かに感じる。


「兄ちゃん!」


 その空気をぶち壊したのはトムだった。


 全力で走ってくる。


「見ろ!」


 両手を出す。


 ぽうっ。


 ぽうっ。


 ぽうっ。


 三つだった。


「増えた!」


 本人は大真面目だった。


「すごいな」


 レオンは笑う。


「四つもできそう!」


 父も笑った。


「目指せ五つだな」


「やる!」


 単純だった。


 けれど。


 その笑顔を見ると。


 なんだかこちらまで楽しくなる。



 夜。


 夕食を終えた後。


 トムは窓際に座っていた。


 最近の日課だった。


「何見てるんだ」


 レオンが聞く。


「光」


 即答だった。


「今日な」


 トムが空を見る。


「森の方、増えてる」


 レオンは少し眉をひそめた。


「森?」


「うん」


 トムは頷く。


「いっぱい集まってる」


「どんな色だ」


「色々」


 少し考える。


「でも赤が多い」


 レオンには分からない。


 ただ。


 なんとなく気になった。


「父さんに言ったか?」


「言った」


「なんて?」


「そうかーって」


 レオンは吹き出した。


 父らしかった。


「兄ちゃん」


「ん?」


「世界って変だな」


 窓の外を見ながら言う。


「前までこんなの見えなかったのに」


「そうだな」


「でも面白い」


 トムは笑った。


「今なら海も見てみたいし」


「うん」


「ダイヤルも行きたい」


「うん」


「勇者様の国があった場所も見てみたい」


 レオンは少し笑う。


「忙しいな」


「全部行くんだ」


「全部は無理だろ」


「じゃあ半分」


「減ったな」


「じゃあ三分の一」


「どんどん減るな」


 二人とも笑った。


 その時だった。


 ――オオオオオオオオオオオ……


 獣の遠吠えが聞こえた。


 森の奥。


 かなり遠い。


 村まで聞こえることは珍しい。


「狼かな」


 トムが言う。


「かもな」


 レオンは答えた。


 だが。


 なぜだろう。


 胸の奥に。


 小さな違和感が残った。


 遠吠えは一度だけだった。


 だから。


 その夜は誰も気にしなかった。


 ルーベル村は今日も平和だった。


 少なくとも。


 村人達はそう思っていた。

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