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魔法を使う魔物

 世界が変わってから二週間。


 ルーベル村では、魔法はもう珍しいものではなくなっていた。


 朝になれば誰かが火を出し。


 昼になれば誰かが水を出し。


 夜になれば誰かが光を灯す。


 最初の大騒ぎが嘘みたいだった。


 人は慣れる。


 どんなに不思議なことにも。



 その日。


 レオンは父と一緒に森へ来ていた。


 薪集めだった。


 ルーベル村のすぐ近く。


 村人達が普段から出入りする安全な場所だ。


 木漏れ日が揺れる。


 鳥の声が聞こえる。


 いつもの森。


 そのはずだった。


「最近どうだ」


 父が木を切りながら聞いた。


「何が」


「身体」


 レオンは少し考える。


「変わらない」


「嘘つけ」


 父が笑った。


「この前、丸太一人で運んでただろ」


「あれくらいなら」


「あれくらいじゃない」


 即答だった。


 レオン自身も分かっていた。


 異常だ。


 力が強い。


 疲れない。


 身体が軽い。


 以前の自分とは明らかに違う。


 だが。


 どう違うのかまでは分からない。


「ダイヤルに行けば分かるのかもな」


 父がぽつりと言う。


「ダイヤル?」


「ああ」


「本の国だろ」


「そうだ」


 父は斧を肩に担ぐ。


「今頃、学者連中は大忙しだろうな」


 その時だった。


 森の奥から物音が聞こえた。


 ガサッ。


 二人が振り向く。


 茂みが揺れている。


「牙ウサギか?」


 父が言う。


 レオンもそう思った。


 この辺りで一番よく見る魔物だ。


 大きな兎。


 鋭い牙。


 それだけ。


 子供だけでは危険だが、大人なら対処できる。


 そんな相手だった。


 茂みから飛び出してきたのは。


 確かに牙ウサギだった。


 だが。


 少し様子がおかしい。


「……なんだ?」


 父が眉をひそめる。


 牙ウサギの身体の周囲。


 赤い光が漂っていた。


 次の瞬間。


 牙ウサギが口を開く。


 そして。


 ぼっ。


 小さな火が飛んだ。


「は?」


 父が固まる。


 レオンも固まった。


 火はすぐ消えた。


 威力も大したことはない。


 だが。


 問題はそこではない。


「今」


 父が言う。


「火吐いたか?」


「吐いたな」


 牙ウサギは怯えたように逃げていく。


 あっという間に森の奥へ消えた。


 二人はしばらく黙っていた。


「見間違いか?」


 父が言う。


「二人ともか?」


「だよな」


 嫌な沈黙が落ちる。


 世界が変わった。


 人間だけではないのか。


「帰ったら村長に話すか」


 父が言う。


「ああ」


 レオンも頷いた。



 夕方。


 家へ戻ると。


「兄ちゃん!」


 トムが飛び付いてきた。


 いつものことだった。


 レオンは慣れた手つきで受け止める。


「おっと」


「見ろ!」


 トムが両手を出した。


 ぽうっ。


 右手に光。


 左手にも光。


「二個できた!」


 本人は大真面目だった。


 レオンは思わず笑う。


「すごいな」


「だろ!?」


 満面の笑みだった。


「父さん!」


 トムが振り向く。


「見たか!?」


「ああ」


 父も笑った。


「すごいすごい」


 トムは満足そうだった。


 単純だった。


 その後。


 夕食の席で森の話をした。


「火を吐いた?」


 母が首を傾げる。


「ああ」


 父が頷く。


「確かに見た」


「魔物も魔法使えるようになったのかな」


 トムが言う。


 誰も答えられなかった。


 だが。


 皆なんとなく思っていた。


 あり得る。


 人間が変わったのだ。


 魔物が変わっていてもおかしくない。


 ただ。


 その時のルーベル村には。


 まだ危機感はなかった。


「まあ牙ウサギだしな」


 父が笑う。


「火が出ても牙ウサギは牙ウサギだ」


 皆が笑った。


 トムも笑った。


 レオンも笑った。


 それが。


 本当にただの変化なのか。


 それとも。


 もっと大きな何かの始まりなのか。


 この時の彼らは。


 まだ知らなかった。

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