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混乱する世界

 世界が変わってから五日。


 ルーベル村は相変わらず騒がしかった。


 火を出せる人。


 水を出せる人。


 風を起こせる人。


 光る人。


 村人達は暇さえあれば広場へ集まり、自分達の力を試していた。


 もちろん畑仕事や家畜の世話はある。


 だが。


 仕事が終われば魔法。


 休憩中も魔法。


 夕飯の後も魔法。


 もはや祭りの延長だった。


「見ろ!」


 ぼっ。


 火が出る。


「おおー!」


 拍手。


「俺も!」


 ぴちゃっ。


 水が出る。


「すげぇ!」


 子供達が歓声を上げる。


 広場は今日も賑やかだった。


「兄ちゃん!」


 トムが走ってくる。


「ん?」


「今日は緑が多い!」


 空を指差す。


「そうか」


「昨日は青かった!」


「そうか」


 レオンには見えない。


 だが。


 トムは毎日楽しそうだった。


 マナが見えるという話は村でも有名になっていた。


 最初は誰も信じなかったが。


 赤い光が多い人は火を出し。


 青い光が多い人は水を出し。


 緑なら風。


 白なら光。


 トムの言うことは不思議なくらい当たっていた。


「今日は兄ちゃんの周り、昨日より多いぞ」


「そうなのか?」


「うん」


 トムは真面目に頷く。


 レオンは苦笑した。


 相変わらず自分には何も見えなかった。


 そんな日の昼だった。


「行商人だー!」


 誰かが叫んだ。



 広場がざわついた。


 村の入口。


 大きな荷馬車。


 見覚えのある口髭。


 いつもの行商人だった。


「おじさん!」


 真っ先に飛び出したのはトムだった。


「おお」


 行商人が笑う。


「元気そうだな坊主」


「見てくれ!」


 トムは胸を張った。


 指先に意識を集中する。


 すると。


 ぽうっ。


 小さな光が灯った。


「おおー!」


 周囲の子供達が歓声を上げる。


 最近ようやく使えるようになった光魔法だった。


 本人はかなり気に入っている。


 だが。


 行商人の笑顔が少し止まった。


「……お前らもか」


 ぽつりと呟く。


「も?」


 村長が聞き返した。


 行商人は周囲を見回す。


 火を出している男。


 水を出している女。


 風で遊んでいる子供達。


 そして。


 それを当たり前のように受け入れている村人達。


「やっぱりな」


 行商人はため息を吐いた。


「この五日間で、ダイヤルからリグリア王都まで来たんだが」


 周囲が静かになる。


「どこも同じだった」


 ざわっ。


「王都も」


「町も」


「村も」


「みんな突然魔法が使えるようになった」


「やっぱりか!」


「うちだけじゃなかった!」


「世界中なのか!?」


「世界中だろうな」


 行商人は頷く。


「王都はもっと酷いぞ」


 皆が息を呑む。


「貴族様が研究者を集めてる」


「兵士も訓練を始めた」


「魔法が使える奴を調べ回ってる」


「調べる?」


 レオンが聞く。


「当たり前だ」


 行商人は肩を竦めた。


「昨日まで存在しなかった力だぞ」


「誰だって欲しがる」


 広場が少し静かになった。


 今のところ。


 ルーベル村では皆楽しんでいる。


 だが。


 火を出せる者。


 出せない者。


 強い者。


 弱い者。


 違いは確実に存在する。


「ダイヤルはどうだったんだ?」


 村長が聞いた。


 行商人が苦笑する。


「一番大変そうだったな」


「なんで?」


 トムが首を傾げる。


「本の国だからだ」


 行商人は笑った。


「学者共が寝てない」


 周囲が笑う。


「寝てない?」


「寝てない」


「古い本を引っ張り出してる」


「昔の記録を読み漁ってる」


「倉庫に眠ってた古い魔道具まで運び出して調べてる」


「楽しそう」


 トムが言う。


「本人達は必死だろうよ」


 行商人は笑った。


 そして少し真面目な顔になる。


「でもな」


「どうやら昔は本当に魔法があったらしい」


 広場が静かになった。


 昔話。


 伝説。


 絵本。


 そんなものだと思っていた。


 だが。


 もし本当なら。


 今起きていることも説明できる。


「じゃあ」


 トムが目を輝かせる。


「勇者様も魔法使えたのか!?」


 行商人は笑った。


「たぶんな」


 トムは嬉しそうだった。


 本気で嬉しそうだった。


 レオンはそんな弟を見て少し笑う。


 勇者。


 世界。


 魔法。


 最近、トムはそんな話ばかりしている。


 だが。


 少しだけ分かる気もした。


 世界は思っていたより広い。


 そして。


 思っていたより不思議だった。


「なあ」


 トムが行商人に聞く。


「ん?」


「海の向こうもこうなってるかな」


 行商人は少し考えた。


「さあな」


 そして笑う。


「でも今頃、世界中の人間が同じ顔してると思うぞ」


「同じ顔?」


「びっくりした顔だ」


 広場に笑いが広がった。



 その日の帰り道。


 トムはずっと上機嫌だった。


「兄ちゃん」


「ん?」


「ダイヤル行ってみたいな」


「またか」


「だって本いっぱいあるんだろ?」


「お前、本嫌いじゃなかったか」


「読むのは嫌い」


 トムは即答した。


「でも見てみたい」


 それにはレオンも少し笑った。


 世界は広い。


 まだ見たことのないものがたくさんある。


 そんなことを考えながら。


 二人は夕暮れの道を家へ帰っていった。

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